表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/32

薬草をとるということ






 あった。薬草発見。


 もう暗くなってきたし明日も仕事があるから寝ておこう的な考えで、どこかいい場所はないかと探し当てた木の根元に、つくしに似た草が生えていたのでこれが今日最後の仕事とばかりに鑑定。



 ホーナット草:暗く湿った場所を好む霊草。月の光で育つ。食用。希少。上級回復薬の材料にもなる。


 [詳細]



 回復薬の材料になるって記述が載っていたので頂くことに。漸く一つ五百円ゲットだぜ。


 しかし群生してると言っていた割には少ない。三つ程まとめて採取した。根ごと掘り出したから数は間違っていないはず。まぁ、あるのは分かったんだし、これからバリバリ掘り出そう。


 ウキウキしながら薬草を袋に入れようとして気付いた。


 そういえば、収納便利的なスキルも使えるんじゃなかったっけ? 試しにこの薬草を収納できるかやってみよう。


 たしか……アイテムボックス? アイテムボックスへ。アイテムボックスに入れたい。アイテムボックスへイン。


 色々な方法を試してみようかと思ったが、手にした薬草は念じ始めるとパッと消えてしまった。


 なにこれ、かっこいい。


 取り出しも同じやり方でいけた。アイテムボックスからホーナット草を取り出したいで大体オッケーだった。


 しかし、そうなってくるとこの袋二つは失敗だったな。今一番高い買い物なのに。欲かいて二つとか痛い。


 仕方ないのでズタ袋もアイテムボックスにしまっておくことに。いずれ何かの役に立つかもしれないしね。役に立って欲しいね。役に立ってくれぇ。


 仕事に失敗なんてつきものだ。次に生かせばいいんだよ。今度は計画的に買い物しよう。串焼き肉はいい。市場調査ゆえ。


 仕事の反省に薬草の採取と寝る前に有意義な時間を過ごした俺は、泥のように寝た。正直歩き詰めだったから一瞬でいけた。フルで残業した時と大体似てる。とにかく睡眠が欲しい。食事取らなくていけるなんて俺の燃費が留まるところを知らない。


 そしてブラックアウトからの目覚め。


 おお。体の調子が良い。あの仕事前の全然寝た気がしない感や酷いダルい倦怠感がない。あれか。やっぱり一度死んだから健康体で生き返らせてくれたってことか。部下の人がいい仕事してる。


 まるで十代の頃のようにむっくりと起きる。シモじゃない。体を起こす。


 少し離れた所で灰色犬が寝そべっていた。


 ビクッとしたね。しかしよくよく考えてみたらここらの森は彼らの庭になるのだろうから致し方ないことだろう。むしろ小汚いオッサンを一晩許容してくれたことに感謝しよう。


 十中八九昨日の灰色犬だと思われる。右前脚と左後ろ脚の毛が変な風に毛羽立ってる。怪我した時のだろう。


 感謝の気持ちに近づいて回復魔法を掛けてやった。近づいたら閉じていた目が開いて顔を上げてきたけど、何もされなかった。初対面で噛みつかれたのが嘘みたいな大人しさだな。


 おぅ、ズシっときた。魔力切れか。これでいつも通りの朝だな。仕事しよ。


 しかしその前に、一応これが魔力切れか確認しとくとしよう。変な持病とかじゃないよね異世界?


 じゃあステータスさん。




氏名 山中 賢

年齢 35

性別 男性

種族 人族

職業 冒険者(笑)


Lv  1


HP  21/21

MP  0/15


STR 11

VIT 8

DEX 14

AGI 10

INT 43

LUK 7


固有スキル

・言語翻訳

・空間自在 Lv1


スキル

・鑑定

・回復魔法 Lv1


残スキルポイント 2




 よし。やはり魔力が枯渇するとあのダルさが来るで間違いないらしい。体力があるときなら耐えれるな。来るとわかってたら大丈夫だ。臨時出勤みたいなもんだ。


 そうと分かればもう大丈夫。寝る前と起きた後は枯渇してもいいな。前の生活と大して変わりないしな。


 重たい体を引きずって今日も薬草を探す。灰色犬はやはり視線でこっちを追うだけでついて来なかった。傷を治してもらいに来たのかな? 医者と患者的な関係か。つまりドライ。


