旅の道連れということ
満天の星空を見上げながら、我思う。
故に我あり。
なんつって。
ノスタルジックな想いに浸りながら視線を降ろすと、パチパチとはぜる焚き火で嬉しそうに肉を炙るターバンおじさんが映る。
バリアルトさん。
ふくよかな身体つきに似合わない髭を生やしたこのおじさんとの出会いは二日前に遡る。
いやにスムーズに街から逃げ出した……、
違った。
いやにスムーズに街から出立したオジサンは街道と言われている砂漠を走った。
そりゃもう全力で。
ある程度の駱駝車やらキャラバンやらを追い抜いて人気が無くなった辺りで視界跳躍を連続発動。しゃにむに距離を取るオジサン。
実に丸一日。
ふと気付けば追っ手どころか生物の影すらない砂漠にポツリ。
そこで思い出す砂漠の歩き方。
夜歩いて昼寝る。シエスタがマロン。
道理で外壁に並んでいた人の数や街道を歩いていた人の数が少ない筈だよな。夜の行軍が安定行動だもんな。昼間っから街の外に出るのなんて速達か亡命希望ぐらいだよな。
うっかり。……。うっかりだよ。
しかしこれで大分追っ手から距離を取れた筈。
街道も道行きも分からなくなりましたが。
異世界はせめて標識配備するべきだと思う。モンスター注意の看板とか、この先デンジャーとか、伝えて然り。
するとどうだ。広がる安全性。高まる生存率。
オジサンは異世界特許を見つけてしまったかもしれない。こんにちはファンタジーセレブ。
そんなことを考えながら昼の間にガンガン歩いていたら、視線の先に砂埃を巻き上げながら誰かが爆走してくるのが見えた。
良かった。オジサンだけじゃなかった。
ふと早過ぎる冬物を着て街を歩いていると、他に仲間がいないかと探してしまうよな。一人でも見つけたなら、だよな寒いよな、と心の中で安定の為に呟いてしまうもの。
オジサンのツイートは大抵が内心で完結。
しかし以心伝心なんてない以上、ちゃんと声に出さなくては伝わらない。
道を聞かなくては。
「あの、すいま……」
せん、と言おうとして気付く。駱駝に車を引かせている髭のおじさんは、暑さのせいではない汗を掻いていた。
後ろから見たことあるようなミミズがうねうねと駱駝車を追ってきている。
しかしサイズは大分小さめ。あれでは駱駝一頭丸呑みが精々だ。
「ととと、飛び乗れ! 死ぬぞ!」
髭のおじさんが俺を見つけて叫ぶ。直撃してハネられるコースだったのに、わざわざ少しズラして速度を気持ち緩めてくれる。
非常時だと思われるのに、よくもまあ。
そんな人の良さげな行動がミミズとの距離を詰める。砂漠をバタフライで泳ぐように追ってきていたミミズが車の後ろに噛み付く。
急激な制動と減速で駱駝が滑るように転ぶ。御者台に乗っていたおじさんも弾き出されて砂地をゴロゴロと転がる。
……なんかすんません。
オジサンを助けようとしてくれてこうなったのだ。オジサンもおじさんを助けよう。
荷車を食べる気はそんなに無かったのか、丸い口をそのままにミミズが襲い掛かってくる。
ちょうどいい。
ミミズの外殻は堅いらしいのだ。オジサンの火魔法は中からなら効いたが外からも同等の効果が上がるとはしれない。
覆い被さるように迫るミミズの口に手のひらを向ける。
連弾だ。
数十と顕現した赤い火球がドラムマシンガンのごとくミミズの口の中へ。モゴモゴと身体を跳ねさせるミミズに気を使うことなく連射。
ついに限界が来たのか背中をドパッと開いて火球が彼方へと飛び出していく。しかしミミズの生命力はこんなもんじゃない。オジサンは知っているぞ。
火球を操って空いた穴と口から次々に放り込み内部を焼く。
まだまだ。
