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赤龍亭と天井桟敷の人々  作者: now here man


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3/19

中年狩人、謎の少年と出会う。

とある狩人の散々な一日。

小鳥達の囁きと木の葉を揺らすそよ風。覚醒する直前、夢の境界線を揺蕩う。

小鳥達が飛び立つ羽音に目を開ける。

深藍色の空を背に、漆黒の稜線が見える。

まだ、夜が明ける前だ。体を起こし辺りを見渡す。背後に大きな岩があり、タープを張れば夜露を凌げる為、今回の拠点にした山の中腹である。足元を見下ろすと300メートルほど下に川が流れている。現在地はタルシス大陸南部のアルバ山の中腹。俺が拠点にしている王国南部に位置する地方都市からさらに南である。


20年ほど前、爆炎の魔法使いと呼ばれる魔法使いのパーティーが魔王を討伐して以来、この近辺で魔物を見かけることが無くなって久しいが、野犬や狼、蛇などの野生動物に対する警戒を怠る訳にもいかず、一晩焚き火を切らさぬようにしていたが、いつの間にか眠ってしまったようだ。

昨晩の焚き火はとっくに消えており、火を使うのであれば始めから火を起こさなければならない。

一つため息を吐き、焚き火は諦める。

大きく伸びをして体の状態を確認する。野営は3日目だが大丈夫だ、しっかりと疲労も回復している。ケガも筋肉痛もない。用心のため虫除けを露出している肌に塗り込む。


まずは朝飯だ。

昨晩仕掛けていた小動物用の罠に獲物がかかっていないか確認しよう。

ブーツの紐を締め、愛用の大型ナイフを腰にぶら下げ、身の回りのものを小さなバッグに押し込む。

準備をしている間に空が少し明るくなってきた。

立ち上がり服に付いた埃を手で払い、歩き出す。


一昨日、山の傾斜を少し登ったところに開けた草地を見つけている。ウサギの足跡と草を食べた痕跡、巣穴と思しき穴を見つけていたので、皮ひもと木を使ったトラップを仕掛けた。単純に輪を作っただけのドラッグスネアと呼ばれるタイプで、ウサギの通り道に3箇所、誘導するための障害物も併せて設置している。上手くいけば、ウサギにありつけるかもしれない。


仕掛けていた罠を一つずつ確認する。

1つ目、変化なし。2つ目変化なし。3つ目変化なし。

全部ハズレとはついていない。いや、ウサギの方が賢いというべきか。罠をよけて足跡がある。

罠には、人の匂いがつかないようにそのままにしておく。明日こそは、と思いながら拠点へ戻る。

さて、朝飯だが雑嚢の中に固いパンと干し肉があったはずだ。水筒に水も残っているはず。今朝はこれで我慢しておくか。


固いパンを頬張りながら手早く荷物をまとめる。再度焚き火の火が完全に消えているかを確認し、念の為足で土をかける。手早くタープをたたみ、ロープとペグもきれいにまとめる。ここで手を抜くと次のタープ設置で手間取ることになる。


タープなどを荷車に積み込みながら荷物を確認する。残り一日分の食料、大型のシャベルに小型の鍋などの調理用具。一人用の荷車をさらに小型化して獣道でも通れるように改造した荷車は、ここに置いていく。


一昨日から目星をつけている今回の獲物は、大型のヘラジカ。肩高が2メートル、体長3メートルほどある大物だ。ツノと毛皮が高値で売れる、おまけに肉は飛び切り旨い。


秋口の今が発情期で、特徴的な雄の大きな角は縄張り争いやメスを巡る攻防で使われる。一昨日見つけた足跡を追ってきたが、この周辺を縄張りにしてリーダーの大型の雄と雌3頭のグループで行動しているようだ。


俺の商売道具は大型のクロスボウ。2メートル近くの大きさの木製で、弓を引くのに先端に取り付けた鐙に足をかけ全身で弦を引っ張るタイプである。慣れてくれば、次弾の発射まで15秒ほどで行える。矢ではなく、ペン型の鋼鉄製の細長い鏃を発射するように改造してある。射程距離は150メートルほど、獲物のヘラジカが水飲み場にしている場所から100メートルほどの場所を狙撃ポイントにしている。

