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スキルはチートだということ



 まずは買い物が重要なのだよ。先見の明がある? よせよ、照れる。


 薬草を山のようにお持ち帰りする予定なので、薬草を入れる袋が必要だよな。あと手袋。流石に素手だとキツいものがある。スコップとかカマとかも欲しかったのだが、手袋とズタ袋二つで手持ちがなくなってしまった。


 冒険者ギルドも並ぶ大通りを北へ向かって進んでいたら、雑貨屋を見つけた。


 どうもこの街のメインストリートらしく、大抵のお店はこの通り沿いにあるっぽい。


 そこで、やべー薬草入れる袋ゲットしたら一日で小金持ちレベルになれるんじゃね? と思った俺は手袋とズタ袋を購入。


 手袋は銅貨十枚、ズタ袋は一つ銅貨三十五枚だった。


 袋を二つ買えばキレイに手持ちが無くなるが、その袋のおかげで儲けが倍。買わないわけがない。


 しかしそのためスコップなどが買えなかったのだが、まぁ問題ないだろう。なんせ帰ってきたら小金持ちだ。異世界が楽勝過ぎる。


 手袋をポケットに突っ込み、空のズタ袋を肩に背負い、スキップしたかったが人目があるため自重しつつ北門へやってきた。


 北門は俺が入ってきた南門と違い閑散としていた。門番もやるきなさげ。


 おかしいな。もっと薬草狙いの冒険者がギラギラとした血走った目で徘徊しているもんだと思っていたんだが、はて?


 疑問に思いつつも、混雑してないならスイスイ通れるからいいね、といった理由で気にせずギルドカードを門番に見せる。


「よし、いいぞ」


 あっさりと通された。ギルドカードすげー。パスポートみたい。


 北門を抜けると少し先に森が見える。あれが例の森か。あそこにあるわけですな、金のなる草が。あそこにいってこの二つのズタ袋がパンパンになるほど薬草を詰め込めば、俺の一週間分の給料以上の儲けが、なんと一日で!


 家に車までいけるわ。異世界だから馬だな。馬車。なんとこの歳で馬主。決まってしまった。白い毛並みのいい犬も買おう。幸せだ、幸せがあるよ薬草長者。人の心も癒やしてくれるとかどんだけ凄いんだ薬草。一本だけ売らずに部屋に飾ろう。毎日水をやろう。


 そんな妄想を垂れ流しながら森に入っていく。思わず笑顔も零れる。笑い方は郷に従って地元笑いだ。ウェッエッエッエッエッ。


 意外と深い森のようだ。この街に来るまでに通ってきた森とだいぶ違う。


 山歩きなんてなれてないからなぁ。注意しながら歩こう。


 三十分程森の奥へと歩いて気付いた。


 俺、薬草知らねぇ。


 なんてことだ。そういえばゲーム好きの先輩がいつも言ってたのに。情報は大事、これはガチって。つまりスマホを手放すなって翻訳だと思っていたのに。


 いや待て。まだ遅くない。


 無一文スタートだったのに、今や手袋とズタ袋を装備して、ステータスさんと鑑定先生の使い方まで熟知……そうだ、鑑定先生がいるじゃないか。


 片っ端から鑑定していけば、薬草っぽい何かにぶち当たるんじゃないだろうか?


 俺は早速目の前の紫色の葉っぱにタンポポの綿毛がついたような草を鑑定することにした。


 せい、鑑定!




 マンドラゴラ:霊薬や秘薬の材料となる草。大地のマナを吸収し根が人の形になるのが特徴。大地に出ている部分に毒素などは無く、ワタライ草とよく似ているため見分けが困難。


 [詳細]




 マジか。一発で金になりそうなのきた。詳細も頼む。



・大地から引き抜くとき根が抵抗するため採取が困難。

・引き抜かれた時に、人の叫び声に似た音波を発する。その音波を聴いた者は絶命する。




 マジか。一発でやられそうなのきた。危うく引き抜くとこだったわ。既にムンズと掴んでるとこまで来てたわ。


 掴んでいた手をゆっくり放し深く息を吐く。


 ふーーー、危ないところだった。


 やばいな冒険者。スリル満点なんてもんじゃない。草引っこ抜くだけで死ぬとかリスキーにも程があるよ。


 しかし説明にあったワタライ草が薬草とかじゃないよね? だったら一本一本鑑定先生の出番になってしまう。大丈夫だろうか?


 そんな事を考えていたら、再び鑑定先生の説明が頭の中に流れこんできた。



 ワタライ草:胞子が風に乗って広範囲に種を飛ばすのが名前の由来。花の部分が食用。紫色の葉と花が萎むと白い綿毛のような胞子を付けるのが特徴。


 [詳細]



 んん? 細かい説明ありがとうございます。そして現物がないのに何故?


