ツェツィーリアとの決闘
ツェツィーリアは屋内射撃場を借りて射撃の訓練をしていた。
ツェツィーリアの射撃精度はフローネとは比べ物にならない。
ツェツィーリアの特技は射撃だった。
彼女は銃砲を構えて、的の中央部を正確に射抜く。
射撃の、完成された成果がそこにはあった。
今の天気は雨だ。
外は雨が降っている。
ツェツィーリアは真剣に訓練に取り組んだ。
あの天馬とのやり取りがウソのようだ。
ツェツィーリアの額から汗が流れた。
ツェツィーリアは持っていたタオルで汗をふく。
そしてもう一度的を出現させて、銃砲のビームを狙いを定めて発射する。
ツェツィーリアは男性不信だった。
天馬に逆らったのはそれが大きい。
ツェツィーリアは男に負けたくないと思っている。
厳しい訓練を自分に課すのはすべては男性というものを信じられないからだ。
男に負けたくない。
それはツェツィーリアの意地だった。
ツェツィーリアは父親のことを思い出す。
ツェツィーリアは実の父を否定できる。
ツェツィーリアと父との関係は良好ではなかった。
それがツェツィーリアの男性不信の正体なのだ。
ツェツィーリアは頭を振りかぶった。
「いけない。集中しないと……」
ツェツィーリアは銃砲を構えてビームで的を射る。
的の中心から少しずれた。
狙いが甘かったのだ。
「フウ……少し休んでからの方がいいかもしれませんわね」
ツェツィーリアは用意していたスポーツドリンクを飲んだ。
天馬はシミュレーションルームで訓練していた。
ここは能力者の訓練を前提とした施設だった。
許可を取ればだれでも利用できる。
おそらくツェツィーリアの能力は遠距離攻撃だ。
天馬はツェツィーリアの能力を調べようとしたが、機密の壁に阻まれた。
そこでしかたなく推測に頼ったトレーニングをしているのだ。
天馬の能力は『斬撃』だ。
したがって、原則接近しなければ力を発揮できない。
そのため、ツェツィーリアに近そうなモデルを選ぶ。
天馬の訓練は射撃武器をいかに無力化するか、にあった。
多分、ツェツィーリアは遠距離攻撃で一方的になぶる戦いをしてくるだろう。
それをいかに突破して接近するか……それが天馬に問われている。
天馬は斬撃を振るって射撃を『斬る』。
ツェツィーリアは天馬にとって不利な能力者だ。
そのため、天馬の訓練は射撃をいかに無力化して接近するかに重点を置いた。
天馬の刀がひらめく。
天馬の前で射撃武器が斬り裂かれる。
次はマシンガンだ。
天馬はマシンガンの弾薬を防ぐと、回り込んでからマシンガンに接近し、それを斬り捨てた。
「ふう……」
「教官、お疲れ様です!」
「フローネか」
フローネはこうして自分とは関係のない戦いでも天馬を支えようとする。
フローネはスポーツドリンクを持ってきた。
「これを飲んでください」
「ああ、いただこうか」
天馬はタオルで汗をふいた。
それからドリンクに口をつける。
水の味が生き生きとしている。
フレッシュな味だ。
舌に水分がいきわたる。
「教官……」
「? どうした?」
「絶対に、ぜーたいに、ツェツィーリアさんに勝ってくださいね!」
フローネが励ます。
その目からフローネが心からそう思っていることが分かる。
「ああ、もちろんだ。負けるようでは教官失格だからな」
天馬はフローネの前で静かにうなずく。
このまま教官を続けるためにも、ツェツィーリアには絶対に負けられない。
スタジアムにて――。
決闘の場所はスタジアムだった。
スタジアムには誰もおらず、貸し切り状態だった。
「ついにこの日が来たわね」
ユーリアが感慨深そうに言った。
「天馬君、わかっているだろうけど、負けることは許されないわよ?」