昨日は終日待機していたが、タイミングが合わずに丸一日棒に振ってしまった。


狙撃ポイントに向かう前に手持ちの荷物を確認する。

一食分の食料と水が入った革袋、火打石に着火用の松ぼっくり。虫よけの薬に、包帯と消毒用の火酒と間食用のナッツ類を入れた小袋を雑嚢に詰める。

ボウガンの弾は取り出しやすいように腰の皮袋へ、念の為20発ほど。後でカモフラージュ用として使う濃緑色のマントを羽織り、ブーツの紐を締めなおす。


生い茂った木々と下生えを掻き分け、極力音をたてないように気を配りながら黙々と歩を進める。明るくなってきた空には薄く光る月が二つ。徐々に気温も上がりつつあり、秋口で涼しくなってきたとはいえ肌にジワリと汗が浮かぶ。


直線距離は大したことがないが、目的の狙撃ポイントまでは曲がりくねった獣道を降りていくため時間がかかる。秋風が揺らす木の葉の音と、自分の息遣い。ただ無心に足を動かす。


小1時間ほどかけてようやく狙撃ポイントへ到着する。呼吸が整うのを待ち、狙撃場所の周辺のチェックを開始する。真新しい野生動物の足跡もなく、蛇や害虫の痕跡もないことを確認したうえで、地面に腰を下ろす。


