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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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⌘勇者編 6⌘ 歩こう

 オルディオは、じっとミーリアを見ていた。

 ミーリアが振り返ったところで、振り返った事に気付かないくらいに。


「何もないならもう、帰るわね」


 少し寂しそうに、ミーリアが呟く。けれど、口元には笑みをたたえ、

「送ってくれないの?」

 と付け加えた。


 その言葉を待っていたように、オルディオがやおら立ち上がる。


「いいよ」


 それだけだったけれど、二人にはそれで十分だった。


 空はまだ明るい青だ。

 青といっても、外は砂埃だらけで、空気はどこかいつでも茶色がかっているけれど。


「今日は、これから店?」

「ええ。歌うわ。聴いてくれる?」

「いや、今日はこれから訓練に出ないと」

「それは残念」


 残念と口にしながら、ミーリアは笑っていた。


「じゃあ、同じ時間にお仕事をしているあなたを讃えて歌うわ」


「それは……、嬉しいな」


 オルディオは、勇者として讃えられてすでに1年以上が経っていた。

 勇者の役割にも、すでにもう慣れた。

 けれど、讃えると言われて重荷や不快感を抱かなかったのは、今が初めてかもしれない。


 今まで、沢山の戦いに明け暮れ、剣を振り、パレードに参加し、演説し、拍手を受けてきた。

 それはどれも、嬉しいという気持ちからは程遠いものだったから。


 木で出来た家々の中を、二人で歩いていく。


 ふと、オルディオは顔を上げた。

 遠く、大きな……鳥か何かの羽ばたきのような音が、聞こえたような気がした。


 鳥が、いるのか?こんな砂嵐の中で。


 遠くに目を凝らす。

 けれど、遠ければ遠いほど茶色い砂で霞み、何かが見えることはない。


 もし、勇者軍に聖女が居たなら、こんな時不安にならずに済むんだが。


 聖女は、結界を張ることができ、その中に居る存在を探知できる、らしい。

 らしいというのは、勇者自身、聖女に会ったことがないためだ。


 聖女は、結界を張ることで、魔王軍の魔を探知することができる。勇者の力を探知することができる。

 だからオルディオを勇者として見出したのも聖女だということだった。

 今ここに居れば、この周辺の魔物も探知することができたはずだ。


 無いものねだりというやつだけれど。


 この街が危険に晒される事がないよう、願うことくらいいいじゃないか。


「どうかした?」


 ミーリアが、いつだって元気で居られるように。


「いや、なんでもない」


 早く旅立たなければ。

 そう思う。


 勇者は魔王の命を狙うもの。

 逆に言えば、魔王の手下や魔物に狙われやすいという事だ。

 ここに居れば、いつ戦闘になってもおかしくはなかった。


 この街が、戦場とならないよう。


 ……本当に、斥候はいつ戻ってくるんだか。




 少しの沈黙のあと、ドニーの店が見えて来た。


「……ありがとう。送ってくれて」


「ああ。また聴きに行く」


「ええ。必ず」


 突風の中で、金色の髪を抑えるその顔を見た。


「必ずよ?」


「ああ。……必ず」

勇者軍は聖女が居ないため、数でなんとか押し切ろうとしています。けれども、軍のみんなは少し不安みたいですね。

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