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ホルストとの決闘

天馬はツェツィーリアの家に通された。

ツェツィーリアの家は広大な敷地を持つ邸宅で、貴族の屋敷という趣があった。

父フーベルトと母エーファと天馬はあいさつを交わした。

天馬とツェツィーリアは客間に通された。

「なるほど……話は理解した。君はツェツィーリアとホルストの結婚に反対なわけだね?」

フーベルトがいかつい声で話す。

その声はいかにも軍隊で鍛えられたものだった。

「そうです」

天馬は毅然と返す。

天馬はフーベルトから軍人特有のオーラを感じ取った。

フーベルトの目が、体が、それを如実に語っていた。

「ふむ……ツェツィーリアよ、おまえはホルストとは結婚できないというのだな?」

「はい、お父様……わたくしはホルストと結婚するのは嫌です」

ツェツィーリアの声には覇気があった。

それは明確に拒絶の意思。

ツェツィーリアは自分の意思を父に叩きつけた。

フーベルトはしばし考え込んだ後。

「ふむ……よかろう。ホルストとの結婚を白紙にしてもよい」

「本当ですか!?」

ツェツィーリアが意外な言葉に驚く。

ツェツィーリアの表情がぱーっと明るくなる。

何か希望が照らしたような顔だ。

「ただし、条件がある」

「条件?」

天馬が問い返す。

「そうだ」

フーベルトは断言した。

「その条件とは?」

天馬が追求する。

「御使君、君がホルストと決闘したまえ。そして君が勝ったなら、ツェツィーリアとホルストとの結婚を無効にしよう。この条件を飲むのならいいだろう」

「わかりました」

天馬が即決する。

「教官!?」

ツェツィーリアが驚きの声を発する。

「ツェツィーリア、要は俺が勝てばいいのだろう?」

天馬は二っと笑った。

それに対してツェツィーリアは心配なのか不安のまなざしを送る。

「教官はホルストの強さを知らないからそう言えるんですわ! ホルストはわたくしよりもはるかに強いんですのよ!」

天馬はうなずいた。

「それでも勝つさ。俺は勝たねばならないんだ。君のためにも、ね」

「教官……」

ツェツィーリアは押し黙った。

もうこれ以上何も言えないのだろう。

そこでフーベルトが発言する。

「よし、決まったな。では次の土曜日にスタジアムで決闘をすることにしよう。それでいいかね?」

「はい、かまいませんよ」

天馬の顔には猛獣のような表情があった。

天馬は勝つつもりだ。

それが自分より格上の相手であろうと。

天馬は勝たねばならない。

ツェツィーリアのためにも決して負けられない。

そして当日はすぐにやって来た。


土曜日――決闘当日。

ツェツィーリアは白のロングスカートをはいていた。

「教官……」

ツェツィーリアは祈るような目で。

「どうした、ツェツィーリア?」

「必ず、勝つと約束できますか?」

ツェツィーリアが青い瞳で見つめてくる。

ツェツィーリアの瞳に不安があるようだった。

天馬はその不安を払しょくするように。

「ああ、俺は必ず勝つ。ツェツィーリアの未来がかかっているんだ。負けられないさ」

天馬はほほえみかけた。

ツェツィーリアを安心させる。

天馬は青のプロテクターをすでに装着していた。

手には白銀の刀を持っている。

決闘の準備は万全だ。

「それじゃあ、行ってくる」

「教官……お気をつけて……」

天馬は真剣な表情でうなずいた。

それから天馬はスタジアムの競技場に入った。

競技場には黒いプロテクターと金髪、イケメンの男が立っていた。

「ハロー。君が御使 天馬君でいいのかな?」

「そうだ。俺が御使 天馬だ」

この男がホルストか。

その瞳は青く、どこか猟犬のようであり、鼻筋はくっきり、顔つきは天使と思えるほど整っている。

もっともこの男から感じる第一印象は天馬には悪魔とも思えたのだが。

「まったく、青天の霹靂だよ。ぼくとツェツィーリアの婚約が破棄されかねないとはね。君はそんなにぼくとツェツィーリアを引き裂きたいのかい?」

ホルストは顔を上に上げて露骨に見下す。

この男がいかに傲慢か、それがわかるような態度だった。

