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また、私しかいない世界で  作者: 井土側安藤/果実夢想
第五章――I was watching over you.
48/81

47――妹のお年頃

「ここは……」


 俺はまた、夢を見ているのだろう。

 最早お馴染みとなったこのだだっ広い荒野。地平線の先にまでずっと続いて等間隔で並んでいる誰かの墓石。

 そして、それを一つずつ綺麗に磨いている少女。


「またここか……悪夢ってわけでもないし、どうせならもうちょっとバリエーション増やしてほしいよなぁ」


 夢に悪態を吐いたってどうにもならないことは分かっていたが、そう言いたくなるもの致し方ない。

 毎度この夢では劇的なことは起こらない。唯一、あの少女に殺される落ちがあったのは覚えているが、あれも俺からこの夢に干渉しようとしたから起きたことだ。

 俺が何もしなければ、この夢の中では何も起こらない。

 それが退屈で仕方ない。


 いったい、この夢は俺に何を見せたいのか。

 俺の中のどんな記憶が、この夢を見せているのか。

 こんな光景、最初にこの夢を見るまでは全く知らなかった。見たこともないし、こんな場所があるなんていう話すら聞いたことがない。

 そもそも、俺がもといた世界にこんな場所あるのだろうか?

 空は常にヘドロのような暗雲に覆われ、風は湿気て生暖かい。右も左も前も後ろも、ずっと同じような光景が広がって先が見えない。世界の全てがこの荒野であるかのようにさえ感じた。


「待てよ……そう言えば」


 思い出す。

 この夢と現実で起きたことの共通点を。

 荒野での夢を見た直後は、毎回何かよくないことが起きている。この世界に来る直前も、俺はこの夢を見ていたし、エリーマイルでもそうだった。

 だとしたら今回も、何か起きるのではないだろうか?

 そう思うと居ても立っても居られない。早く起きて皆が無事かを確認しなければならない。

 ただ、自分から夢を覚ます方法なんて分からない。なのでまた、あの少女に殺されるように墓に触れてみることにした。


「……誰の墓なんだろうな」


 前回やった時のように、石に彫られた文字を指でなぞる。

 すると、今度はなんと書いているのかがなんとなく分かった。


「アルファベットと記号……?」


 RE : BURY――?


 Bury?

 埋葬――ってことは、名前じゃなくてここに埋葬してるってだけの意味か?

 ここに眠る、みたいな意味なら分かるが、他に名前だと思えるような文字はどこにもない。


 いったいこれがどういう意味なのか、それを確かめる間もなく、前と同じく俺はあの少女に殺された。

 少女は俺が、他の誰かではないと言った。

 何故今来たのか、遅かったと。

 本当に、この夢は意味が分からない。

 いや、夢ってそういうものか……?



「――っ、リコリスは、大丈夫だな」


 女王様は今も横で寝息を立てて眠っている。それで一度安心し、起こさないようにベッドから出る。

 カーテンを開けて外を見ると、まだほんの少し暗かった。

 時計を見ると――いや、ここは異世界だったな。じゃあ時計なんてあるはずが……ん? だったら今まで俺はどうやって時間を知っていたんだ? 時計は……

 壁に、時計がかけられていた。

 もといた世界のものと全く同じ、大小の針が1から12の数字を示す時計。

 そうなると、この世界の暦も自然と太陽暦になってくる。


 なんで、異世界のはずなのに同じなんだ。

 でも確かマルメロは異世界から人が来ることはそう珍しいことでもないと言っていた。だったら、はるか昔にこの世界を訪れた、俺と同じような世界にいた異世界人が、自分の世界の技術を持ってきてそれが今も使われていたとしてもおかしくはない。

