第三骨 骸の王
圧巻、とでもいうべきか。
それはもはやただの骨ではなく、偉大な芸術品だった。
人体には、およそ200個の骨が存在する。
正確には200から208個、基本的には206個だ。
存在する個所から、頭部・体幹・上肢・下肢の四つに分類される。
だが、俺の目の前に立つ骨は、軽く千を超えていた。
骨と骨が密集しながら絡み合い、人の形を成しているが、
その形状は明らかに普通ではない。
肩にある上腕骨頭から、それぞれ三本ずつ、六つの腕が構築されていた。
背中には人間の骨ではなく、巨大な蝙蝠のような骨が広がっている。
肋骨はもはや何本あるか、数えられない。
隙間がないほどに埋め尽くされ、強固な胸として強化されていた。
さらに頭蓋骨の左右には、牛の角のような骨まで、付属している。
(そうか、ここにある骨の残骸は……)
究極の骨は、俺の方を一瞥し、ゆっくりと近づいてくる。
逃げるとか、抵抗する気などまるでなかった。
ここに来た意味を知る。
俺の骨で使える部位は奪われ、使えない部位は粉々に砕かれるのだろう。
ここは、究極の骨を進化させるための餌場で、俺はただの餌ということだ。
俺の目の前まで来た、究極の骨。
その姿を間近で見て、声なき声で呟く。
(骸の王)
その言葉は昔から知っていたかのように、自然に出てくる。
涙が出れば、俺は泣いていただろう。
この王の一部となれるのなら、ここで終わるのも悪くない。
そう思えるほどに、その姿は素晴らしかった。
だが、しかし。
骸の王は、俺をじっ、と見つめた後、まるで興味が無いというように、背を向ける。
俺の身体にある骨は、どれも王には、相応しくないのかっ。
奪われもせず、壊されもせず、そのまま骸の王は、扉の向こうに消えていく。
キレ目のある岩扉が閉まっても、俺はそのまま立ち尽くしていた。
(まったく、相手にされなかった)
確かに、自分の骨はかなり貧弱だ。
骨密度を測ったことはないが、かなり脆いという自覚がある。
それに比べ、骸の王の骨は、どの部位も頑強で、丈夫そうな骨ばかりだ。
助かったという安堵感はない。
自分の骨がすべて使えない、貧弱な骨だったことが悲しくて絶望する。
床に散らばる砕かれた骨を見る。
そのどれもが、自分の骨より太く、硬そうだ。
俺の骨だけどうして貧弱なのか?
いや、違う。
どうして、俺以外の骨は、こんなにも鍛えられているのだ?
(……これは、もしかして)
ある考えが頭に浮かんだ瞬間、頭上から何かが降ってきた。
ぶつかりそうになったので、慌ててよけると、それは音をたてて地面に激突する。
骨が折れる音だった。
俺と同じ、骨だけの身体が上から落とされてきたのだ。
慌てて頭上を見るが、落とした者の姿は見えない。
再び、落ちてきた骨を見ると、ゆっくりと身体が起き上がり、動き出していた。
やはり、そうか。
ここに散らばる骨は最初から、鍛えられていたわけでない。
同じ骨と戦い、強くなっていったのだ。
カタカタと歯を鳴らしながら、自分と同じような骨が、俺に向かって襲いかかった。