ゼラ
「ゼラよ、我々は地球侵攻の準備を整えつつある。地球への本格的な侵攻の始まりだ。ゼラよ、おまえは魔獣を率いて星見市を襲え!」
ミリアムの部屋にて。
ミリアムがダエモノイド・ゼラに命令をする。
「はっ!」
ゼラと呼ばれた男は司祭のような法衣を身につけていた。
あごから長いひげを垂らしている。
「ククク! さあて人間ども! 我々の侵攻にどこまで抵抗できるか、それを見せてもらおうか。フフフフ、フハハハハハハ!」
ミリアムの哄笑が部屋全体に響き渡った。
特殊防衛隊のメンバー――。
天馬、フローネ、ツェツィーリア、ソフィーヤの四人はユーリアの司令室に集まった。
ユーリアが立って語る。
「現在、星見市は魔獣による攻撃を受けています。特殊防衛隊はただちに出撃し、魔獣を倒してください」
ユーリアからの命令が天馬に伝えられた。
「はっ!」
四人は基地の外に出撃した。
天馬とソフィーヤは前衛、フローネとツェツィーリアは後方支援だ。
天馬は次々と魔獣を斬り捨てていく。
天馬の刀がひらめくたびに魔獣は斬り伏せられていく。
ソフィーヤの槍は魔獣を貫き、絶命させる。
ソフィーヤは槍撃を繰り出し、魔獣たちをしとめていく。
フローネが流星を雨のように上方から降らせた。
何体もの魔獣が巻き込まれて倒れる。
ツェツィーリアも負けていない。
青い銃砲を出して、ビームで魔獣を撃ち抜いていく。
四人の活躍は獅子奮迅だった。
天馬がみんなに呼びかける。
「よし、この調子でいけば魔獣を全滅できるな。次の敵と交戦に向かうぞ!」
その時影から人の姿が現れた。
天馬は急に立ち止まった。
「!? 誰だ!?」
「フフフ……我が名はゼラ。ダエモノイドの一人なり。おまえたちが能力者の部隊か? 噂は聞いていたが、想像以上にやるものだな」
ゼラは白い法衣を身につけていた。
一見すると聖職者に見える。
天馬は刀をゼラに向けた。
「おまえが魔獣たちを操っているのか?」
「フッ、その通りよ」
「なら話は早い。おまえを倒して魔獣たちを退却させる」
天馬が冷静に告げた。
ゼラは笑う。
「クハハハハハ! できるかな? そんなことが? まあよい。戦いの相手にはなってやろう」
天馬は思った。
この男は強いと。
この男が武器らしきものを持っていないとすると、魔法をメインとする戦い方をするのであろう。
天馬はそう推測した。
「クックック、攻めてこんのか?」
「フン、挑発には……!? ソフィーヤ!?」
その瞬間ソフィーヤが前に出た。
それは天馬にとって意外な行動だった。
なぜかは知らないが、ソフィーヤが単独で行動したのは確かだ。
ソフィーヤは槍を持ってゼラに攻撃を仕掛けた。
「ソフィーヤ、戻れ!」
「フン! ダークバインド!」
「ああああああああ!?」
ゼラはうれしそうな顔をした。
ソフィーヤが闇の縄で拘束された。
「ハハハハハハ! これは恰好な人質よ!」
「く、ソフィーヤ……」
天馬が苦悩の顔を浮かべる。
これではこちらから積極的に攻めることはできない。
「フッ、この娘はこのわしが預からせてもらおうか。それでは諸君、さらばだ」
「ま、待て!」
天馬は前に出た。
とっさにソフィーヤに向かって手を伸ばす。
しかし、天馬の手は空をつかんだ。
魔法陣が回転し、ゼラとソフィーヤの姿は消えた。
「くそっ! ソフィーヤ!」
天馬は力なく刀を下ろした。
天馬の視線はただ空を見つめていた。
天馬はユーリアのもとに呼び出された。
「天馬教官……フローネさんやツェツィーリアさんの練度はすばらしいわ。二人とも魔獣とよく戦えたわね。それは二人を訓練したあなたの功績よ」
「はい……」
天馬は力なくつぶやいた。
天馬にはソフィーヤがさらわれたことが、ずっとのどもとにあった。
あの時何か行動できたのではないかと、天馬は自責の念を抱いていた。
ユーリア大佐が続ける。