 当たり前のことのように感じていたが、皆が話す言葉だって俺は理解できている。


 どうしてか、全身に鳥肌が立つ。

 これは元の世界に戻る為のヒントになるかもしれない、なのに何故か足元から這い寄ってくるような恐怖を俺は感じていた。

 怖い。何かが後ろで俺の首筋に手を当てているような。


「違う……大丈夫だ。何もない。何も恐れることなんかない」

「どう、したの?」


 寝ぼけまなこをこすりながら、リコリスが目を覚ました。

 どうやら、起こしてしまったようだ。


「ごめんな。うるさくしちまって」

「何かあった? 怖い夢、見た?」

「いいや、つまらない夢なら見たけどな。それはそうと、ちょっとトイレに行きたいんだけど、一人じゃ怖くてな、ついてきてくれないか?」


 変な心配をさせる訳にはいかないと思い、適当な嘘をついた。

 これで、皆に何もないか確認しないと。


「やっぱり、怖いんだ。いいよ」

「ありがとな」


 リコリスに案内されてトイレへ向かう。

 その道筋は丁度山茶花達が寝ている部屋の横を通る。こんな朝早くから起こすのは悪いけど、無事を確認させてもらおう。

 まずはマルメロだ。


「トイレ行かないの?」

「マルメロも行きたいだろうと思ったんだ。アイツこの時間になるといつも催してるからなー」


 マルメロには本当には申し訳ないと思う。

 部屋のドアをノックして、名前を呼ぶ。


「おーい、マルメロ、起きてるか?」


 ドアの向こうから、甲高い声が聞こえた。

 何か叫んでいるようにも聞こえる。

 やっぱり、何か起きてるんだ……!


「リコリス、この部屋のドア開けてくれないか? 何かあったみたいなんだ」

「うん。私も聞こえた。任せて。オートロックを強制解除する」


 リコリスがその機械の手で戸に触れる。

 すると鍵の部分が小さな電子音を鳴らし、鍵が開く音がした。

 半ばけ破る形で急いで部屋の中に入り寝室へ向かう。無事でいてくれ――!!


「あっ……」

「へっ!?」


 時間が止まった。

 目の前で起きていることが理解できなかった。


 マルメロはベッドの上にいた。それは大丈夫だ。怪我もないしとても元気そうだ。ああよかったよかった。

 ……上半身は薄いノースリーブのシャツ一枚で、それ以外は何も身に着けていない。

 ベッドの上で右手を下腹部の近くに当てて……当てて……頬は真っ赤に火照って涙目で、髪は乱れて、


「き、きゃああああ!? ホーズキくんのエッチ!! バカ!! サイテー!!」

「な……あ……」


 思春期の女の子と言えば確かにそうなるだろうああ俺も分かっていた出会ってまだ数か月も経っていないがずっと一緒んにいたのだからなんとなくそんな感じはしていたし健康的ならそうなるもの仕方ないだからこれは別におかしなことでもなんでもなくて俺はそれを見てしまったのだから特に問題はない……ない訳がねーだろ!?

 どうするんだよ!?

 少女のデリケートな夜の営みを……今朝だから朝の営みかってそんなことはどうでもいんだよ!


「どーしたんですかマルメロさん……ふぁ~あ」

「……またホーズキが何かやったのか?」


 死んだな。

 ありがとうみんな。今まで。

 俺の冒険はここで終わってしまった!


「でもホーズキくんが……いいなら、いいよ。わたし、嫌じゃない」


 何故、ちょうど山茶花とバルサミナが来たタイミングで、それを言ったのか、俺は理解に苦しむぞマルメロさん。


「おにーちゃん……キライです」

「…………………………………………」


「あああああああああああ!! もう嫌だぁああああああああああああああ!!」


 響き渡った俺の悲しき咆哮は朝日の中へと消えていった。



「……なるほど。エリーマイルでもその夢を見た後に事件が起きたから、今回も何かあるかもしれないと思った。そういうこと?」

「そうです……決してやましい気持ちがあったわけではありません」


 リコリスが一緒に弁明してくれたお陰もあって大事には至らずに済んだ。

 だが山茶花は口を利いてくれなくなった。死にそう。


「なんだぁ夜這いに来たんじゃなかったんだ。残念」

「バカとかサイテーとか言ってなかったか……?」

「気のせい気のせい」


 それにしても……とバルサミナは顎に手を当てて難しい顔をする。


「……その夢はやはり気になる。それも含めて天使に訊いてみるか」

「俺もそのつもりだった。ついでに、『Re:Bury』についても訊きたいんだ」

「……それはそうと、どうやってその天空都市に行く? 空中に現れると聞いたけど」


 露骨に話を逸らされら気がしたが、気のせいか?


「エリシオニアが開発した超高層エレベーターでいけるよ。手続きはもうしておいた。今日の朝に行くのが好ましいよ」

「……だ、そうだホーズキ。さっそく準備して行くぞ」

「あ、ああ」


 山茶花は相変わらず俺と目も合わせてくれない。

 妹を溺愛している兄としてこの反応は精神を鉄のヤスリで削られているような感覚がして非常に心が痛い。俺の容疑は晴れたはずだが、いったい何が気に入らないのだろうか。

 と、マルメロが楽しそうに笑ってこう言った。


「女の子はロジックじゃないんだよ、ホーズキくん」

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