46.増えた目的
それでもカルヴァル将軍をこのまま放っておく訳にはいかない。
もし立ち聞きしてしまったあの騎士団員達の話が本当だとしたら、ここで皇帝を暗殺する為の計画が進んでいると言う事になるからだ。
(とは言っても、ここで堂々と出て行く訳にはいかないし……このまま一旦上に上がってそのままグルっと迂回してしまえば、見つからずに山を降りる事が出来そうね)
カーレーヴェン渓谷とダリストヴェル山脈の間で立ち寄った、あの小さな村でこの山脈の地図も手に入れてあるトリスは、そうした事前の準備を怠らない。
ただし今回の様にイレギュラーな事態が起こった場合には、まだなかなか対応し切れない事もある。
それにこうして会話を聞いてしまった以上、ここでもし王宮騎士団の団員達に見つかってしまったら確実に命を狙われるのは目に見えているので、周りの状況……特に足元に小枝みたいに踏んで音が出てしまう様な物が落ちていないかを確認しつつ、さっさとこの場から離れる事にする。
それにしても、帝都のアクティルで聞いていた騎士団のいざこざと言うのがまさかこんな場所で繋がって来るなんて思いもしていなかった。
(王宮騎士団の、それもまさか将軍が反乱を企てているって事になると……この先のイディリーク帝国の未来は一体どうなってしまうのかしら?)
生い立ちが複雑であるとは言え、自分も一応皇帝に近い人間ではあるので自然とそう言った感情が湧いて来る。
ちなみに、もしかしたら自分と兄のリュディガーは今の両親から生まれた人間では無いのではないか? とトリスは思っている。
今の皇帝のリュシュターは、元々孤児だったのを前の皇帝に拾われて皇帝になった。
それは周知の事実ではあるし、前の皇帝に子供が居ないと言う事も広く知られている事だ。
だからと言って、元々孤児だった人間を召し抱えて皇帝にしてしまうのはどうか? と言う不満が渦巻いているのもまた事実。
そしてそれに関連して、これは本当に噂程度でしか聞いた事が無いのだが、実は前の皇帝には子供が居たのではないかと言う話がある。
しかもその数は1人では無く2人だとも言われているし、もしかしたらそれ以上の子供が居たのかも知れない。
だがもしそうだとしたら世間に公表する筈なのに、国民が知っているのは「子供の居ない皇帝」であると言う事実のみだ。
そう考えてみると、前の皇帝に子どもが居たとしてそれを公表出来なかったと言う事実があるのだとしたら、それ相応の理由があるからに違いない。
この話は以前自分の親戚である、皇帝に近い立場の人間達が話しているのを偶然トリスが聞いてしまったのである。
その時は「まさか」と思って居たものの、何故だかその話が心に引っかかって仕方が無かった。
帝都のアクティルからはるばるここまでやって来た当初の目的は、兄のリュディガーに追い付く為だけだった。
しかし今はそれだけでは無く、皇帝の暗殺を止めてその噂が本当かどうか確かめたい気持ちで一杯なのだ。
(ここでもしリュシュター陛下が殺されてしまったら、私達の生い立ちも分からないままに生きて行くしか無くなるかも知れないからね)
そうなると心に一生モヤモヤが残ってしまう結果に繋がると思うので、その偶然聞いてしまう形で手に入れた情報を今はリュシュター陛下に知らせなければならないだろう。
しかし、王宮騎士団が絡んでいるとなれば下手に動く事も出来ない。
騎士団でいざこざがあると言う事は、王宮騎士団だけでは無くその下に位置している兵士部隊の隊員達や近衛騎士団の団員達も信用出来ないからだ。
ヘタに口を滑らせて、思わぬ所から情報が漏れたと分かってしまえば、このリーク元である自分が真っ先に命を狙われてしまうだろう。
(この話はひとまず、お兄ちゃんにだけは話しておいた方が良いわね。いや、お兄ちゃんだけにしか話さない様にしよう、と言う方が正しいわ。王宮騎士団が暗殺の為に動いていると分かっちゃった以上、信用出来るのは皇帝陛下とお兄ちゃんぐらいだから……)
そう考えつつ、山をどんどん上に上に登って行くトリス。
地図で確認してみると、もう少しでまた休憩出来そうな場所があるのが地図に記載されている。
そこはどうやら山の鉱物が色々採れると評判の洞穴らしく、そこで今日は1人でキャンプを張る事にした。
勿論、王宮騎士団員達がそこに居ないと言う事が前提条件なのだが。
その洞穴からもう少し上まで進めば迂回出来るルートがあるのだが、流石にそこまで進むのは時間的に厳しい。
馬に乗ってここまでやって来た分、体力に余裕があるので進めるだけ進みたいのだが、それで魔物に襲われたり他の王宮騎士団員に見つかってしまうのは最悪のケースだ。
もうそろそろ日が暮れるので、夜になってしまえば王宮騎士団の団員達が居るとは言え、山の魔物が活発になる時間帯になる。
そんな中で自分1人ではかなり不安なので、さっさと王宮騎士団の団員に見つからない様にその洞穴にキャンプを張ってしまおうと決意して、周囲の状況を用心深く確認しながら進んで行くトリスであった。




