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赤龍亭と天井桟敷の人々  作者: now here man


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12/19

中年狩人、魔法のアイテムに嫉妬する。

どこまでも続く秋晴れの空の下、行商人の馬車が遠くなって行くのを3人で見送る。

カティは黒で縁に金色の刺繍を施したマントを羽織りフードを深々と被る。

「いつもそんなに深くフードをかぶってるのか?」

「お主は阿呆よのぉ。乙女の柔肌に日光は大敵じゃ。わしは外出する時は必ず日焼け対策を万全にしておる。わしのピチピチのお肌は日頃のケアのおかげじゃ。」

「杖は?忘れたのか?」

カティは溜息をつく。

「魔法使いが杖を持っているなど、いつの時代の話じゃ。」

カティは肩をすくめる。

「あれは初心者用じゃ。わしくらいになると杖などいらん。」

軽く機嫌を損ねたようだ、話題を変えよう。

「ヨシュア、羊がいなくなったのはどの辺りだ?」

「すぐ近くだよ。この丘を降りてすぐ。」

今晩一晩は調べる時間がある。まずは野営場所の確保だ。

行商人が降ろしてくれたのは、小高い丘の上の街道と呼ぶにはやや小さい通りで、周りは見渡す限り草原となっていて、遮るものはほとんどない。


秋とはいえ夜は冷える。しかもレディがいる以上、焚き火を囲んで雑魚寝はまずいだろう。

風を遮れて、周りに危険なものがなく、いざとなれば身を隠せるものはないかと野営に適した場所を物色していると

「お主は何をしておるのじゃ?」

「羊の件を調べる前に、今晩の野営場所を探してるんだが。」

「そんなもん構わん。わしの秘密の7つ道具を出してやる。」

カティは持ってきた鞄をゴソゴソとまさぐる。

しばらくして目当ての品を見つけたらしく、俺とヨシュアの顔を交互に見つめて、いたずらな微笑みを浮かべる。

「ヨシュアにも初めて見せるな、これが本当のマジックアイテムじゃ!」

カティの手のひらには小さな円形の屋根のテントのミニチュアがある。いわゆるゲルと呼ばれる遊牧民が使う移動式のテントだ。

「これじゃ流石に3人は泊まれないな。」

「阿呆!このままで使うわけがないじゃろ。この魔法のテントは軽く魔力を注ぐと、このようにちゃんとしたテントになるのじゃ。」

小声で何かを言いながら、カティは手のひらのミニチュアを遠くへ放り投げる。

すると、小さな爆発が起きたような音と共に白い煙が当たりを包む。白い煙が風で流されると、先ほどのテントが実物大となって現れる。

ヨシュアと俺は半信半疑でテントに触れてみる。幻術の類ではないようだ。

中に入ってみると、しっかりとした木製のフレームがあり、壁は羊毛のフェルト製で風を遮ってくれる。しかもテントの中央部には石で作った暖炉、さらに天井の中央に向かって煙突もある。

「どうじゃ、驚いたか?」

「凄い、魔法ってこんなこともできるんだ。」

ヨシュアは心底驚いたようで、口をぽかんと開けたまま、テントの中を何度も見回している。

「片付ける時も一言呪文を唱えれば、元のサイズに戻る。便利じゃろ。」

流石にこれはずるいだろ。長年野外で野宿を当たり前にしていた自分からしたら、納得がいかないレベルだ。

「これは昔パーティーを組んで冒険をしていた時に見つけたマジックアイテムじゃ。どこでも売っているわけではない、一点モノじゃぞ。」

俺の心を見透かすような言葉。魔法って心の中まで覗けたりするのか?