 辺りを見回してみたが、こんな毒々しい草は他に無かった。


 ということは、なんだ、どゆこと? 待て待て、少し落ち着いてシンキンする必要があるぞ。なんか、こう、可能性が広がりそうな気が。


 俺が無限の彼方へいざいかんとばかりに考え事に没頭するポーズをとったというのに、世界がそれに待ったをかけた。具体的にいうと、少し離れた茂みからデカい犬が現れた。


 デカい。マジデカい。やるなファンタジー。


 体長が俺の二倍以上はありそうな灰色の毛を持った犬が、クンクンと鼻を鳴らしながら現れた。首輪はしてない。野良で間違いない。


 変なポーズで固まったままの俺と目が合うと、のそりのそりと近づいてくる。


 これは死んだ。運営に連絡しとかなきゃ。


 鑑定でステータス確認とかダッシュで逃げるとか、そんなの無理。ビビっちゃってしゃーない。体、動きませんわ。


 今も近づき続ける犬は、俺に、敵意殺意警戒いずれも抱いてなんかいない。あっ、エサ発見ラッキー、程度のものだ。逃げられるとも思ってないのだろう、ゆっくり歩いて近づいてくる。


 どうせ死ぬにしても、せめて少しでも抵抗したいんだが、運動不足のおっさんに出来ることってなによ。仕事?


 チラリと傍らのマンドラゴラが目に入る。道連れなら可能か? いや無理だな。妙な動きをしたらパックンチョだろう。んだよ。最初はスライムとかだろうー? 牛に竜にデカい犬とかそういうファンタジー色いらねーから。


 あれこれ考えている間に犬が捕食可能圏内に到達される。カパッと開く口。超痛そう。


 最後の抵抗に一縷の望み託して空間自在と唱えてみることに。


「空間自在空間自在空間自在空間自在」


 お願い! 俺を守って空間自在!


 しかし何が起きるでもなく。


 デカい犬は一足跳びに俺に飛びかかりガブリとしてきた。


 おう、死んだな。あんまり痛すぎると痛みも感じないってマジだな。少しの痛痒もないわ。俺がノーリアクションのせいか、俺の代わりに犬が「ギャウン!」とか言ってのた打ち回ってる。どうした? 腹を下したのか? いや待て。


 そこで漸く固まった体を動かしてみる。うん。どこも痛くないし、欠損した部位とかもない。つまりあれだ。スキルが発動したって見解でいいかな?


 俺が疑問を呈しているというのに、躾のなっていない犬はのた打ち回るのを止めると、今度は爪で襲いかかってきた。速い。見えない。


 じゃあなんで爪って分かったかというと、再び「キャウン」と吠えたかと思えば、右前脚が変な方向に折れ曲がって爪がボロボロになっていたからだ。口からも血が出てる。うわー、痛そう。俺の周りにいつの間にか落ちていた、この白い……歯、牙? は状況から見てこの犬のだろう。


 どうやら俺に危害は及ばないようなので少し余裕が出てきた。


 今頃になって「グルルル」と警戒の唸り声を上げる犬。散歩気分はどこへやら。鼻の頭に皺が寄ってる。


 俺はそんな犬を無視して先程の考えに思いを馳せる。今それどころじゃねーから、後でな。


 とりあえず試してみることに。


 ステータスさーん。


 ヴンという電子音と共に現れるステータスウィンドウ。さっき見たときと何ら変わってない。その固有スキルの欄の空間自在に鑑定を発動してみた。




 空間自在Lv1:神より与えられし特殊な技能。空間を自在に操る術を使用できるようになる。


 [詳細]




 空間自在Lv1

使用可能技能

『次元断層』

・次元の壁を任意の位置に設置できる。次元の壁はありとあらゆる攻撃・効果を無限に防ぎ阻む。設置できる範囲は使用者の表面積の二倍に準ずる。範囲指定がない場合、自動で体を装備ごと覆う。

『アイテムボックス』

・位相空間にアイテムを収容することが出来る。収容可能容量は無限。どこでも出し入れすることができ、空間内の時間経過は皆無。一覧を作成可能。念じるだけで出し入れできる。




 ちぃぃいいいいいっっっっとぅ! あんまりゲームしない俺でもこれがダメなのは分かるわ! スキル作成の後半で適当に盛った感が凄いわ! でもありがとう! お陰で助かってます。