「わかっています、ユーリア大佐」
天馬は意思のある瞳で応える。
「教官……」
フローネは心配してはいないようだ。
フローネは天馬の勝利を確信している。
「安心しろ、フローネ。俺は必ず勝つ」
「はい! 私も教官が勝つって信じています!」
フローネは祈るようなしぐさを見せた。
左手を握りこぶしにし、それを右手で包み込む。
これはシベリウス教の祈るしぐさだった。
天馬は控室からスタジアムに出て行った。
そこの中央ではツェツィーリアが立っていた。
ツェツィーリアは青いレオタード姿だった。
「フフフ……怖気づかないで来たことはほめて差し上げますわ。ですが、この勝負、私の勝ちですわよ」
ツェツィーリアは不敵な笑みを向けた。
「いや、勝つのは俺だ。教官の実力を思い知らせてあげよう」
「フン! ずいぶんと生意気ですのね! さあ、それでは行きますわよ!」
ツェツィーリアが青い銃砲を出してくる。
二人の戦いが始まった。
この戦いで天馬は勝たねばならない。
負ければ、教官を罷免される。
勝つ以外に道はない。
ならば前進し、勝利をつかみ取るのみ。
ツェツィーリアの銃砲から青いビームが発射される。
青いビームの狙いは正確無比だ。
ツェツィーリアの狙いは天馬の胴体だった。
天馬はツェツィーリア視線からその狙いを読んだ。
射撃は正確であるほど、視線に狙いが現れる。
天馬の『天光剣』がツェツィーリアのビームを無力化する。
天馬は青いビームを天光剣で防いだ。
「正確な狙いだ。さすがだな」
「フン! こんな基本的な射撃なんて受け止められて当然ですわね! ですが、これはどうですか!」
「む!?」
ツェツィーリアは銃砲の向きを変えて狙いを変えてきた。
ツェツィーリアのビームの連続射撃が天馬を襲う。
ツェツィーリアは天馬の体の部位をさまざまに狙って射撃してきた。
ツェツィーリアの狙いは天馬の腕、足、脚、胴という部位に分かれていた。
ツェツィーリアはそれらを正確に射抜く。
彼女の青いビームが嵐のように天馬に襲いかかる。
当たれば、一発で負傷するだろう。
天馬の思惑通り、ツェツィーリアは遠距離攻撃でなぶり殺しにするつもりらしい。
なら天馬には接近しなければ勝機はない。
天馬はツェツィーリアの射撃を天光剣で防ぎ、一撃もくらわない。
ここまでの戦いを、ユーリアとフローネは見守っていた。
「まあ、この程度の攻撃は防げて当り前よね」
「教官……」
フローネは祈るしぐさで戦いを見守っていた。
まだまだ戦いは始まったばかりだ。
それに天馬はまだ一撃も仕掛けられていない。
天馬の攻撃は接近できなければ意味はない。
この戦いで天馬が勝つには接近する必要がある。
天馬は上空に上がった。
「くっ!?」
ツェツィーリアは狙いを著しく乱された。
上空を飛行されてはツェツィーリアも狙いは定めにくい。
天馬はそのままツェツィーリアに斬りこむ。
天馬の『天光斬』だ。
「くうっ!?」
ツェツィーリアはバックステップで距離を取り、天馬の斬撃をかわした。
仕切り直しだ。
天馬はさらに攻撃を続ける。
天馬は光の刃を発射した。
『天光刃』だ。
天馬の『天光刃』をツェツィーリアは青いビームで迎撃しようとする。
威力は『天光刃』の方が上だった。
ツェツィーリアは横に跳んでそれをかわす。
「よくかわしたな。さすがツェツィーリアだ」
「フン! なめないでくださる? わたくしの実力はこんなものではありませんわよ!」
「さあて、決めさせてもらうぞ?」
「甘い、ですわ!」
ツェツィーリアのビームが天馬を襲う。
しかし、もはやツェツィーリアのビームは天馬にかすりもしない。