魔力を注ぎ込んで青い人間大の火球を複数作成。触れるだけで焼失してしまうこの青い火球の熱量なら外殻も焼けるだろうと外側にも放つ。
上がる火柱に思わず笑みが零れる。
ストレス解消って必要だよな。
立ち上る火柱をバックに髭のおじさんに近付く。助かったのが信じられないのか、ポカンと口を開いている。
分かるよ。あんなグロテスクなミミズが追い掛けてきたら誰だってそうなる。オジサンだって逃げる。
ニコリと笑顔を浮かべて近付く。砂地だろうと足が沈むことない次元断層が、オジサンがおじさんに近付く足音をザッザッと演出。
決まった感がある。
しかしオジサンが近付くにつれて体を震わせるおじさん。
これはあれだ。
脳が『もう安心』と判断した為にアドレナリンが切れてしまい、体の痛みを思い出してしまったのだろう。
大丈夫。オジサンは回復魔法も使えるよ。
更に安心感を与えようと口角の角度を上げる。ニコリからニッコリにレベルアップ。日本古来より描かれる人物画並みにニッコリだ。ただ真夜中に八百万の神様が描かれた水墨画とか見るとビビるよな。昔の人の目のつけどころって……。
まあ、オジサンはそんなこととは無縁な存在。温和とか穏健とかの言葉はよく似合う。
腰をかがめて手を差し伸べる。その姿は慈愛が溢れんばかり。オジサンの半分は自愛で出来ています。
「ひっ、ぃぃいいいいいいいいいい!?」
しかしどうしたことか。
手を伸ばしたところで口の端から泡を吹きながら白目を剥くターバンがズレている髭のおじさん。
……成る程な。
分かる、分かるとも。
ショック症状ってやつだ。
よく見ずとも荷台は全壊。駱駝は足を折ったのか息も絶え絶えだ。その上、自分の心身状態に砂漠にポツリの状況と相まったら悲鳴も上げるよな。
大丈夫。直ぐに良くなるよ。
俺は回復魔法で駱駝とおじさんを治した。
暫くして、目が覚めたおじさんに荷物は助からなかったが食糧は自分のがあるので分けられると説明。余波で炎上してしまったのは仕方がなかったんだ。命の価値ってやつだ。
呆然としつつも自己紹介をかわす俺と白髭のおじさんことバリアルトさん。海賊ではない。
そんなバリアルトさんが未だ火の粉を上げるミミズを見てポツリ。
「…………悪魔を見た……」
ああ、心霊体験ってやつだな。神を見た、神は言った、アイダホで畑を耕しなさいってやつだ。カミマミタの方じゃない。
オジサンもある。頭上が光ってた。バーコードだった。
ギクシャクしつつも駱駝を治したことを知ったら人が変わったように感謝された。
バリアルトさんが駱駝を愛おしそうに撫でる姿から、やっぱりペットっていいよなって思った。クロの素材は有効活用させて貰います。ほんとペットってやつは最高だよな。
荷台はなくなってしまったが、転倒時に散らばった荷物を少しでも集めようと、バリアルトさんが駱駝と戯れている間に消し炭の周りをウロウロ。
まだ使えそうな荷物を集めていたら、大きめのズタ袋が燃えずに残っていた。
ラッキーとばかりに持ち上げたら、
「ミィー!? ミミミ、ミィ!」
と袋の中から聞いたことあるような無いような鳴き声。
後で分かったことだが、カクタス団子は非常食として持ち歩くことがあるらしい。水分に魔力を含み、毒性もないのでいざという時の非常食として最適だとか。
まあ味はマジゲロマズなんだが。
そんな非常食用のカクタス団子が詰まったズタ袋から出てきたのは、ある意味お世話に成りっぱなしのネズミくん。
クルドだ。
しかもどうやら珍種らしいこのクルド、毛が真っ白だ。アルビノってやつだろう。
袋を開いたら慌てたように出てきたが、その速度は遅い。
俺を見て悲鳴を上げると、そのまま袋の外にダイブ。ボテッと砂地に降り立つ。
