太ましき猫/深江碧『空の座』
聖典に記された神々がおわす世界、法術を使う者達、竜や空船が飛び交う空、まさにファンタジー。その世界で暮らす登場人物達は、どこか親近感を覚えるほど人間味に溢れ、異世界という隔たりを忘れるほどに共感を覚える。もちろん、個性豊かな面々も数多いため、主人公レインにとって刺激的な毎日が繰り広げられている訳だが。
作品独自の言葉も多く見受けられるが、それが気にならないほどにスルスルと読み耽り、気付けば現在百三十一話ある話数のほとんどを読了していた。私はこの読みやすさを、「読み触り」が良いと表現している。料理で言う舌触りを、文章に当てはめた造語である。単に読みやすいと言うだけではなく、所々にアクセントとなる言葉があり、それが次の話を読みたいと読者に思わせる呼び水となっているように感じられる。
そして、登場人物達の魅力と共に、その関係性と成長による変化への期待は高い。主人公であるレイン自身、自分の立ち位置や取り巻く人々との関係性を、一部しか認識していない段階にある。それは周囲の人々による意図的な部分が多いが、事実を知ったときレインがどう行動するかは今から楽しみで仕方がない。また、彼と共に成長していく神の御子との十年という長い歳月の中で、今は自信の持てないレインがどう成長していくのか、気になる女性との関係発展も含めて気になる所である。
作者様は活動報告の中で、「辺境の地のファンタジー畑」などと言われているが、私はその辺境の地にある当作品に出会った。ただ出会うだけでなく、私は作品の更新を心待ちにしている。読者の一人である私にとって、当作品は間違いなく大好きな作品である。自分自身や他者と誠実に向き合いながら成長するレインが、恐れや不安を抱きながらも前に進んでいく姿を見届けたい、そう私に思わせる作品である。
『空の座』
作者:深江碧
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【あらすじ】
国土を失った民、鈴牙人であるレインは、神学校の温室前で不思議な声に呼び止められる。レインが誰なのかと問えば、声の主はリタ・ミラと答えた。リタ・ミラ、それは聖典の物語にある、天空神ラスティエと敵対した大地母神の名前に他ならない。リタ・ミラは更に、「子どもの世話はお前に頼みたい。そのために、お前をこうしてここに呼んだのだからな」と言い、レインの頭は大混乱。
しかし、そんな混乱する時間すらレインには与えられず、温室に何者かが近付いてくる。執拗にレインを追う黒いローブの男達、リタ・ミラが命を懸けて放つ目が眩むほどの閃光、レインの意識は闇の中に落ちていく。
聖典が息づく世界で繰り広げられる、レインと神の御子との成長物語。多くの人々との出会いの中で、レインは自分の居場所を見つけ出すことは出来るのだろうか──。