天馬はツェツィーリアの発射の癖を把握したのだ。
天馬にはツェツィーリアの狙いが手に取るようにわかった。
それをかわすことなど造作もない。
もはやツェツィーリアのビームでは天馬を止められない。
それを見ていた二人は……。
「さすがね、天馬君」
「これが、教官の戦い……」
二人が言葉を漏らした。
それには賛嘆というニュアンスが込められていた。
「くっ! この!」
一方ツェツィーリアには焦りが生じる。
そして天馬の方は回避を最少化させていく。
天馬のかわす動作がどんどん短くなっていく。
天馬は天光剣を構えたまま、正面からツェツィーリアに接近した。
この一撃で勝負をつけるつもりだ。
しかし。
その瞬間、ツェツィーリアが短い笑みを出した。
天馬はとっさに経験的にかわしていた。
天馬の体を二本の細長いビームが襲う。
「まさか、そんなものまでマテリアライズできるとはな」
天馬の声に込められたのは称賛。
ツェツィーリアは六基のビットをマテリアライズし、天馬を撃ってきたのだ。
「よくわたくしを追いつめたと、ほめて差し上げますわ。ですが、この攻撃はかわせますか?」
ツェツィーリアのビットがまるで泳ぐ魚のように天馬に襲いかかってくる。
天馬は上空に跳んだ。
ビットは全周囲から天馬を攻撃してくる。
天馬はかわすだけでやられっぱなしだ。
その上、ツェツィーリアの青いビームが天馬を狙ってくる。
ビームが天馬の左肩をかすった。
「ウッフフフフフフ! どうですか! 今なら降参を認めてもよろしいですわよ?」
ツェツィーリアは余裕の笑みだ。
「言っただろう? 俺は必ず勝つと!」
「甘いものですわ!」
ツェツィーリアはビットを天馬の全周囲に展開した。
このままでは再び、ツェツィーリアのいい的だ。
ツェツィーリアは銃砲にエーテルをため始めた。
「ウッフフフフフ! これが私の最強技ですの! これで終わり(Das Ende)ですわ! ツェアシュテールングス・カノーネ(Zerstörungskanone)!」
あれだけのエーテルエネルギーをくらったら、一撃で戦闘不能は確実だ。
ツェツィーリアは奥の手を出した。
エーテルビットが天馬の周囲をサメのように回転する。
天馬はさらに上昇した。
天馬を追ってエーテルビットが迫ってくる。
青い細長いビームが発射された。
天馬はそれらをすべて回避する。
その瞬間、ツェツィーリアの極大ビームが天馬に向けて発射された。
「おおおおおおおお!?」
天馬は青いビームに呑み込まれた。
ユーリアとフローネが声を発する。
「天馬君!?」
「教官!?」
さすがに二人も勝負はついたと思ったのであろう。
天馬に逃げ場はなかった。
しかし、天馬は地上に現れた。
「なっ!?」
ツェツィーリアが信じられないという思いで天馬を見る。
天馬の刀には大きな光が宿っていた。
「天光覇斬!」
「あああああああああああああ!?」
ツェツィーリアは光の斬撃に呑み込まれた。
ツェツィーリアは意識を失って倒れた。
戦いは天馬の勝利に終わった。
フローネは天馬とツェツィーリアを回復させた。
「わ、わたくしは……?」
「さすがだな、ツェツィーリア。最後の攻撃は俺も危なかった」
「そうでしたわね……わたくし負けたんですのね……」
「これで分かったかしら? 彼はあなたの教官よ、ツェツィーリアさん?」
ユーリアが言った。
「ええ、認めますわ。このわたくしを倒したんですからね……」
「ツェツィーリア、これからよろしくな」
「ええ、これからよろしく、教官」
こうして二人の決闘は幕を閉じた。
ツェツィーリアは天馬を教官として認めた。