「ミ、ミミ、………………ミ? …………ミィ」
三十六計とばかりにトンズラここうとしたクルドは、周りを見渡してピタリと止まると悲しげな鳴き声を上げた。
「……じゃあ、そういうことで」
強く生きろ。
「ミ!? ミミミ、ミミミミミィ!」
白いクルドは踵を返そうとするオジサンの足下までテテテと走り寄ると、ペチペチペチペチと必死に叩いて何かを伝えようとする。
「日本語で頼むよ」
翻訳さんも流石に動物はNGらしい。
叩きすぎて手が痛くなったのか、叩くのを止めて手に息を掛け始めた。
いや、次元断層のせいかな。
ちょっと解除しておくか。バリアルトさんもいることだし。
解除と同時に砂に足が沈みこみ、太陽が肌をジリジリと焦がし出す。
暑い。
マジすげーよな砂漠。クーラーなしだもんな。
直ぐさま滲み出した汗にウンザリしつつ、顔を落とすと、未だに手に息を吹きかけている白ネズミ。
その息に、白い雪のような、小さな氷のような物が混ざる。
「え、な、あれ? お前魔法使えるの?」
小さめの氷を抱いて首をクイっと傾げている赤いつぶらな瞳のこの毛玉は、そういえば魔獣と言われていたのを思い出した。
しかも氷魔法。道理でこのくそ暑い中をそんなフサフサした毛を生やして活動出来る訳だ。
「ヤマナカ様、どうかしましたか?」
一頻り驚いていると、駱駝を引きながらバリアルトさんが近寄ってきた。
「ヤマナカで結構ですよ」
「いやしかし」
難しい顔になるバリアルトさん。やはり駱駝を救ったことで思うところがあるのだろうけど、バリアルトさんの髭は白く、どう見ても年上っぽい。四十代。流石に年上に様付けされるとか、そちらのほうが居心地が悪い。いま思えば、年下の上司にさん付けして呼んでたことがあったよな。あの時の上司はこんな気持ちだったんだろうか。
この話を掘り下げたくないので、強引にクルドの魔法に驚いたことを伝える。
「それは珍しい」
するとバリアルトさんも驚いていた。
「大抵のクルドは土の属性を持っているので、穴を掘るのが速いという特性を持ちますが、氷魔法を使うクルドというのは初めて見ました……希少種でしょうね」
バリアルトさんに釣られて駱駝も白クルドに顔を寄せる。白クルドは逃げたくても三方を囲まれてビクビクしている。
「あ、バリアルトさんの袋の中にいまして」
「成る程。クルドはカクタスも食べますからね」
「捕まえますか?」
希少種なら貴重なのではないか? バリアルトさんの袋から出てきたのだ。今回の損害の補填になるんじゃないかと暗に提案。
それに唸って考えこんだバリアルトさんだったが、その時間は短く直ぐに首を横に振った。
「いやぁー、ないですな。確かに初めて見る種ですが、クルドはカクタスや魔力壁を食べます。カクタスは商品ですし、この国は土魔法で出来た建物が多いので、商売をする者としては……誰かに売ったとしても難癖をつけられるのが関の山でしょう」
そうなのか。ならどうするべきか。
「ミミィ! ミ、ミ、ミ」
思わしくない空気を読んだのか、白クルドが俺の足に張り付いて駆け上がってくる。
うーん、どうしよう。殺してしまうのが、たった一つの冴えたやり方だと思うんだが。いま一生懸命足を這い上がってきているこのネズミの同族には儲けさせて貰ったしなぁ。この国を出て、次の国が木造建築なら連れて行ってもいいが……流石に騒ぎの種を持ち込みたくはないなぁ。
肩まで到達した白クルドが必死にペチペチと頬を叩く。
「人の気配に敏感なクルドが随分と懐いていますなあ」
バリアルトさんの言葉にピーンときた。
………………………………俺に、懐いている?
