⌘勇者編 1⌘ それは運命を決めた出会い
「過去より受け継がれし宿縁、──抜剣」
空気が止まり、一閃。
勇者が剣を収めると同時に、背後で守られていた少女が勇者に抱きついた。
ムニン。
そのあまりの柔らかさに、勇者が心なしかピャッと跳び上がる。
「お嬢さん」
嗜める声に覆いかぶさるように、
「助かったわ!」
と少女が真っ直ぐに勇者を見上げた。
寸分の狂いもなく、勇者を見つめる瞳。
金色の揺らめく髪に、南国の海を写し取ったかのような翠の瞳。
「アイツら、あたしがぼったくりしてるなんて言うのよ?」
勇者は、剣を収めたその手とは反対の手で、その少女を制した。
目の前には、見るからに悪漢という言葉が似合う大柄な男が二人、転がっていた。
ここは、荒野の街オルテガ。
乾燥した土地を嘲笑うかのように砂嵐が飛び交う中で、人々が必死に暮らしている街だ。
太い丸太で作られた家々が取り囲む通りを、剣や盾を持った無骨な冒険者達が闊歩する。
草よりも砂の多いその地の道のど真ん中で、勇者は少女と向かい合う。
男が二人も倒れているというのに、誰も悲鳴をあげないどころか、素通りして行くばかりだ。
ここはそういう場所なのだ。
勇者は、その10代後半らしき少女を一瞥した。
ぼったくり。
その少女はそう言った。
こんな男達から金をもらうような仕事をしてるってことか。
そのスタイルとこの街に似合わぬ小綺麗な格好から、その仕事を想像する。
少女は、背後にある何の装飾もない店を指し示す。
それほど大きいわけじゃない、けれど中から男達の怒声のような声が溢れるように聞こえる店だ。
……これはそういう店なのか?
勇者は、その目を据わらせたまま、店の上から下まで眺め回した。
「……何か変なことを考えているでしょう?」
少女がずずいっと勇者に詰め寄った。
図星だった。
だってまさか、この店は酒場にしか見えないからだ。
『ドニーの店』と消えそうなペンキで書かれただけの店。
この店の中で一体何が行われているいるというのか。
「酒場よ」
酒場。
なるほど、酒場にしか見えないわけだ。
「じゃあ、君は酒を法外な値段で売ったのか」
「そんなわけないでしょう。ほら、来て」
手を引かれ、その華奢な手に驚く。戦場では、見ることのない手。
少女が店の扉をくぐると、ガラランガラランと酷く大きな音がした。
店の中が騒めく。
けれど、その騒めきは、波が引くように消えて行く。
少女は髪を手で軽く整えると、店の中央へカツカツと踵の音を立てて歩いて行く。
外で、きゃあきゃあと言っていた少女の面影を残したまま。けれど別人のような顔で。
「あたしは、ミーリア。ここの歌姫よ」
──歌姫?
その言葉を飲み込むよりも前に、勇者の耳に声が届いた。
何処の言葉だろうか。古代の言葉だろうか。もしかしたら、よく知っている言葉だろうか。
そんな透明で芯のある歌が、身体の中を揺らした。
……なんて、綺麗な歌声。
あの唇から、こんな歌が……?
心が奪われそうになったところで、歌姫の歌がやんだ。
不敵な笑み。
それは、一曲終わった合図だった。
「あなたの名前は、なんて言うの?」
「僕は、オルディオ・レグナヴェイル」
その瞬間、感心したような視線が勇者に突き刺さる。
「へえ」
それは、ミーリアでさえ、例外ではない。
「勇者オルディオ?」
そして、その瞬間、君が初めて僕の名を呼んだ。
その世界で最も多く呼ばれたその名前を。
僕は今でも、君と出会ったその瞬間を思い出すよ。
──出会わなければよかった。
そう、僕らは、出会わなければよかったんだ。
新連載です!今回はシリアスな冒険ファンタジーで行きます!いつも通り、恋愛てんこ盛りでいきたいと思います。これからどうぞよろしくね!!




