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第16話:星ひとつ、乗車完了

キハ40系は、ゆっくりと山間を抜けていく。

窓の外には、錦川の流れが寄り添うように続いていた。

水面には、雲のかけらが映っていて、風が吹くたびに形を変えていく。


のぞみは、運転席の横でじっとその景色を見つめていた。

車掌さんの手元では、レバーが静かに動き、メーターの針が小さく震えている。

そのすべてが、のぞみにとって“生きている”ように見えた。


「この電車、なんか……生きてるみたい」


のぞみがぽつりと呟くと、車掌さんは笑った。


「うん。そうだよ。

この子はね、毎日いろんな人の気持ちを乗せて走ってる。

誰かの不安も、誰かの希望も、ぜんぶ運んでるんだ」


のぞみは、窓に額を寄せた。

遠くの山の稜線が、少しずつ近づいてくる。

その向こうに、病院のある街がある。


「ママ、ほんとにそこにいるかな……」


「いるよ。きっと待ってる。

でもね、のぞみちゃん。

“会いに行く”って、ただ場所に向かうことじゃない。

気持ちを運ぶことなんだよ。

君は、ちゃんと運転してる。自分の気持ちを」


のぞみは、胸の奥がじんわりと熱くなった。

涙が出そうだったけど、出なかった。

その代わり、笑った。



列車が、次の駅に差し掛かる。

ホームには、見慣れた人影が立っていた。

祖父母だった。


祖父は帽子を握りしめていて、祖母は手を振っていた。

のぞみは、車掌さんの顔を見た。


「……ごめんなさい。勝手に出てきちゃって」


車掌さんは、首を振った。


「謝ることじゃないよ。

君は、ちゃんと“乗り継ぎ”を探してた。

そして、見つけた。

それだけで、立派な旅だよ」


列車が止まり、ドアが開く。

のぞみは、ゆっくりとホームに降りた。

祖母が駆け寄って、ぎゅっと抱きしめてくれた。


「のぞみちゃん……心配したんよ」


「ごめんなさい。でも……ママに、会いたかったの」


祖父は、のぞみの頭をぽんぽんと撫でた。

その手は、少しだけ震えていた。


車掌さんが、運転士と交代の挨拶をして戻ってきた。

のぞみは、もう一度彼の顔を見上げた。


「車掌さん、ありがとう。

私……いつか、電車を運転する!

車掌さんみたいに、誰かの気持ちを運びたいもん」


車掌さんは、帽子を少し持ち上げて、のぞみに言った。


「その夢、乗車券なしで乗っていいよ。

君なら、きっと遠くまで行ける。

そして、途中で迷っても大丈夫。

乗り継ぎ案内は、ちゃんと君の心の中にあるから」


のぞみは、笑って頷いた。

そして、祖父母と一緒にホームを歩き出した。

振り返ると、キハ40系の窓から、車掌さんが手を振っていた。


その姿は、夕暮れの光に包まれて、少しだけ遠くに見えた。

でも、確かにそこにいた。



その夜、祖父母の家に戻ったのぞみは、縁側で麦茶を飲みながら空を見上げた。

星がひとつ、ゆっくりと瞬いていた。


(私、乗れた。ちゃんと、自分で)


その気持ちは、まだ小さな光だったけれど、確かに灯っていた。


次回予告

次回、「母と、感情の乗り継ぎ案内」。

時刻表に刻まれたのは、過去の予定じゃなく、未来への道しるべ。

のぞみは、母のぬくもりとともに、心のダイヤを再び走らせる——。


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