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オリオン・ネットワーク  作者: azakura
5章 君に巡る科学のこころ
32/40

5-2

 敵対する相手は、ネットワークの世界を支配する情報生命体のセリア。この《拡張戦線》において、蒼穹祢の勝ち目はゼロ。だから、いかに時間を稼ぐかが大事。


「セリア! 私が相手よ!」


 堕天使形態がものものしいセリアの懐へと蒼穹祢は迫り、上体を沈めると、剣を振り抜くために肩を捻って勢いづける。


「勇敢なお姉ちゃんだね。だからこそ、――潰し甲斐があるというものだ」


 セリアは右腕を伸ばして手のひらを広げた。次の瞬間、無数の黒い羽根が散乱銃のように、蒼穹祢に浴びせかかる。


「それがなに!?」


 蒼穹祢は怯まない。ダメージを意に介さず、勢いそのまま、セリアを脇腹から真っ二つにするように剣を振り抜いた。

 一方で緋那子は、


「蒼穹祢が戦ってるうちに行こ!」

「ええ!」

「ああ!」


 レミと大地を引き連れて、教会の出入り扉へと駆けていった。


(頼んだわ。こちらも足止めするから)


 妹たちの背中を横目に、蒼穹祢は振り抜いた剣を引き、


「ハァ!!」


 一度のみならず二度、三度とセリアを斬りつける。しかし、


「それが?」


 セリアは避けようとすらせず、挑発するような目を平然な顔で蒼穹祢に向ける。


「あなたにHPって概念はあるの!?」

「あるさ。初期値はマイナス1だけどね」

「なんですって!?」


 ゲームの常識を考えれば、HPがゼロになったらゲームオーバーになる仕様だろう。しかし初期HPがマイナス値なら、いくらダメージを受けてもゼロには至らないため、


「絶対に負けないというわけね! ったく、ズルイわ! こちらの攻撃が無意味じゃない!」

「攻撃を食らったら多少の痺れがあるから、無意味ってわけではないけどね」

「わざわざ教えてくれてッ、礼を言うわ!」


 蒼穹祢は床を蹴って後方に跳び、セリアから距離を置いて剣を投げつけた。ブーメランのようにくるくる回転した剣がセリアの首にヒットする。

 蒼穹祢の背後はステンドグラスの壁。セリアがガラスを割って襲来したため、耳障りな風が流れて青い長髪を巻き上げる。


(仮想体では現実の物体に干渉できない設定なのに、セリアは窓を割った。割れているような見せかけでしょうけど、それができる時点で力の差を思い知らされるわ)


 緋那子たちはエレベーターで降りている頃だろうか。敵は強いが、できればもう少し足止めしたいところ。


(HPゲージが赤い……。残りわずかね)


 蒼穹祢は剣を投げてセリアをけん制。露骨な時間稼ぎを前に、セリアはやれやれと肩をすくめて、


「そろそろ行かせてもらうとしようか」


 黒い翼を目いっぱい広げて、放られた剣を拒むように、教会に滞在する空気すべてを巻き込まんと言わんばかりに翼を羽ばたかせた。空気の乱れが目視できるような突風を、鼓膜を殺すような耳障りな音とともに全身で受け止めた蒼穹祢。


「キャッ!」


 翼を扇いだことで舞い上がる、月明りを浴びた黒色の羽根が、幻想的と言えてしまうほどに美しく散る。蒼穹祢は膝を屈めて両腕をクロスさせ、踏ん張りを利かせるも、激しい風の前では意味を成さない。HPに影響こそないものの、風を舞う木の葉のように身体が宙に浮き、


「――――ッ!?」


 割れたステンドグラスを通過して、夜空の下に放り出されてしまった。光で彩られた都市の絶景が商業エリアの方面に広がり、地上は遥か先。その一方で赤から橙、橙から黄と、七色に移り変わるネオンに巻かれた〈オリオンタワー〉が空へと伸びていた。雲のない世界だから、燦然たる星々の輝きに空が満ちている。