試しに不良在庫になる予定だったカクタス団子をアイテムボックスから取り出し、回復魔法を込めて与えて見る。
「ミ?」
淡く緑色に発光しているカクタス団子に恐れはないのか、差し出される団子を掴むと『食べていいの?』とばかりに首を傾げる白クルド。
「ああ、お食べ」
今日は毒を入れてないから大丈夫だよ。
恐る恐る猫の口のような小さな口で一口。すると驚いたように一鳴き、その後は夢中になって食べ進め、しまいにはペロペロと指まで舐めてくる始末。
なんだこの感情。
ペット、いいね。
「よーし。お前は今日からシロだ!」
「ミゥー!」
もっとくれとペチペチ手を叩くシロに、暑さも忘れて高々と笑い声を上げた。
はっはっはっは! ういやつめっ!
「あのー…………」
バリアルトさんの呟きには、シロが腹一杯になるまで気付かなかった。
いかんよね。なにやってんだ俺。
その後はズタ袋のカクタス団子をバリアルトさんから買い取り、食事も次の街までご一緒する事を条件に分けることになった。
駱駝が一人乗りなので、走ってついて行くと言った俺にバリアルトさんは驚いていたが、その方が次元断層を発動できるしね。
クルドの表面積的にも次元断層を掛けても余裕。咄嗟の際にバリアルトさんに掛ける分ぐらいは余る筈。駱駝はごめんなさい。
しかしこの二日、あのミミズ以外のモンスターを見ることもなく順調に砂漠を渡れた。食事を与える際にズタ袋から食料を取り出してみせたら、バリアルトさんがやたらとズタ袋を欲しがったぐらいだ。
でもこれアイテムボックスだからなあ……ごめんなさいとだけ返しておいた。
シロは意外と大人しく、こちらの言ってることを理解しているように見える。行軍中は俺のフードの中でジッとしていた。
ちなみにトイレには行かないらしい。昔のアイドルみたいな生態だな。
行軍ペースはバリアルトさんに合わせ、大体二時間置きに休憩を取っている。今は午前三時前ってところだろう。遅めの夜食を取っている。
せめてこれぐらいはと、未調理の肉を焼く係をバリアルトさんが買って出たため、ご飯タイムは暇だ。
今更、実は調理済みの料理も出せますとは言い難いよな。
「ミ。ミィ」
「……ん、おかわりか?」
足下でカクタス団子のおかわりをせっつくシロに、アイテムボックスから出した団子に回復魔法を付与して渡してやる。
「できましたぞ! いやー、まさかボアの肉にありつけるとは、サンドワーム様々ですな」
嬉しそうに肉串を差し出すバリアルトさんにお礼を言って受け取る。
「喜んで頂けてなによりです」
「これほどの獲物……ヤマナカ様は名うての冒険者でありましょう? あれほどの魔法をお使いなら、目的は魔法国家辺りですかな?」
元Fランクです。大学ではなく。
適当に話に相槌を打って近くの国の情報を得る。海沿いの国はありませんか? そうですか。
「大体どれぐらいの距離まで来てますかね?」
この次の街が国境の近くにある街らしく、駱駝が道を記憶しているので迷うことはないそうだ。
他にも、大型のキャラバンなんかは方角を知る魔道具を持っていたり、モンスターの接近を知る方法を有していたりするそうだ。
ズルい。魔道具ってチートだよな。
次回から魔道具屋なんかもちゃんと調べておこう。なんかあからさまに怪しい壺とか置いてあって敬遠してたんだよな。ほら、オジサンは用心深いから。
それにオジサンが本来持つ抜群の方向感覚があれば魔道具なんていらないよねって、さ。
まあ、ここは業に従うべきだよな。よく言うし。業に入っては業に従えって。
うん。念の為、使わないだろうけど、もし機会があれば、購入しておこう。
「あー、見えにくいですが、アレが見えますか?」
己の業と向き合っている俺を余所に、バリアルトさんは木のカップを口に運びつつ砂漠を指差す。
砂漠はデカデカとその存在を主張する月の光に照らされて、なかなか幻想的な風景だ。アラビアンナイト。散りばめられた星とセットでロマンティックが止まらない感じだ。
焚き火に当たるオジサンで台無しだがな。
バリアルトおじさんの指差す方向はそんな砂漠の向こう側。オジサンは釣られるように視線を向ける。
…………んー、何もないないように見える。見渡す限りの砂地と星空。境を引くような地平せ……、あ。
地平線の一部がちょっと盛り上がっている。
今風に?
