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第15話:のぞみ、特別乗務員

列車がホームに滑り込んできた瞬間、風がのぞみの頬を打った。

ブレーキの音が響き、車体の影がのぞみの足元を覆う。

胸の奥で、何かがぎゅっと縮まった。


(……ほんとに、乗るんだ)


決意したはずなのに、列車を前にすると足がすくむ。

怖い。けれど、戻りたくない。

そんな気持ちが、胸の中でぶつかり合っていた。


ドアが開く。

のぞみは、詰所にいた駅員に近づいた。


「こんにちは。どこまで行くの?」


「……病院のある駅まで。ママが、そこにいるの」


震える声で答え、お小遣い袋を差し出す。

硬貨が手のひらでカランと鳴った。


「これで……足りますか?」


駅員は困ったように首を振った。


「うーん……ごめんね。ちょっと足りないかな。

それに……君、ひとりで来たの?」


のぞみは唇を噛み、うつむいた。

胸の奥が熱くなり、視界がにじむ。


(会いたいだけなのに……どうしてこんなに遠いの)


そのとき——


「どうしたんだい?」


背後から、柔らかい声。

振り返ると、制服姿の車掌さんが立っていた。

帽子の影から覗く目は、のぞみの不安をすぐに見抜いたようだった。


駅員が事情を説明すると、車掌さんは静かに頷く。


「よし。じゃあ、特別に“乗車券なし”でご案内しようか。

コックピット、空いてるよ。乗ってみる?」


のぞみは目を見開いた。


「……え、ほんとに?」


「うん。今日は君が“特別乗務員”だ」



キハ40系の運転席は、のぞみにとって秘密基地みたいだった。

銀色のレバー、丸いメーター。

窓の向こうには、まっすぐ伸びる線路。


列車がゆっくりと走り出す。

エンジンの振動が足元から伝わり、田んぼの緑が流れていく。

川が見えた。錦川だ。

水面が陽に照らされて、キラキラと光輝く。


「この景色、好き?」


「……うん。なんか、映画みたい」


「そうだね。でも、これは“のぞみちゃんの映画”だよ。

君が乗ってるから、特別な景色になるんだ」


車掌さんの言葉が、胸の奥にすっと染み込んだ。


「車掌さんって、すごいね。

いいなぁ、私も……いつか、電車を運転してみたい」


すると、車掌さんは少し笑った。


「うん。きっとできるよ。

運転ってね、ただ前に進むだけじゃない。

止まることも、乗り換えることも、全部“運転”なんだ。

君は、ちゃんと“乗り継ぎ”できる子だよ」


のぞみは、涙が出そうになるのをこらえて笑う。

車窓の外では、夏の雲がゆっくり流れ、

線路はまっすぐ前へと続いていく。

のぞみはその先が、少しだけ明るく思えた。


次回予告

次回、「星ひとつ、乗車完了」。

のぞみは、気持ちを運ぶ旅の終点で、夢の始発を見つける。

夕暮れのホームに手を振る車掌さんの姿が、心の中でずっと走り続ける——。


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