 えーと、鑑定、鑑定、鑑定、鑑定、違う、違う、違う、あった。




 ギモヨ草:下級回復薬の材料。ギザギザした葉の形が特徴。すり潰して傷薬等の回復薬に使われる。


 [詳細]




 ヨモギだ。ヨモギだね? 一個一個設定するのがめんどくさくなったのか名前の適当感が出てる。部下の人のハードワークに共感が持ててしまう。ご苦労様です。


 ところで鑑定先生の説明も俺の欲する知識に沿ってる気がする。


 どこかで監視されてますか? ……と、聞いてみたところで返事はない。この手の被害妄想って偶にしちゃう。部屋に一人きりの時に、見てるんだろ? とか言ってしまう。寂しい三十代にありがちなので普通のことだが、他人に見られたり知られたりしたらアレだ、死ぬ。だから独身三十代はさも知らん顔をするが、暗黙の共通認識と化している。


 同じ三十代に聞いたりしないけど、みんな家に帰ったらやってるよね。


 そんな事を考えながらもギモヨ草を掘り掘りする。仕事しながら別の事を考えるのも、もはや社会人の常識だろう。新入社員の時は、よく頭の中で映画一本流したもんだよ。


 虚ろな笑顔で。目が死んでるって、よく誉められたっけ。


 それにしてもなかなか取れないな。あれだ、指が痛い。スコップ必須。もう根ごとじゃなくて葉っぱの部分だけ千切るか? いやいかん。値段が下がってしまえば本末転倒だ。二本で一本分の買い取り値段なんてことになったら一本損したようなもんだ。品質が大切なんだよ。信用を勝ち得る事が重要。しかしこのままじゃサイクルタイムがエラい事になってしまう。ニートへの道が遠のいてしまう。


 そこでまたも閃き。


 ピーンときた。あれだ。スキル使ってみよう。


 次元断層次元断層次元空間自在空間自在空間自在僕を守って空間自在。


 これでいけたのか? 正直これ発動してるかどうかが全く分からない。エフェクトとかもない。昨日もダラダラしてる時に解除しとこうと念じたけど、いつ解除されたのか定かではない。


 大丈夫だろうか。心配だ。


 いつか大声のドヤ顔でスキル名を叫んで、発動せずに攻撃を受けたりしないだろうか。


 心配だ。


 俺の不安を余所に、スキルは無事発動していたらしい。手スコップしても痛くないどころかサクサク掘れる。思いつきだったが存外ナイスアイデアだった感ある。


 あっという間にギモヨ草四つゲットした。チョロい。


 アイテムボックスへ。


 思い浮かべるだけで手にしたギモヨ草が消える。不安になったので一度取り出してまた入れる。良かった。ちゃんと入ってる。


 さて早速二千円稼いでしまった。森に金が生えてるとか、異世界すげー。


 他にもないかと座ったまま辺りをキョロキョロ。直ぐ後ろに灰色犬。


 びっくぅ、となっても仕方ないよ。この犬の気配の絶ち方は見事としか言いようがないよ。部屋でくつろいでいるときに、あれ? こんなフサフサしたソファあったかな? ガブリんちょ、ってされても逝くまで気づかない可能性大だもの。


 俺がビクビクしているのを余所に、灰色犬は俺の脇を通り抜け、ギモヨ草があった辺りをクンクンすると明後日の方向に歩き出した。


 少し離れた場所で立ち止まり「ウォン!」とこちらに向かって吠える。


 おお、呼ばれてる感ある。森で、おおか…犬に呼ばれて更に奥へとか……いや喰われるな。全然ワンダーじゃない。


 しかし呼ばれたら付き従うのが社会人の性。のそのそと灰色犬についていく私、一冒険者。


 しばらく灰色犬の案内によって歩くこと三十分。途中にあったギモヨ草の場所はしっかり覚えておいたので、帰りに採ろう。あの大きな木の下と、あの曲がった枝の下だ。


 灰色犬の足が止まる。どうやら目的地についたらしい。


 今まで木々が空を覆い隠して昼間なのに暗い印象の森の中だったが、やけに空けた場所に出た。空が見える。


 森の中の草原のような場所だ。おうワンダー。犬だけに。考えが口に出ちゃうのが四十代。口に出さないマナーを守るのが三十代独身さ!


 ……さて、灰色犬が何をもって俺をここに連れてきたのか分からないのだが。


 肝心の御犬様は、疲れたと言わんばかりに伏せてしまわれた。よく考えれば脚に怪我してんのにね。どうした?


