第8問「教師だけのラスト10分」
翌日。
六時間目終了。
しかし今日は、いつもの3年Q組ではなかった。
体育館。
全校生徒が集まり、ステージには長机が並べられている。
そこへ校長先生、副校長先生、教頭先生、そして各教科の先生たち二十名が着席した。
「おぉー!」
「先生たちが挑戦者だ!」
「今日は楽しそう!」
生徒たちは大歓声を上げる。
九条先生はステージ中央へ歩き、マイクを持った。
「今日は、この学校初の『教師だけのラスト10分』です。」
「ルールは簡単。」
「先生方だけで考えていただきます。」
「生徒の皆さんは静かに見守ってください。」
「もちろん、読者の皆さんも一緒に考えてみてください。」
会場が静まり返る。
九条先生はホワイトボードに問題を書いた。
⸻
今日のQ【難易度:★★★★☆】
ある男の人が雨の中を歩いていました。
傘は持っていません。
帽子もかぶっていません。
しかし、
髪の毛は一本も濡れませんでした。
どうしてでしょう?
⸻
「簡単!」
体育館の後ろからそんな声が聞こえた。
しかし挑戦できるのは先生だけ。
数学教師・神崎先生。
「屋根があった?」
九条先生。
「違います。」
理科教師・大石先生。
「雨が止んでいた。」
「違います。」
英語教師・佐伯先生。
「走っていた。」
「違います。」
国語教師・桜井先生。
「カツラだった。」
「違います。」
体育教師・村上先生。
「防水スプレー!」
会場は大爆笑。
「違います。」
保健室の西野先生。
「レインコートのフード?」
「違います。」
校長先生も腕を組む。
「うーん……。」
時間だけが過ぎていく。
残り三分。
誰も答えられない。
九条先生はヒントを出した。
「問題文を、そのまま読んでください。」
教頭先生が突然立ち上がった。
「分かりました。」
体育館が静まり返る。
「男の人には……。」
「髪の毛が一本も無かった。」
「つまり……。」
「坊主ではなく、ハゲだった。」
一瞬の静寂。
次の瞬間――
体育館中が大爆笑に包まれた。
「そういうことかー!」
「一本もないから濡れない!」
「なるほど!」
九条先生は笑顔で拍手した。
「正解です。」
先生たちも笑いながら拍手する。
校長先生も大笑いしていた。
「完全に引っ掛かりました。」
⸻
【答え】
男の人には髪の毛がなかったから。
⸻
【解説】
この問題は、
「髪の毛は一本も濡れませんでした。」
という一文がポイントです。
多くの人は、
「髪の毛がある」
という前提で考えてしまいます。
しかし、
問題文には、
髪の毛があるとは一度も書かれていません。
髪の毛が一本もなければ、
当然、
一本も濡れません。
固定観念を利用した代表的なひらめき問題でした。
⸻
九条先生はステージの中央へ立つ。
「皆さん。」
「人は問題を読むと、自分で勝手に条件を付け足してしまいます。」
「それが『思い込み』です。」
「謎解きは、その思い込みに気付けるかどうか。」
「勉強も人生も同じです。」
「思い込みを減らせば、見える景色は大きく変わります。」
体育館は大きな拍手に包まれた。
その時、一人の一年生が手を挙げた。
「先生!」
「僕たち一年生も参加したいです!」
二年生からも声が上がる。
「二年生も!」
「私たちも挑戦したい!」
校長先生が立ち上がった。
「九条先生。」
「来週からは……。」
「全校ラスト10分にしませんか。」
体育館が揺れるほどの歓声が響いた。
九条先生は少し驚いたあと、ゆっくり笑った。
「分かりました。」
「来週から、この学校全員で謎を解きましょう。」
拍手はしばらく鳴り止まなかった。
『ラスト10分』は、ついに3年Q組だけではなく、全校生徒と全教師が楽しみにする学校最大の名物行事へと成長したのである。
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