異邦人の暖かさ
で、とりあえずレイ兄にご飯作って貰おうと思って台所に来たわけですが。
「ナッ、ナツリム?!起きてて大丈夫かい?!安静にしてないと! あああ、と、取り敢えずこれおでこにのせて!」
そう言って素早くタオルを濡らして、私のおでこに押し付けてきた。
……わあお、レイ兄パニック。うん、ちょっと反応が大袈裟過ぎると思う。押し付け過ぎておでこと首が痛いし。
取り敢えず大丈夫だってことを伝えて、座りたかったので近くにあった椅子に座る。朝起きてから十二時間も寝たからなのか、それとも部屋に置いてあった植物やら置物やらの効果なのか、熱はもうすっかり下がっている。
まあ、ちょっと寝すぎたのかふらふらしちゃうけど。それは関係無さそうなのでおいといて。
「レイ兄、私お腹すいたから、何か料理作って欲しいな」
「いいけど……。もうすぐ晩御飯の時間だよ?」
「あ……。うーん、とりあえず、お腹に何か食べ物を入れたいなあ。朝から何も食べてないから」
「わかった。ナツリムは何が食べたい?すぐに用意するよ」
「えっとねー、温かいのがいいな!」
さっきまで布団の中にいたから、なんか肌寒いし、温かいスープとか飲みたいなあ。
「温かいの……。丁度晩御飯用に鶏ガラのスープ作ってたから、それでいいかい?」
「うん!」
流石レイ兄。家族の中で一番気遣ってくれる優しい男です。私はそんなお兄ちゃんが大好きです。
「じゃあちょっと待っててね。すぐ持ってくるから」
「了解!」
じゃあ私は椅子に座っていいこで待っていよう。
「お待たせ。はい、どうぞ」
「わーい!ありがとレイ兄!」
少ししてレイ兄が持ってきた鶏ガラのスープは、ホカホカと湯気が出ていて、湯気からはいい臭いがして、とても美味しそうだった。
流石レイ兄。家族の中で一番家事の出来る男です。私はそんなお兄ちゃんが大々好きです。
はふはふと冷ましながらスープを啜る私。と、それをニコニコ微笑みながら見つめるレイ兄。
……そうだった。レイ兄達に言いたいことがあるんだった。
スープを飲み終えて、カタンと席を立つ私。
にっこりとレイ兄に向かって笑みを浮かべると、何故かレイ兄はひきつった表情で私を見上げて来た。
立ち上がり見下ろす私と、椅子に座り私を見上げるレイ兄。
言いたいことは沢山あるけど、まずは。
「レイ兄、皆を呼んできてもらえないかな」
ちなみに理由は……分かるよね?
レイ兄は私の視界から消えるかのごとく、一瞬で外に駆け出していった。
……私、何か悪いことしたかなあ?
皆集まったので、床に正座させる。
話す内容は勿論、あの植物や置物達のことだ。
何であんなものが私の部屋にあるのか、とか、他に何をしようとしてたのか、とか。
まあ、大体理由は分かっているんだけど。というかバレバレだけど。
結論から言うと、やっぱり皆、私のことを心配してるだけだったみたいだ。
孝老樹は町長の、癒双花はミツ姉の、狸の置物はロイ兄と父さんの案だったらしい。
その他にも案はたくさんあったんだけど、時間とスペースがなくてあれだけになったらしい。
……他にどんな案がでたのか、聞きたくないなあ……って、心底思った。
「あー、ナツリム、その、な?父さん達だって、別に悪気があった訳じゃないんだ。その、お前のことが心配で、つい、な……」
「その、部屋を滅茶苦茶にしちゃったのは謝るから、許して貰えないかしら……?」
考え事をしてると、許して貰えないのかと不安になったのか、恐る恐るといった感じで、お父さんとミツ姉が頭を下げていた。……どうしようか。許すつもりだから、別にいいんだけど……。
「別に凄く怒ってるってわけでもないしいいよ。……ただ、町の人にも迷惑かけたと思うから、ちゃんとお礼してね」
私も暫くは町の人全員にお礼とか挨拶回りかなあ。少なくとも、孝老樹を取りに行くのに、町の人全員必要だろうし……。
「あ、そのことなんだけど」
「何?ロイ兄」
「あー、俺より、道具屋の店番してたルーベンスの方がいいと思う。ルーベンス、」
「うん!あのねあのね!今日店番してたらね、異邦人さん達が来たんだ。それで、ナツ姉は店にいないのかって聞いてきたから、ナツ姉は熱で寝込んでるって言ったんだ。
そしたらその異邦人さん達、何か俺達にできることないかって言って来たんだ。何か必死そうだったし、ナツ姉のこと凄く心配してるのが分かったから、孝老樹とか癒双花とか取ってくるのを手伝って貰ったんだ。
だから、それらが取れたのは、町の人のお陰でもあるんだけど、異邦人さん達のお陰でもあるんだよ!」
「異邦人さんが…?」
「まあ、あの狸だけは、俺達だけで作ったけどな」
驚いた。異邦人さん達が、そんなことをしてくれていただなんて。
ロイ兄が言ってた狸は、確かに凄いと思った。
でも、そこじゃなくて。
私はその時、異邦人さん達に言われた、ある一言を思い出していた。
『ナツちゃんは、俺達が守る!』
分かった気がする。
あの言葉は、対して意味の無い、薄っぺらい言葉なんかじゃなくて、ちゃんと意味の込められている言葉なんだって。
私のこと、ちゃんと気にかけてくれてたんだって。
ちゃんと、心配してくれてたんだって。
私は多分、異邦人さん達をどこか違う人として見てたのかもしれない。
異邦人さん達も、町の人達と同じ暖かさを持ってるんだって、やっと理解出来た気がした。
「そっか……。よし!じゃあ明日のポーション作りに備えて、今日は沢山食べなくちゃね!ごめんね正座させちゃって。皆もういいよ、晩御飯食べよう!」
「……あー、ナツリム、そのことなんだが……」
「何?お父さん」
「ポーションのことなんだが……すまん!薬草が、無くなってしまったんだ……」
え
「ええええっ?!」
え、嘘でしょ?
こういったことでNPCのプレイヤーに対する態度が変化したりします。