霧谷レイラ/木下影人『僕は祖父の後継者に選ばれました。』
有名な作品のレビューを書くのも楽しいが、今回は『隠れた名作』と私が思う作品を紹介したい。
『僕は祖父の後継者に選ばれました。』
作者:木下影人
なぜこの作品は評価されていないのか。もっと評価されるべきだと、私は常々思っている。それほどまでに優れた、おもしろい作品だ。
まずは作品のあらすじを簡単に紹介しよう。この物語は司聡太の祖父の死から始まる。聡太の家はごく普通の中流階級であり、祖父の遺産で目を引くものはあまりない。粛々と葬儀は終わり、そのまま聡太は日常に戻るはずであった。
祖父の形見の一つに、小さな箱があった。鍵がかかっていて開けられない箱が。鍵を探してみたものの見つからず、しかし中には何やら入っているようで、無理やりこじ開けるのもどうにもまずい。そのまま厳重に管理しようということになった。
祖父の遺品の整理を続けていると、ふとかの不思議な箱に関わる記述が見つかった。曰く、百が日までに司家の跡継ぎを立てて箱を開けろということ。
司家の跡継ぎとなった聡太は、この世界に今でも不思議な力を持つ者たちが生きていることを、祖父の日記から知る。箱を開けるには、そういった不思議な能力が必要だった。それから聡太の、不思議な力を持つ者たちとの物語は始まった。
私がこの作品を読み始めた理由は、言ってしまえば『小説家になろう』における主流の小説への反発からであった。『小説家になろう』では、現実と異なる世界──異世界を文字通りに表現している作品が多い。それはそれで分かりやすくて大いにけっこうなのだが、如何せん読み尽くしてしまった感が拭えない。もちろん私にもそういった小説で気に入ったものはあるが、結局は無数の中の傑出した一握りの作品でしかない。だからこそ私はこう言った、いわゆる『異世界モノ』ではない小説を読み始めた。
しかし、なかなかどうしておもしろい。読んでいくと、そうした反発心以外の何かが次へ次へと私を急かす。明確な形は浮かばないのだが確かに何かはそこにあり、私を小説の世界へと引き込んでくれた。一度読み、二度読み、三度読み。気がつけば私はこの小説の虜になっていた。何ゆえか。分からぬというのが正直な感想だ。ただただ性に合ってしまったと言うよりほかないのだ。
この小説は、基本的に主人公である聡太の一人称で進んでいく。独りよがりになってしまう一人称の物語もよく見る中で、しかしそうならずにこの物語は見事に表現されている。むしろこの小説では一人称の利点を上手く使って、この世界を描くことができていると言うべきかもしれない。聡太がこの物語の案内人となり、私たちと近い視点──能力を持たない者の視点で進むことで、持つ者と持たない者の二つの異なる世界を楽しめる。一人称であるからこそ聡太に寄り添いやすく、同時に、聡太と一緒になって能力者たちについて思考を巡らせられる。少なくとも、今まで私が読んできた一人称視点のなろうの小説の中で、一二を争うくらい上手く表現できていると思う。
また、ストーリーの展開や構成も良い。全体の流れとして、登場する能力者や起こるイベントの配置が見事で、それらを上手く使ってところどころに上手く伏線を張っている。それも無作為に無造作に伏線を張り巡らすわけではない。ごく自然な言葉が──そこにある必然性を確かに持つ言葉が、別の場面では伏線として想起されるのだ。言っていることは単純だが、それができている作品というものはそれほど多くない。無作為に伏線を張りすぎて回収できずに違和感を残したり、伏線がそうと気付かれない程度しかなくてあまりにも突然のことに感じられたりする作品も見る中で、この作品の描き方は上手いと思う。
『僕は祖父の後継者に選ばれました。』
作者:木下影人
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