 検証は済んだ。どうやら文字にも鑑定が掛けられるらしい。どこまでもズルいな。


 さて、今やこの犬っころはデカい犬ってだけになった。最初からデカい犬だと思っていた。


 チラリと視線を犬にやると、ビクリとした反応が返ってきた。


 いつの間にか犬は左後ろ脚にも怪我を負っており血だらけだ。ひょこひょことした歩き方で、俺から視線を外さずに後ずさっている。


 今なら多分、マンドラゴラを引き抜いて殺せるよなぁ。俺には攻撃・効果は効かないらしいし。


 再び犬をチラリ。


 ゼェゼェと荒い息を繰り返しつつも、必死で生き延びようとしている。そのヨロヨロ感が哀れを誘う。


 でも弱肉強食だよ。こちとら食われかけてんだから。こいつ殺っちまって素材を頂いた方が美味いに決まってる。そう、俺は今日から冒険者。


 俺がマンドラゴラをグッと掴むと、犬がピタッと動きを止める。どうやらきな臭い気配を感じているようだ。


 しばらく固まる犬と俺。先に動いたのは俺。深く溜め息を吐き出すとマンドラゴラを掴んでいた手を放す。


 そうだった。違った。俺は薬草長者だった。傷を癒やす薬の元を集めるのが仕事。まだ一本も集まってないが。


 再びステータスウィンドウを呼び出し、もう一つ気になっていた項目を鑑定。



 スキルポイント:新たなスキルを覚えるのに必要な数値。残ポイントと交換で新しいスキルが獲得できる。



 回復魔法っていけますか?


 ピッという電子音と共に、ウィンドウに表示される。



 回復魔法Lv1


必要スキルポイント:8

あなたの残りスキルポイントは10です。

新しいスキルを取得されますか? Y/N



 イエスと念じて見た。ウィンドウが書き換わる。



 回復魔法Lv1を取得しました。



 これでいけるだろうか?


 俺はステータスウィンドウを消して、ツカツカと犬に歩み寄った。唸り声を上げて警戒する灰色犬。


 落ち着きたまえ。今噛みつかれたら洒落にならん。そもそも俺がスキルを発動する前に仕掛けさえすれば、お犬様の圧勝だったろう。散歩気分が功を奏した。主に俺に。


 あまり近づくと犬が破れかぶれで突進しかねないので、程々の距離を保ち手を向ける。


 出来るかな?


「…………」


「ウゥゥゥゥ」


 そういえば呪文とか知らねぇんだけど。回復魔法といったらホイミぐらいしか分からん。今風ならなんていうの?


 まぁいいか。てけとーで。治れ治れー、傷よ治れー、あっ、そうだ。ヒールだヒール。


「ヒール!」


 俺が回復呪文を叫ぶ前から、デカい犬を薄い緑色の淡い光が覆っていた。特に叫ぶ必要は無かったようだ。


 すげー。魔法使えちゃったよ。五年前から偶に練習してたかいがあったね。


 魔法を使ってる間は体の中の何かが減っていってる気がするが、傷が全開するまでいってみよう。とか考えてたのが悪かったのか、急に来た。


 ガクンと体がダルさ全開になる。例えるならフル残業の夜勤明けだ。マジヤバい。


 思わず膝をついてしまう。おう。犬の傷の経過を見るのに丁度いい高さだ。


 血は止まったようだが、牙が生えてきている様子もないし、脚も折れたままだ。まぁ、Lv1だしね。そんなに旨いことないですね。


 しんどさに腰を降ろした俺を犬が見つめてくる。先程までの警戒の色は無いが、なんだこいつ? と言わんばかりの目だ。変人を見る目だ。まぁ、犬にとったら人間がおかしく見えるよね。二足歩行だし。つまり普通。


「拾い食いなんてするからそうなるんだぞ? 次からはオッサンは止めとけ」


 若いのにしろ。


 聞こえているかどうか分からないのに犬に説教垂れる冒険者、どうも俺です。


 しかし犬は俺の説教なんてどこ吹く風。ペロペロと毛についた血を舐め始めた。


 俺も立つのもダルいので、ボーっとそれを眺める。


 一時間程、犬と共にダラーっとしていたが、体力が回復してきたのでそろそろ動くことにした。


 日も落ちてきたしね。今夜は野宿かな。金もないし。


 俺が立ち上がると犬が伏せていた顔をピクリと動かす。


「なんだお前? ついてくる気か? 寝てたほうがいいぞ。怪我治んねーぞ」


 俺の言葉を理解しているのかいないのかは分からなかったが、灰色犬は視線で俺の動きを追うだけでついては来なかった。


 顔に当たりそうな枝や葉を避けながら更に森の奥に踏み込む。


 それにしてもこの森は歩きにくい。薬草取りの地元民が頻繁に出入りするなら、もっと歩きやすいはずだが、踏み固めた道のようなものがない。


 つまり、俺が正規のルートから外れていることを意味してる。見つけちゃうかもよ未だ誰も見たこともないような群生地。


 待っててくれ。未だ人の目を逃れ続ける薬草達よ。俺が直ぐに保護してあげるからね。


 日が暮れようとする森の中を、俺は更に更に奥へと進んでいった。




相変わらずボられてます



遂にモンスターvs!


自爆したモンスターを癒やす展開に


そんな彼は冒険者


ちなみにマンドラゴラは金貨十枚は下らない買取価格となっています

原因はレア度と発見の困難さのためです


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