「ハハハッ!」


 ビルから飛来してきたのは、鳥のように翼で羽ばたくセリア。無駄のない経路で蒼穹祢に迫ると、右手の手のひらに構築した黒い錐の凶器で、蒼穹祢の懐を貫こうと腕を振るった。


「くっ!」


 ビュウウゥゥゥ!! 大気を劈く音に包まれる身体。青髪が上空に流れる中で、蒼穹祢は錐の凶器を剣で弾いた。金属同士の衝突音は、あっという間に風にかき消される。


「これはどうかな!」


 右方の翼を背後に引いたセリアは、蒼穹祢に翼を扇いだ。羽ばたきをまともに食らってしまえばゲームオーバーは確実。


「……ッ」


 蒼穹祢は咄嗟に根本から翼を斬り、難を逃れる。天空から地上に視線を変えた。攻防の間に、みるみるうちに地上へと近づいている。


「一緒に……落ちましょう」


 セリアの首を鷲掴みして、悪魔のように薄く笑った蒼穹祢。


「それ、女の子がしていいことじゃないなぁ」


 蒼穹祢に密着されたセリアは、手のひらに再び構築した錐の凶器で蒼穹祢の背中を刺そうとしたが、


「遅いわ!」


 ――二人の身は地上に到達。パァンッ!! 爆発のような音とともに、コンクリートの道路に身体を叩きつけた蒼穹祢とセリア。黒い羽根が二人を中心に激しく舞い散る。

 しばらくして。羽根の雨が優しく降る終末のような世界の中で。欠けた翼を生やした堕天使の影がおもむろに立ち上がり、


「やってくれるね……。私でも飛び降りは怖かったよ。そろそろケリをつけようじゃないか」


 羽根を隠れ蓑に剣が飛来するが、セリアはいちいち躱さない。


「私のHPが正常設定ならいい勝負になっていたのかもね。ゲームのセンスならヒナよりあるよ、キミ」


 セリアは右腕を天に掲げ、手のひらを広げる。すると宙に舞っていた羽根は、時計の針が止まった世界のようにピタリと制止し、


「蒼穹祢!! キミの居場所はわかっているんだ!!」


 まるで断罪。セリアが腕を振り下ろすと、おびただしい数の羽根が時を回復し、龍のごとく一直線に飛来した。


「ぐっ!」


 無数の羽根に貫かれた蒼穹祢の身体。赤色のHPゲージは今度こそ潰えた。手の力が抜け、柄が肌を滑り、地面にからんと落ちる剣。そして足腰の力が抜け、蒼穹祢は倒れた。


「がんばったね、蒼穹祢お姉ちゃん」


 遠のく意識の中で、セリアが見下ろして笑っている。まさにラスボスに相応しい立ち振る舞いだ。


(ヒナたち、あとはよろしく……)


 そう願い、蒼穹祢はゲームオーバーを迎えた――……。


 プツンと、視界が真っ暗になる。


『お疲れさまでした、これにてプレイは終了です。ヘッドマウントディスプレイを外して構いません。体調に気がかりがあれば係りの者にお声かけください。異常などなければお帰りいただいて構いません。ゲームの成績は後日メールにてお知らせします。本日は《拡張戦線》にご参加いただきありがとうございました』


 耳に流れる女性の音声案内。意識を戻した蒼穹祢はヘッドマウントディスプレイを外し、首を振って髪を整えた。額が汗ばみ、斜め分けの前髪が肌に張りついている。

 しんと静まり返る室内。装置が放つ淡い光を頼りに見回してみたら、残っているプレイヤーの数はざっと五分の一弱。隣ではレミが横たわっている。

 蒼穹祢は起き上がり、


(息を整えてる余裕はないわ。地下鉄を経由すれば……すぐに到着できるはず)


 目的の〈オリオンタワー〉へと、迷わず向かっていった。

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