 とりあえず回復魔法だ。ヒールヒール。……はい、グッときたー。ダルさ百倍!


 代償の割に治ってるのかどうか分からない回復魔法にグッと来た。エフェクトがあるだけスキルよりマシな感はあるが。まぁ、灰色犬は気持ち良さげだから良しとしとこう。


 そして私は何をすれば?


 とりあえず体力回復の為に灰色犬の隣に座りこむ。どっこいせ。


 視線が低くなって分かったことが。草原の草はギモヨ草でした。辺り一面ギモヨ草。


 おぅ、なんてこったい。


 鶴ならぬ犬の恩返しでしたか。しかし傍目に気づかない程の高密度で生えてるぜ、ギモヨ草。


 つまり私に仕事をしろと?


 問い掛けたかったが、御犬様は傷を治すため眠りに入られてしまった。


 確かに、群生地、ありました。


 …………一日で終わるかな?


 結論から言わせてもらえば無理でした。


 空が見えるのにもう暗いよ。月明かりで頑張るにも限界があるよ。

 最初は丁寧に根っこについていた土を払っていた作業も、今では土がついたままアイテムボックスに。品質? よく考えたら土ついてた方が新鮮っぽいからね。取れたて大根的な。時間効率とかじゃないよ?


 それで十秒に一本ペースで草取りやってたんですが、もう除草剤撒いてやろうか! って気持ちになってきたので切り上げることに。多分三千本は余裕で超えてる。薬草なんてくそくらえ。


 それでも草原の十分の一にも達してないんだから……気が遠くなるわ!


 ……おっと。


 ほんとにクラッときた。よく考えたら飲まず食わずだった。これ換金して飯食って宿とって……いや保たない。


 とりあえず水場を探そうか。水水水。


 辺り真っ暗。草原は月明かりが差してるが、森の中は暗い。どうするかな、こうしよう。


「水を下さい」


 草原の脇に寝そべってる灰色犬に目線の高さを合わせてお願いしてみる。


 跪いてお願いだ。


 灰色犬は俺の声に目を開けると、仕方なさそうに立ち上がった。


 俺が薬草探してるのが分かってたようなので賢いだろうとは思っていたが、まさか言葉も理解できるとは。灰色犬すげー。


 灰色犬について森に入る。あれ? 結局森の中は暗いままだからはぐれるんじゃね? と思っていたのだが、灰色犬を見失わずついていける。よく見なくても灰色犬はうっすらと光ってる。ここにもあったかファンタジー。


 思わず見とれていたため、灰色犬が止まったことに気づかずドシン。地味に痛い。水場は意外と近くにあったらしい。


 灰色犬は呆れたような目つきで脇にどいてくれた。いや、多分尊敬の眼差しなんだろう。犬的な。


 水場は岩の裂け目から湧き水が吹き出してる場所だった。いただきます。うまい。生き返る。


 水っ腹になるほど水でお腹をパンパンにして飢えを誤魔化す。明日は街に戻って換金だ。そしたら飯もたらふく食える。


 ふと脇を見ると灰色犬。


 そうだ。お礼しないとな。食べられてやる変態的趣味はないので、適当に街で肉でも買ってこよう。なんせ薬草長者。余裕ですよ余裕。肉食なのは間違いないしな。食事してるのも見たことないし。あれ今ピンチ?


 俺の価値アピールのために再びの回復魔法だ。淡い緑の光が灰色犬を覆う。


 そして襲い来る疲労。今これに耐えるのは無理。


 崩れ落ちるように閉じる意識。ブラックアウトする前に見た灰色犬の視線は、呆れ果ててるように見えた。


 まさかー。そんなバカな。



ホーナット草:銀貨五十枚前後



ちなみに

下級回復薬:銅貨二十〜銀貨一枚

効果:軽傷、打ち身、擦り傷を治す


上級回復薬:金貨一枚〜十枚

効果:重傷、骨折、裂傷を治す


秘薬・霊薬:金貨百枚(白金貨一枚)〜金貨千枚(白金貨十枚)

秘薬効果:致命傷、部分欠損などを治す。


値段にバラつきがあるのは粗悪品などがあるからです。治りが遅いものもあれば瞬時に効くものもあります。下級回復薬以外は大抵は真ん中の値段で売ってあります。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