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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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⌘勇者編 7⌘ あなただってそれほど変わらないくせに

 オルディオは、目の前の酒の臭いを嗅いだ。

 なかなか進まない軍の事を思うと、気が気ではない。

 ただ、じっと酒をみる。


「へい、ミーリアちゃん」


 男の声がして、バッと顔をあげる。

 離れた場所で給仕をしていたミーリアが男達に取り囲まれていた。


「これ、ちょっと飲み切れなくなっちゃったんだよねぇ」

 男はそう言って、大ジョッキをミーリアの前に差し出す。

「そうなの。残念ね」


 オルディオの顔が険しくなる。


 なんだアイツら。


「ミーリアちゃん、代わりに飲んでくれよ〜」


 その言葉が合図だった。

 ガゴッ。

 オルディオの立ち上がった拍子に、木製の椅子が倒れた。


 オルディオがズカズカと男達のところに行き、低い声で言い放った。


「何をやってる」


「ヒエッ」


 オルディオがそばにあったテーブルを拳で叩くと、テーブルの上に置いてあったナイフが飛び、オルディオの手の中に収まった。


「ヒエエッ」


 次の瞬間には、ナイフの刃は男の一人の頰に押し当てられていた。


「もしかして、こんな子供に酒を飲まそうなんて言ったのか?」


「す、すすすいません」


 青い顔をした男達が、引き下がって店から出て行った。

「ツ、ツケで!」

 そんな捨て台詞を残して。


「……大丈夫なのに」


 ミーリアは、助けてもらったにも関わらず、口を尖らした。

 それもそのはず。

 先ほどの言葉が、引っかかっていた。

『こんな子供に』


「大丈夫でも、だよ」


 オルディオが、頭の上から優しげな瞳で見下ろす。

 そんな瞳で見る癖に。『子供』だなんて。


 だからミーリアは、礼を言う前にこう言ったのだ。


「あなただって、そんな大人でもないじゃない」


 実際、オルディオはそれほどミーリアと違う年齢にも見えなかった。

 酒を飲んでいるのだから20歳以上なのだろうが、だからと言って、25……も超してはいないだろう。


 腰に手を当て詰め寄ると、オルディオは困ったように首を傾げ、

「20歳だよ」

 と言い放ったのだ。


「も〜〜〜〜」

 ミーリアの眉が、釣り上がる。

「二つしか違わないじゃない!」


「じゃあ、君は酒は飲めないわけだ」


「そうよ」


「僕は飲める」


 ミーリアはそこで、子供扱いされた不満を腹の中に収めるように、口をギュッと閉じた。


 そして次の瞬間には、もう、歌姫の顔になっていた。


 相変わらず言葉はわからないが、力強い言葉が、ミーリアの口から生まれ出す。

 それは早口のようで、行進曲のようで、そして軍歌のようでもあった。


「ヘイ!サア!」


 掛け声と共に、ミーリアが拳を天井に突き上げた。

 それに呼応して、店に居た人間達のほとんどが、掛け声をあげる。


「ヘイ!サア!」


 店の中に、これでもかという数の拳が突き上げられた。


 オルディオは、圧倒された。

 そして力強い足取りで舞台へ上がって行くミーリアに、尊敬の瞳を向けたのだ。

お酒は20歳になってから。

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