「でも、今回のソフィーヤさんの失態は減点ね。ソフィーヤさんがさらわれたのはあなたの責任よ」
「……はい、わかっております」
ユーリアは矛先をやわらげる。
「とはいえ、ほかの二人から話を聞いたら、ソフィーヤさんが突出して前に出たという話じゃない。つまり、彼女は自らつかまりに行ったようなものね」
「……はい」
ユーリアが大きくため息を出した。
「それにしても、ソフィーヤさんらしくないわね。彼女はゼラというダエモノイドと因縁でもあるのかしら?」
ユーリアが思案する。
天馬にも見当がつかない。
「わたしもそこまでは……ただ彼女の父が亡くなったことしか知りません」
「ソフィーヤさんの秘密、ね……ん?」
ユーリアはテレビをつけた。
月州共和国大統領の演説が始まるからだ。
テレビには大統領が映っていた。
大統領は官邸からなにやら重大なメッセージを国民に送るようだ。
「月州の市民諸君、私は今日あなたがたに話をしなければならないことがある。月州は今、異世界から侵略を受けている。先日も魔獣による攻撃が行われた。私たちはこの情報を市民生活を脅かすものとして、秘密にしてきたが、もはやそれは不可能と判断した。市民諸君、混乱しないでほしい。恐怖に取りつかれないでほしい。だが、月州は我らの国の軍隊が必ず守る! 先日の攻撃は我らが軍隊によってはね返された。我々はこの侵略を許してはならない。必ず、私たちはあなたがたを守る。それは信じてほしい。我々はこの戦いのために立ち上がる! それでは市民諸君、失礼する」
大統領が演説を終えた。
天馬とユーリアとの間に緊張が走る。
「ついに、大統領が情報を開示しましたね」
「そうね……非常事態宣言は出されなかったようだけれど、これから忙しくなるわよ、天馬君?」
「はっ!」
天馬はユーリアに敬礼した。
「ククククク……月州の大統領はついに我らの侵略を認めたか……さて、これからおもしろくなるぞ。そう思わんか、娘よ?」
暗い陰影がある一室でゼラが豪語した。
ここにはゼラとソフィーヤがいる。
「……くっ!」
ソフィーヤは縄で縛られていた。
ソフィーヤは悔しそうにゼラをにらみつける。
「そのまなざし……覚えがあるぞ。確かダニイルとかいう軍人だったな」
「私はそのダニイルの娘です!」
「ハッハッハ! 何と! それは因縁を感じるのう!」
ゼラが高く笑い上がる。
ゼラとソフィーヤは廃棄されたデパートにいた。
その一室での会話である。
「さて、娘よ、おまえにはここで死んでもらおうか」
「私を殺しても、天馬教官が必ずあなたを倒します!」
ソフィーヤの目は天馬を信じていた。
天馬ならゼラにきっと勝つ……そんな目だった。
「フハハハハハハ! だがそうはいかん! おまえの死体を奴らのもとに届けて……」
「そこまでだ!」
その時、一人の男性の声がした。
「!? きさまら!? いったいどこから現れた!?」
ゼラが驚愕する。
「天馬教官!」
ソフィーヤの顔が柔らかさを取り戻した。
まるで花が咲いたかのように明るくなる。
天馬、フローネ、ツェツィーリアの三人がここに現れた。
「ソフィーヤ、助けに来たぞ!」
「わしの質問に答えろ! きさまらどうしてここが分かった!?」
ゼラには余裕がない。
天馬たちの出現に驚いているのだろう。
「フローネの『探知』だ。それでこの場所を割り出せたというわけだ」
「ソフィーヤさんは返してもらいます!」
「わたくしたちが相手になりますわ!」
ゼラが衣を振るう。
「フン! きさまらなど我がしもべどもで十分よ! いでよ! ブラックハウンド!」
ゼラの前に魔法陣が十数個現れた。
その中から、漆のような光沢を伴った黒い犬が現れた。
天馬たちを襲う気だ。
「ゆけい、我がしもべどもよ!」
ブラックハウンドたちが天馬たちに襲いかかる。