デコってる。
目を凝らしても流石に見えないほど遠いな。黒いシルエットは、建物だろうか? ファンタジーだろうか?
「あれはですな、『侵されざる森』と呼ばれています」
目をしかめるオジサンの疑問にバリアルトさんが答えてくれる。
そうですか。森ですか。砂漠に森? 腐ってる感じですか?
「あの森を左手に南下すると次の街に着きます。あそこから駱駝の足で大体二日程でしょうか?」
星を見上げ、なにやら手を伸ばして距離を測っているバリアルトさん。オジサン達が向かっていた方角を確認すると一つ頷く。
「間違いありませんな。尤も、魔道具で測った訳でなく天測なので半日程度の誤差はありましょうが、私も長いこと砂漠を渡り歩いておりますので大丈夫です」
そう言って串焼きを頬張り舌鼓を打つバリアルトさん。
「頼りになります。私は砂漠は初めてでして……」
「そうでしたか。いやはや、やはり冒険者というのは色々な土地に赴かれる方が多いのですね」
「え、ええまあ」
「そういう多方面で活躍される方々は大きなクランに入っていたり、パーティーを組んでいる方だけだと思っていたのですが、ヤマナカ様の強さなら納得もいくというもの。私はまだまだ見識が浅い……」
気持ちよく話すバリアルトさんにツッコめないよ。ここにいるのは無職のオジサンなのだと。
いやいいさ。元冒険者なのは嘘じゃないし。いずれ轟いたであろう薬草ハンター山中の名に偽り無し!
ただ指名手配を受けているであろうだけで。
力を入れて話すバリアルトさんに相槌を打っていると、自分の力説が少し恥ずかしかったのか、ふと俺の顔を見て顔を赤くすると水を一口飲んで空咳を一つ打つバリアルトさん。
若い頃は冒険者に憧れた口だな。
「んんっ! ……いやすみません。お恥ずかしい限りで……」
「いえいえ、こちらとしても楽しいお話でしたので」
「いやー、商人なんぞやっていると特に憧れがありまして……ほら冒険者証での出入国の審査も、商業権なんぞ持っていたら時間が掛かるでしょう? その点『専業』の方は審査も軽く足も伸ばしやすいじゃないですか」
「……うん?」
審査?
「……ああ! ヤマナカ様はずっと冒険者をやっているのですね? ならお知りにならないのも無理はありません。えーと……」
ゴソゴソと袖口を漁るバリアルトさん。
取り出したのは俺も持ってるギルドカード。その裏を見せてくる。
そこには商業権を持っている宗を記した一文とゴテゴテしい青い判。
「商人や職人はギルドカードを作成する際に兼業を記録されて、出入国の審査が厳しいんですよ。まあそれも税の踏み倒しや人材の流出を防ぐ名目なので仕方ないのですが……ああ、他の国営のギルドに入っているなら必要ないんですけどね」
なにそれ知らない。必殺仕事人の灰色ツンツンらしくない説明漏れだな。
「知りませんでした……。ギルドの説明の時には……」
「ああ、それは商業権の発行などの時に言われるので知らなくても仕方ないですよ。まあ、掛かる税などを考えると国を跨ぐより国内運営の方が儲かりますなぁ……大手となると別ですが。おかげで武器の持ち運びにも税が掛かりますよ。冒険者証は便利なのですが、気ままに国外に出たいと思っても……私などの商人は色々疑われますからなぁ」
「……それであのー…………審査の内容というのは?」
「うん? ヤマナカ様もこの国に入る時に受けたのでは?」
「あ、いえ。商人の方と何か違いがあるのかと」
危なーい。
「ああ、なるほど。いやなに、そんなに違いはありませんよ。冒険者証の提出と荷物の検疫です。まあ、商人はそれに国の許可証がいりますし、無ければ審査の為に何日も足止めを食らいますがね」
意外とちゃんとしてるなファンタジー。そこはもっとフワフワな感じでいいだろう。
つまりこの冒険者ギルドカードがパスポートも兼任していると見ていいのだろうか? しかしこれを使えば指名手配されているのにクレカを使う犯人のごとく捕まりそうだよな。
どうしよう。
内心を押し隠し串焼き肉を噛みちぎる。美味しいなー。逃避した視線の先で満腹になったシロがコロコロと転がっていく。癒やされるわー。
……どうしよっかなー。
「まあ、あの森を越えれば煩わしい審査とかなく次の国へ行けるんでしょうが……私では命が幾つあっても足りません。ははは、しかし若い頃は夢見たものです。あの森に存在すると言われるダンジョンを制覇して、帰還し――」
なんですと?
