47.聞こえて来た角笛
(とりあえずキャンプを張る事が出来て良かった)
目的の洞穴に辿り着いたトリスは、無事にキャンプを張ってその中で一夜を過ごした。
洞穴の中に魔物が居ないかどうか不安だったものの、その心配は杞憂に終わったらしく何とか朝を迎えた。
しかし、問題はここからである。
無事に朝を迎えられた事でほっとしているのだが、そう言った所で油断が生じた結果、魔物がいきなり襲い掛かって来た時に反応出来なかったり、王宮騎士団員に見つかってしまったりと言う事だけは避けたい。
山脈の中央部まで来ている以上、これ以上山の上に登るのは余り好ましくない。
下手に山の深い所まで入ってしまったら、マップがあるとは言え迷ってしまう可能性もあるからだ。
だからさっさとこの山を下りる為に、相変わらず殺気の蔓延している状況に身震いしつつもトリスは足を動かす。
だが、そんな彼女の耳に足音がまた複数聞こえて来た。
(えっ、まさかまた……)
麓付近であの騎士団員達と出会ってしまった、昨日の歯がゆい光景が頭の中にフラッシュバックして来る。
ガチャガチャと金属の音が足音に混じっているのもあって、また武装している人間がやって来たと見て間違いないだろう。
咄嗟にトリスはそばの林の中に隠れて、昨日と同じく木々の間から様子を窺う事にする。
(今度はこっちに来ません様に……)
またこっちに来られたらかなりのデジャヴなので、それだけは本当に勘弁して欲しいと思うトリスの目の前を、ガチャガチャと鎧の音を響かせながら歩く大勢の王宮騎士団員達が通り過ぎて行く。
幸いにもこっちに気付いている様子は無いのだが、昨日危うく見つかりそうになったあの王宮騎士団員達とは比べ物にならない数である。
(何だか……かなりの数が居るわね?)
もしかしたらこれが本隊なのかも知れない。
そう考えると昨日の王宮騎士団員達の会話の中で出て来ていた、麓の見張り番と言う感じのセリフも納得が行く。
しかし、それとは別に納得が行かない事がある。
(皇帝1人を暗殺するだけなのに、何でこんなに人数が必要なのかしら?)
トリスにとってはそこが不思議なのだ。
確かに皇帝がここまで来るとなれば、それなりに護衛の人数は必要だろう。
だが目の前を通り過ぎて行く騎士団員達の数は、これから戦争にでも行くのかと思ってしまう程である。
しかも王宮騎士団員のみならず、兵士部隊の隊員達も王宮騎士団員達に混じって進軍しているのがトリスが見ている位置からでも分かる。
それに、他にもまだ違和感を覚える事があった。
(皇帝がここまで来るんだったら、それこそ近衛騎士団が動かないといけない筈なのに、近衛騎士団の団員達は一体何処に居るのかしら?)
目の前を通り過ぎて行く王宮騎士団と兵士部隊の面々は、その方向を見てみるとどうやら麓の方に向かっているらしい。
と言う事は何処か別のルートから入って来て、一旦上まで行ってわざわざ下に下りて行っている様だ。
(上からわざわざ下に下りて来ているの? そうだとしたらやっぱり妙よね)
何か理由があってそうしているのだと言うのは何となくトリスにも理解出来たが、その詳細までは自分の目の前を今こうして通り過ぎている、大勢の人の武装している団員と隊員達しか知らない事だろう。
とにかく今はここで一団が通り過ぎるのを待って、気配が消えたら自分も麓に向かおうと決意したその矢先、トリスの耳に何処からか角笛の音が届いた。
(えっ……?)
その角笛は、ダリストヴェル山脈の中の離れた場所に居るリュディガーとバルド、そしてフェリシテにも届いていた。
「何だ今の音?」
「これ……王宮騎士団の連絡用の角笛の音だわ!」
「角笛? 誰が鳴らしているんだ?」
遠くまで良く響き渡るその音に、望遠鏡でトリスの姿を見つけてその方向に向かっていたリュディガーとフェリシテとバルドも気が付いた。
角笛が鳴った方向とトリスを見つけた方向はどうやら同じらしいので、どうせなら2ついっぺんに確認してしまおうとその方向に急ぐ。
……筈が、どうやらそう上手くは行かないらしい。
何故なら運悪く、武装した王宮騎士団員達が2人の行く手に現れて遭遇してしまったからだ。
「おい、何者だ貴様等?」
「俺達か? 俺達はこの山に薬草を採りに来たんだ」
だが突然こうして遭遇しても顔色を変える事はせずに、リュディガーは冷静な口調で王宮騎士団員達に告げる。
ここでかえってあたふたしようものなら、怪しまれるのは間違いないからだ。
「薬草だと? 御前達、まさかギルドからの依頼でここに来たと言うのか?」
「そうだが」
「それだったらさっさと出て行け。今ここは取り込み中なのでな」
「取り込み中だって?」
その「取り込み中」が何なのかは3人も気が付いているが、ここは勿論知らない振りをして王宮騎士団員達に聞いてみる。
だが、そんな王宮騎士団員達の中から信じられない人物が姿を現した。
「た、助けて下さい!!」
「えっ……?」
「あ、貴方は!?」
その姿を見せた人物に、元々喜怒哀楽の激しいバルドは元より、リュディガーも明らかにその表情を変えて反応する。
それに、表情が変わったのは王宮騎士団員達の方もそうだった。
「なっ……おい、ちゃんと縛っておけと言っただろう!!」
どうやら見られてはまずい光景だったらしい。
それもその筈、このイディリーク帝国のトップの存在である皇帝のリュシュターが何故かここに居て、しかもリュディガーとバルドとフェリシテに助けを求めて来たのだから。