天馬はブラックハウンドを刀で斬り払う。
ブラックハウンドの悲鳴がこだました。
フローネは光の矢でブラックハウンドを貫く。
フローネの矢はブラックハウンドを絶命させた。
ツェツィーリアが青いビームでブラックハウンドを撃ち抜く。
ブラックハウンドは目を大きく開いて倒れた。
「どうした? これまでか?」
天馬はゼラに刀を突きつけた。
ゼラを挑発する。
ゼラは顔を歪めた。
「ぐぬう! 忌々しい奴らよ! まあよいわ! このわし自らきさまらを相手にしてやろう!」
ゼラが前に進み出た。
「くらうがいい! 雷撃!」
雷の一撃が天馬たちを襲った。
天馬たちは散開した。
天馬がゼラに接近して斬りつける。
ゼラはそれを障壁で防いだ。
フローネが大きな光の矢を出した。
「大光矢!」
大きな光の矢はゼラに一直線に進んでいく。
ゼラは二重の障壁を出してそれを防いだ。
「これでもくらいなさい! エーテルビット!」
ツェツィーリアがエーテルビットを展開した。
エーテルビットはゼラの全周囲に集まり、青いビームで攻撃する。
ゼラは全周囲を防壁で囲み、エーテルビットのビームを無力化した。
ツェツィーリアがエーテルビットを引き戻す。
「逝ねい!」
ゼラが天馬に拳を繰り出してきた。
天馬は腹部にそれを受けて吹き飛ばされた。
「ぐはっ!?」
天馬が床に横たわる。
「逝ねい! 雷光破!」
ゼラが雷の球を三人の間に出現させた。
ゼラは雷の光をバーストさせる。
雷光破が三人を包み込んだ。
「うおおおおおおお!?」
「きゃああああああ!?」
「ああああああああ!?」
三人が悲鳴を上げる。
雷光破は三人を圧倒した。
「癒しのしずくよ、ここに」
フローネが回復魔法を唱える。
三人の体力は完全回復した。
「!? 回復か!? ちいっ! 厄介な能力を!」
ゼラが吐き捨てた。
「死ね! サンダーボルト!」
雷が上方から次々と降り注ぐ。
ゼラのサンダーボルトは強力だった。
まともにこれを受けたら間違いなく戦闘不能だ。
天馬は上に障壁を展開した。
「くっ!?」
さすがに天馬一人の障壁で抑えられるほどゼラのサンダーボルトは甘くなかった。
フローネがすかさず、障壁を出した。
二人分の障壁によってサンダーボルトは防がれた。
「無駄だ! サンダーストーム!」
ゼラの雷電の嵐が天馬たちに襲いかかった。
「教官!?」
叫ぶソフィーヤ。
ソフィーヤの顔が悲痛になる。
すさまじい光と爆音が起こった。
天馬たちは爆煙の中に呑み込まれた。
その瞬間、中から天馬が飛び出てきた。
「何!?」
天馬はゼラに光の斬撃を叩き込んだ。
ゼラには障壁を出す暇もなかった。
天馬の一撃がゼラを斬り裂く。
「ぐはっ!? この、わしが……!?」
ゼラはあおむけに倒れた。
天馬は刀でソフィーヤの縄を斬った。
「大丈夫か?」
「はい、教官のおかげです」
「さて、帰ろうか」
天馬がソフィーヤに手を出す。
「はい」
ソフィーヤが天馬の手を取った。
ソフィーヤは天馬たちによって救出された。
ソフィーヤは墓参りした。
そこには天馬もいっしょだった。
それは父ダニイルの墓で十字の形をしていた。
「これは……君のお父さんの?」
天馬が尋ねる。
「そうです。父はゼラに殺されました。……私のせいだったんです。私が捕らわれて、父はゼラに殺されたんです」
「そう、か」
天馬はつぶやくしかなかった。
「でもふしぎですね」
ソフィーヤが目をつぶってほほえむ。
「ふしぎ?」
「はい。ぜんぜんうれしくないんですよ。父の仇を討ったはずなのに……」
「結局はそれは復讐だ。復讐は人の心を満たさない。それだけだろう?」
「そう、ですね。きっとそうです」
天馬とソフィーヤのもとに雨が降ってきた。
その雨はまるで悲しみのようだった。
雨は徐々に勢いを増してきた。
天馬とソフィーヤは傘をさして基地に帰った。