落ち着け、落ち着けよオジサン。ポーカーフェイスが大事だ。笑顔だ。そしてナチュラルだ。強化されてない方だ。
自然に不自然。違った。自然に自然に。
「あの森にはダンジョンが?」
まずは遠回しに聞くことが大事だ。
気持ちよく昔語りをしていたバリアルトさんが顔を向けてくる。悪いね。
「はい? あ、ああ、ダンジョン。そう遺跡があると言われております。しかし森深いところにあるらしく、奥へ行けば行くほど魔物が強くなっていく森なのでダンジョンに辿り着くのも困難。生還者は殆どおりません。そのために私の暮らすオアシスでは、あの森を抜けてダンジョンへ入るような冒険を唄っていまして」
そっちじゃないよ。修正修正。
「あの森を抜けたら他の国に繋がっているのですか?」
「え? あ、ああはい。魔法公国ですな。あそこには国境壁など張れやしませんから。……抜けるおつもりで?」
「いやまさか。ただ二国間に跨がるダンジョンなら、所有はどちらになるのかと」
「ああ確かに。そう言われればそうですな。いや、今まで考えたこともありませんでした。……んーー、まあ、ダンジョンはあると言われていますが、あくまで伝承の類でして……しかしあるのなら我が国のものでしょう。我が国の形がこうで魔法公国の版図が――」
バリアルトさんが指で砂地に地図を描き出す。
ありがたい。
バリアルトさんが描くここら辺の地図を頭に入れつつ、未だ小さなシルエットで存在を主張する森に視線を向けた。
なんてことだろう。やはり根っからの薬草ハンターな俺は未踏の森があるというだけで興味が抑えきれないみたいだ。渋く言うなら、血、ってやつかな。
臆病者風に言うなら地で。
オジサンには後ろ指を差されるようなことは少ししかない。密入国なんてするつもりもない。
しかしながらここは異世界。
堪えきれない冒険心のままに旅をしていたら。
あーら不思議ファンタジー。
いつの間にか隣の国に居たってこともあるよな。仕方ない。前例だってあるし。
ならしょうがない。
旅先でアクシデント? つき物。
旅行中になんの因果か暗殺者に育てられることになったりするもんな。そんで武装ゲリラに拾われたりな。
大佐も女の人も言ってる。
いきなさいと。
オジサンだって諦めない。
何を?
幸せな家庭と嫁を。
「バリアルトさん、ありがとうございます!」
「はえ? あー、はい。お役に立てて」
勢いのままに差し出した手に握手で応えてくれたバリアルトさんは不思議そうに首を傾げる。
「ミフゥ……ミ?」
未だにシルエットしか見えないが、確かに存在を主張する森をその赤い瞳に捉えて、シロも首を傾げた。
毒精製
レベル1
体調悪くなる系・微毒
レベル2
具合悪くなる系・促進
レベル3
体が動かなくなる系・昏倒
レベル4
体に障害が出る系・致死
大体3から麻痺、睡眠などの効果の毒が作れます。しかし抵抗やレベル差、裏ステの違いで効果に差が出ます。精製は皮膚上ならどこからでも可能。魔力で作られていますが、弾数制。時間回復仕様。




