夕陽の向こう側
ヨシュアは峠道をゆっくりと歩いていた。
夏の日差しが肌を焼く。
小さなカバンと手に持った杖だけ。必要十分だ。
喉が渇いたら、川がある。
お腹が減ったら、木の実がある。
それで全ては事足りる。
頭の中にうるさく響く声。
その声を人々に伝えるため、ヨシュアは歩き続ける。
使命感や義務感という言葉では表現できない感覚。
あの人は今、どこで何をしているのだろう。
一緒に釣りに行った。
狩にも行った。
猫も探した。
でもきっと、あの人が僕に伝えたかったことは、僕には伝わらなかった。
紫の髪紐は鞄の底にしまってある。
いつか、必要になる時があるかもしれないから。
馬に乗り、平原の一本道を進む。
カティは焦っていた。
また間に合わないかもしれない。
その言葉を掻き消すように首を振る。
魔王との対峙。
暗いダンジョンの中、揺れるランプの光。
冷たくなる手の感触。
もう戻らない仲間たち。
魔王の最後の言葉。
あの時と同じ後悔の予感。
生き残ったのはシマと二人だけだった。
そのシマも失ってしまった。
ヨシュアと出会った時は、変えることができると思った。
あやつに魔法を教えた。
赤龍亭で飯を食った。
釣りに行った話を聞いた。
髪を結べと言ったのも、わしだったな。
遅かったのかもしれない。
まだ間に合うのかもしれない。
風に揺れるヨシュアの黒髪を思い出す。
馬上のカティの心の声は、風に吹き飛ばされることなく、ずっとまとわりついていた。
ジョニーは思い出す。
赤龍亭のコカトリスのグラタン。
美味かった。
ヨシュアにも食わせてやりたかった。
連れ戻したら、また狩に行こう。
釣りにも行こう。
罠の仕掛け方も教えよう。
ヨシュアに教えたいことがまだ沢山ある。
石になった人を見捨てようとしたこと。
村で先導者と呼ばれていたこと。
俺には、難しいことは分からん。
誰だって間違える。
間違えたらやり直せばいい。
今度会ったら、ヨシュアを叱ってやらなきゃな。
ジョニーは鞭を打ち、馬を走らせた。
夕陽がそれぞれの影を長く伸ばしていた。