この男は基本的に女性には優しく、男にはそっけないのだろうが……。

そんなホルストから天馬はナルシシズムを感じ取った。

「ツェツィーリアがおまえを嫌う理由が分かったような気がするよ」

天馬はホルストの挑戦的な瞳に反対する。

天馬は初対面でこの男が嫌いになった。

天馬はよほどのことがない限り、相手を嫌いになることはない。

その天馬に嫌いにさせたのだから、この人物はよほど横柄な性格に違いない。

ただし、性格と能力はイコールではない。

どんなに横柄でも強い奴はいる。

そして天馬はホルストの隙の無い立ち振る舞いから、この男が強いことも読み取った。

「女遊びが好きなようだな?」

「……さて、どうだろうね?」

「はぐらかすな。おまえはツェツィーリア以外の女、それも複数の女と関係を持っている。おまえの匂いには女性のものがある」

天馬はホルストを弾劾したつもりだった。

しかし、ホルストはまったく悪びれたような様子はない。

ホルストは天馬の嗅覚に一種の称賛を思えるような顔つきをした。

「ヤコブという人物を知っているかい?」

急にホルストが話題を変えた。

ヤコブ……それは天馬にとって常識だった。

「ヘブライ聖書に出てくる人物か。イスラエル民族の祖とされる人物だ。そのヤコブがどうかしたのか?」

ホルストは天馬の知識を高く評価したのであろう。

その顔がまた美しくほほえんでいた。

「ヤコブには妻が二人いた。一人は姉のレア。もう一人は妹のラケル。そしてヤコブには側女が二人いた。つまりヤコブには四人の女性がいたわけだ。このぼくの場合も同じことだよ」

ホルストは自分の立場を平然と正当化してみせた。

しかも、聖書の知識を使って。

「そんなに多妻が好きならアラブ人の国に行ったらどうだ? なんならムスリムにでもなればいい。一人四人まで妻を持てるんだろう?」

「……」

ホルストは黙って天馬を見た。

明らかに天馬の言葉はホルストを不快にさせた。

「案外、饒舌なんだね、君は?」

ホルストが皮肉のスパイスを利かせる。

「別に……もうしゃべることもないさ」

天馬は刀を向けた。

ホルストがバスタードソードを出す。

もはや言葉での攻撃は意味をなさない。

互いに武器を持って戦うのみ。

二人は即座にそれを理解した。

二人が床を蹴ったのは同時だった。

二人は互いに武器をぶつけ合った。

刀とバスタードソードが斬り結ぶ。

天馬が刀を振るう。

天馬の連続攻撃がホルストを襲った。

その刃は鋭くキレがあった。

だが、ホルストは涼しい顔だ。

天馬の攻撃をバスタードソードで軽く受け流す。

天馬は思った。

この男は強いと。

さすが、ツェツィーリアから強いと言わせることはある。

ホルストがバスタードソードを振るう。

それは流麗な剣だった。

流れるように天馬にバスタードソードが襲いかかる。

天馬はそのすべてを防ぐ。

ホルストの実力は自分より上だ。

天馬はそう看破した。

だが、ホルストが格上ならそれはそれで対応のしようがあるというものだ。

何より、ホルストはこちらをなめている。

見下している。

この慢心に隙が生じる。

天馬は逆に彼の余裕を利用してやればいい。

「へえ、ツェツィーリアが認めるだけあってやるものだね。いいさ。このぼくの力の一端を見せてあげようじゃないか。はっ!」

天馬はバックステップして、ホルストと距離を取った。

ホルストの剣に現れたのは紅蓮に輝く炎。

どうやらホルストは炎属性を使うらしい。

「くらえ! 火炎刃!」

ホルストが炎の刃を天馬に向かって飛ばした。

飛来する炎の刃は天馬に一直線に飛んでくる。

「はっ! 天光刃!」

今度は天馬が光の刃を飛ばした。

光の刃と炎の刃が衝突して爆発が起こる。

天馬は衝撃に備えた。

突然、爆風の中からホルストが現れた。

ホルストは天馬に斬りかかる。

ホルストは天馬に対してバスタードソードを振るった。

「くっ!?」

天馬は防戦一方に追い込まれた。

「フハハハハハー! どうした? それがおまえの力か? ハハハハハハハ! このぼくに恥をかかせたんだ! 安らかに戦いが終わると思うなよ? このままなぶり殺しにしてくれる!」