「今日の宿の心配はいらん。早速羊の件を調べようではないか。」


ヨシュアに案内されて、羊がいなくなったと言う場所へ向かう。馬車で送ってもらったため、まだ朝の10時くらいだ。

件の場所は、馬車から降りた場所からやや東へ移動した場所で丘の麓の部分にあたる。大きな木が一本生えていて、木の下には焚き火をした跡が残っている。

「マックスウェルさんはここで一晩野営をしていたらしいんだ。そして朝になったら羊が一匹いなくなっていた。」

俺は、何かの痕跡でも残っていないかと地面の上を草の茂みをかき分けながら調べて行く。ここ数日は雨も降っておらず、はっきりとした足跡などは残っていない。

羊や馬の足跡がうっすらと残っているが、判然としない。

「こんな所にいい感じの杖があったよ。」

ヨシュアは手に持った杖を掲げて見せる。淡いクリーム色のヒッコリーで作った杖で、1メートルほどの長さ。細かい細工が施してあり、持ち手の部分は手垢がついている。杖の先もやや削れているため、誰かの愛用の杖なのだろう。よく見ると持ち手の部分に掠れかけたDとMの文字が刻まれている。

「魔法使いの修行をするんだったら、こんな杖を持っていた方がいいよね。しばらく借りておこうかな。」

「持ち主が現れたら、ちゃんと返してあげるのじゃぞ。」

ヨシュアは頷き、杖を握りしめている。


「近くに、マックスウェルさんのお兄さんの家があるってことだから、話を聞きに行ってみる?」

ヨシュアの提案で3人でマックスウェルさんのお兄さんの家に向かうことにする。

羊がいなくなった現場から北へ歩いて2時間ほどの所とのことだ。

3人は黙々と目的地を目指す。


まばらな木々に囲まれた屋敷が見えてくる。三階建ての屋敷には蔦が絡みつき、建てられてからかなりの年月を経ていることが窺える。

屋敷に近づくと門が軋みながら開き、中から男が出てくる。小柄でがっしりとした体格の白髪の男で、身だしなみはきちんとしている。

俺は男に問いかける。

「こちらは、マックスウェルさんのお屋敷でしょうか?」

「左様でございます。何か御用でしょうか?」

「近くで、羊が行方不明になったということで何かご存知ではないでしょうか?」

「私は何も存じませんな。ご主人にお会いに来られたのでしょう?お呼びいたしますので、少々お待ちください。」

男は、一旦門の中に消える。しばらくしてこの家の主人と思しき男を伴って再び現れた。

「私にお役に立てることがありますか?」

40代くらいの色が薄い金髪を一つに纏めた男。やや生気のない表情の細身で長身の男は足が悪いようで、右手にヒッコリー製だろうか、真新しい杖を持ち軽く足を引き摺りながらこちらに近づいてくる。

「羊の件で、何かご存知ないでしょうか?」

「シルヴィアの事ですね。よかったら中で話しませんか?」

男に誘われて俺たちは、屋敷の中へ入る。


屋敷の中は、高価そうな調度品が品よく揃えられ裕福な暮らし向きなのが伝わってくる。

通された応接間も、決して派手なものではないがこの家の主人の趣味の良さが伝わってくる上質なもので整えられている。

ソファにかけるように促され、男の話を聞く。

羊を失ったシルヴィアはこの男、ドレ・マックスウェルの年の離れた1人きりの妹だそうだ。5年ほど前に父を亡くし長兄であるドレが家督を継いだ。母親はかなり前に病で亡くなったとのことだ。先ほど出てきた男はこの家に先代から使えているそうで、夫婦でこの家の雑事を片付けてくれている、執事と家政婦のような存在という事だ。

マックスウェル家はこの地方では有名な代々続く大地主で、広大な土地と多くの家畜を所有しており、多くの小作人を抱えている。大地主の娘として何不自由なく、両親の愛情を注がれて育ったシルヴィアは、成人した後も自由に振る舞い、兄が連れてきたお見合いの相手も悉く断り、また財産にも興味がないようで、兄の羊を預かって羊飼いとして働くことで満足しているようだ。

羊の件に関しても、ドレは特に思い当たる節はないとの事である。

大した収穫は無かったようだ。俺たちはドレに礼を言う。

屋敷から出ようとした時、年配の女性から声をかけられた。


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