昨日と一昨日観察した結果、この群れは午前中1回、夕方頃に1回水草を食べて水分補給をするために狙撃ポイントから狙える川辺に現れる。


雑嚢から水の入った革袋と間食用ナッツ類を小分けにして入れた布袋を一つ取り出す。今日も長期戦になることを想定し、軽く腹ごしらえをしておく。

昨日同様、人ひとりが横になるスペースへ必要なものを手順良く準備していく。


まずは午前中のタイミングを狙う。しばらくは体を動かさなくていいように楽な姿勢で地面を背に、ボウガンをいつでも発射できる姿勢を確保する。


自然なリズムに体を任せ、心を無にして待つ。狩人は待つのが仕事だ。慣れたものである。

聞こえてくるのは、自分の呼吸、風が吹くときに踊る木の葉、遠くから聞こえる鳥の歌声。五感を研ぎ澄まし、その瞬間が訪れるのを待つ。


そのリズムを乱すように、木の茂みを揺らす音が聞こえる。

この周辺に動物が通らないことは確認済であるが、確認のため周囲を見渡す。茂みを揺らす音が徐々に近づいてくる。


腰のマシェットナイフに手を伸ばす。普段は草木を切り払うのに使っているが、いざというときは護身用に使う刃渡り30cmほどの長年の相棒だ。

身構えて待っていると、木の茂みから出てきたのは15~16歳程度の細身の少年だった。俺は肩の力を抜き声をかける。

「こんなところで何をしてるんだ。」

少年は答える。

「見たことがない鳥がいたから追いかけてきたんだ。いつの間にかこんな山奥まで来てしまった。」

言葉が通じることに安心し、言葉を続ける。

「こんな人が来ないところまで来るなんて、不用心だな。」

「鳥に夢中になってしまって・・・」

言葉が終わる前に、少年の体がぐらりと揺れ片膝をつき、そのまま倒れこむ。

慌てて手を差し伸べる。少年を抱きかかえるようにして受け止め、ゆっくりと地面に寝かせる。

「大丈夫か?」

少年に声をかける。

「ここ3日くらい、何も食べてないんだ」

「3日も?何やってるんだ。ちょっと待ってろ、何か食べるものを出すから。」

少年を地面に寝かせたまま、雑嚢を探る。固いパンと飲み水を取り出す。狩りはいったん中断だ。

軽くため息をつき、少年に水が入った革袋と固いパンを渡す。

少年が軽く微笑む。

少年は、相当腹が減っていたのだろう。しかし驚くほど上品な手つきで、食事を平らげた。

「ありがとう」

「困ったときはお互い様だ。気にするな。」

「僕の名はヨシュア。ヨシュア・クリストス。南の方から来たんだ。」

「俺はジョニー・ウォーカー。ジョニーって呼んでくれ。なんでこんな山奥に居るんだ」

少年はやや落ち着いてきたようで、地面に座り直す。

「僕は人を探していて、街道沿いの村や町を回りながら旅をしているんだ。」

改めて少年を見てみると旅をしている割には軽装だ。ベージュの麻の半袖のシャツにひざ丈のこげ茶色のズボン。足元は革のサンダル。その上には膝くらいまである長いベージュのマント。大きな木の杖は少年の右手の傍でいつでも掴める位置で地面に置いてある。

「おじさんは狩りをしてるの?」

「見ての通りだ。キミのおかげで集中が切れてしまったよ。俺も早めの昼飯にする。いったん拠点へ引き上げるよ。」

「おじさん、パンをありがとう。生き返ったよ。」

「さっきも言ったが、困ったときはお互い様だ。よかったらこれをもっていきな。」

昼食べる予定だった食糧をまとめて小袋に入れ、少年へ渡す。

「ありがとう。主があなたを祝福し、あなたを守られますように」

「キミの旅にも主の祝福がありますように」

俺は無神論者だが、祝福を祈ってくれた少年に言葉を返す程度の礼節はわきまえている。

少年は立ち上がり、服についた埃を払い杖を拾い上げる。

少年は微笑みながら会釈をし、川に向かって山を下り始める。


少年を見送った俺は、いったん荷物をまとめる。荷物は置いたまま拠点に向かって山の傾斜を登り始める。身軽になったため、30分ほどで拠点へたどり着いた。


荷車から調理用具一式を出し、昼食の準備を始める。

まずは焚火だが、昨日集めておいた枯れ枝や薪があるため火をつけるだけで大丈夫だ。あらかじめ小枝をナイフで削り、火が付きやすくしたものと松ぼっくりを昨晩焚火をするために、風よけとして置いていた石の輪の中に準備する。着火用の麻と火打石、火打ち金を取り出す。火打石の上に麻の切れ端をかぶせるように持ち、火打ち金を擦るように打ち付ける。2回ほどで火種が出る。小枝と松ぼっくりをまとめたものに着火できたのを確認し、息を吹きかける。燃焼しだした火の状態を見ながら小さめの枝から追加していく。我ながら手際が良い。伊達に野外生活が長いわけではないのだ。


「おじさんか…。」

先ほどの少年の事を思い出し、一人微笑む。


長めの枝を三脚のように組み合わせて、鍋をつるす。鍋に水を張り大麦のポリッジ(お粥)を作る。トッピングには干し杏。残りの食料はあと一食分ほど。食料は現地調達するつもりだったが、仕掛けていた罠に獲物もかからず、あてにしていた果物は先客がいただいてしまったようで食べ残しばかりだ。


昼から再度ヘラジカを狙い、駄目であればいったん拠点としている地方都市まで引き返すべきかもしれない。食事を終わらせ、手早く片付ける。鍋などは戻ってから洗えばいいと思い、布で拭くだけにする。


狙撃ポイントに戻り、手早く準備し待機する。

夕方日が暮れるまでの長丁場。心を無にして川辺に視線を向ける。相変わらず天気は良く、秋だというのに軽く汗ばむほどに気温が上がる。水筒の水を一口飲み、周囲を見渡す。今のところ邪魔をする闖入者はいないようである。


2時間ほどたっただろうか。ふいに鷹の鳴き声が聞こえる。川の上の開けた空間で螺旋を描き飛んでいる一羽の鷹が見える。太陽の光を背に受け全身が明るい薄茶色に輝いて見える。獲物を見つけたようで、螺旋を描きながら徐々に下降していく鷹。ふと一瞬止まったかに見えたその瞬間。一直線で川面に飛び込む。穏やかだった水面が光を乱反射する。見事に獲物を捕まえたようだ。くちばしには銀色に輝く鱗

。魚をくわえた鷹は定規で引いたような直線を描き飛び去って行った。

続く。

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