ホルストの剣があらゆる角度から襲いかかる。

ホルストはこの戦いで天馬が死んでも、『事故死』だと考えているのだ。

「はああああああ! 死ね!」

ホルストは炎の斬撃を繰り出した。

荒ぶる炎が剣にまとわれて天馬を斬ろうとする。

天馬は天光斬を出した。

光の斬撃と炎の斬撃がぶつかり合った。

威力はホルストの方が上だった。

天馬はプロテクターにかすり傷を負った。

「フハハハハハー! やはりぼくが勝つんだ! この勝負、もらった! ツェツィーリアはぼくのものとなるのさ!」

ホルストのうざい声が天馬の感に触った。

天馬は負けるつもりはない。

ましてや、負けてやるつもりもない。

天馬はこの勝負に勝つつもりだった。

炎の斬撃に気をよくしたのか、ホルストは炎の斬撃を連続で繰り出す。

炎の斬撃が天馬を襲う。

しかし、ホルストの強さもなかなかで、隙を見せない。

「ハハハ! どうした? ガードするだけならこのまま削り殺してくれる!」

ホルストの斬撃が天馬に向けられる。

ホルストの一撃一撃がパワーとスピードを上げていく。

「ぐうっ!?」

天馬は防戦一方だ。

それに対してホルストは余裕の笑み。

ホルストが決め技を出す。

「さあ、これでとどめだ! 火炎王斬かえんおうざん!」

膨大な熱量の炎が天馬に迫り来る。

天馬は炎の斬撃に呑み込まれた。

「フハハハハハハー! どうやら死んでしまったかもしれないな。あれだけの炎に耐えられる奴はそう多くない。さあ、紅蓮の炎の中で燃え尽きるがいい!」

「それはどうかな?」

「!? な、何!?」

天馬はホルストにできた隙を逃さなかった。

天馬は膨大な炎の塊を斬り裂いて、前に出た。

天馬の決め技が光る。

天馬の刀が輝き渡る。

「天光覇斬!」

今度は膨大な光がホルストを呑み込んだ。

「ウオオオオオオオ!?」

ホルストのプロテクターは全身をボロボロにされていく。

ホルストは倒れた。

「バカな……このぼくが……負けるなんて……」

天馬はホルストが立ち上がるかどうか見守っていた。

ホルストはダウンしたまま起き上がれなかった。

「勝負、そこまで」

厳粛な声が響く。

フーベルトの声だ。

「フーベルトさん」

天馬はフーベルトに向かいなおる。

「御使 天馬君、君の勝ちだ。約束通り、ツェツィーリアとホルストの結婚は無効だ。見事だった」

フーベルトがほほえむ。

彼は天馬に最大限の賛辞を送った。

「教官!」

その時ツェツィーリアの声がした。

ツェツィーリアは天馬に跳びついてきた。

ツェツィーリアは両腕を回して天馬を抱きしめる。

その目には涙があった。

「ツェ、ツェツィーリア!?」

天馬は動揺しつつも、ツェツィーリアを優しく受け止める。

「本当に、本当にありがとうございます!」

ツェツィーリアは泣き出してしまった。

涙が次々とこぼれてくる。

よほどうれしかったのだろう。

それをフーベルトはほほえましく見守っていた。

「フフフ……ツェツィーリアよ、私はこの結果に満足している」

硬い軍人の顔に今は柔らかさがあった。

「? お父様? どうしてですの? わたくしはお父様に逆らったんですのよ?」

フーベルトは嬉しそうに笑う。

「フフフッ、他人から与えられたものに大きな意味はない。自分の力で手に入れたものに価値がある。人は挑戦するだろう。だが、すべての挑戦が実を結ぶわけではない。必ず、失敗、挫折する。問題はそれをどう克服するかだ。ただ、否定し去るのか、重大な教訓を学び取るのか、それだけで違ってくる。ツェツィーリアよ、おまえは親の言う通りこれまでは生きてきた。これからは自分の意思で生きていけ。それではホルストは私が医務室に運ぼう。ツェツィーリア、私のラピスラズリ、良い上官を持ったな」

「お父様……」

フーベルトは天馬とツェツィーリアに見送られてホルストを運んでいった。

ツェツィーリアは初めて父の心の琴線に触れた気がした。

ツェツィーリアはじっとフーベルトの背中を見続けていた。

まだ、父親から本音を聞きたがっているかのように。

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