第33話 ……やっぱりちょっとだけ恋愛をしてみようかな?
「やっぱり、エレナって美人よね」(いつもより、ずっと綺麗に見える)
唐突にクリスティーナ・エデルディエーネがそんなことを言いだした。
しかしそれは私にとっては、「地球って太陽の周りをまわってるよね」くらいの当たり前のことである。
「何を当然のことを、急に言い出したのですか?」
「そういうところを直せば、もっと素敵になれると思うわ」(可愛いのは認めるけど、どこからその自信湧き出るのよ……いや、顔からだろうけれど)
当然、読心能力に依るものだ。
私は「ブス」と言われたことはあるが、「ブス」と思われたことは一度もない。
「ですが、Miss.エデルディエーネも綺麗だと思いますよ」
「そ、そう? なら、頑張って選んだ甲斐があったわ……」(ちょっと、ダイエットもしたし)
そういうクリスティーナ・エデルディエーネは赤色のドレスに身を包んでいた。
彼女の金髪に、赤色はよく栄える。
髪型はいつも通りの縦ロールだが……しかし髪飾りをつけている点は異なる。
それにダイエットした、という言葉通り今の彼女は細い。
いや、細いと言っても前よりはという話で、ややぽっちゃりではあるのだが、ドレスがその体型をしっかりとカバーしているから目立たない。
「Miss.エデルディエーネは背も高く、スタイルが良くていいですね」
「あ、エレナも人を羨むことはあるんだ」(てっきり、自分を完璧だと思っているのかと)
「あなたは人を何だと思ってるんですか?」
私だって、人間である以上、完璧ではないし……欲しいと思うものはある。
具体的には身長と胸だ。
数か月前に十一歳になったというのに、未だに私の胸と身長には変化がない。
それと比べて、クリスティーナ・エデルディエーネは(年の割には)発育が良い。
……やっぱり、良い物食べてるからだろうか?
ところでクリスティーナ・エデルディエーネがなぜお洒落をしているのかと言えば……
今日が学期末のダンスパーティーの日だからである。
そして当然、私も以前Mr.ウィンチスコットの母親に見立てて貰ったドレスに身を包んでいる。
ドレスはオフショルダーの明るいグリーン。
おそらく、私の瞳の色に合わせたのだろう。
肩が出ているのが大人っぽくて素敵ではあるが、ちょっと恥ずかしい上に肌寒い。
だからボレロを買おうかと思ったのだが、ウィンチスコット夫人に「おばさんくさいわよ」と言われたので肩を隠すのはやめた。
ドレスはこの日限りで、少なくともあと一年間は着ることはなさそうなので我慢する。
髪は魔法を使ってウェーブを作り、ハーフアップにしている。
私は普段は髪は肩まで来たら切ってしまうのだが、数か月前からこの日のために切らずに伸ばしてきたので、そこそこ長い。
そこに花飾りを編み込み、そして以前に彼から貰った髪飾りをつけている。
化粧は以前、ウィンチスコット家の使用人から習っていたので上手に仕上げることはできた。
普段よりも大人っぽくなっている……はず。
やっぱり自分の顔の客観評価は難しい。
クリスティーナ・エデルディエーネはどこか不安そうに、そして同時に不満そうな感情を抱きながら私に言った。
「あのさ、エレナ。もう、一年よね? 私たち」(友達になってから……一年も経っているのだけど)
「急にどうしましたか? Missエデルディエーネ」
「それよ! その他人行儀な呼び方、やめて。クリスティーナって、呼んでよ」(まあ、エレナは律儀に全員にMissやMr.をつけているし、それに拘りがあるのかもしれないけどさ……)
……ふむ、それもそうだな。
「分かりました、クリスティーナ。これで、どうですか?」
「うんうん、それで良いよ」(えへへ……これで距離が縮まったなぁ!)
……ちょっと、キモいぞ、君。
私は内心で少し引いてしまった。
「そろそろ時間も迫ってますし、会場に行きましょうか」
「ええ、そうしましょう」
クリスティーナ・エデルディエーネとダンスパーティーの前に会ったのは、一緒に会場に入るためだ。
まあ、一人で入っても良かったのだが、彼女から一緒に入りたいと言われたので待ち合わせた。
二人で会場に入る。
「迫っている」とは言ったものの、余裕をもって行動していたため、ダンスパーティーが始まるまではまだまだ時間がある。
もっとも、すでに殆どの人が会場入りしているが。
とりあえず、互いのパートナーを見つけるために私はクリスティーナ・エデルディエーネと一度別れた。
さてさて、私のパートナーはどこにいるのか……もしかしてあれか?
声を掛けてみるか。
「もしもし、Sir.」
「ん? なん……って、ベレスフォード!?」(ふ、普段よりも十倍は可愛く見える……)
お褒めの言葉、どうも。
私も返しておくか。
「ちょっと、びっくりしましたよ。普段より、大人っぽく見えますね、Mr.ウィンチスコット」
「そ、そうか?」(お、大人っぽく? 母上の言葉はお世辞じゃなかったのか……)
「ええ、どこに出しても恥ずかしくない紳士に見えます」
普段はただの生意気なガキなのに。
こうしてちゃんとした服装をしていると、立派な、頼りがいのある男に見える。
残念なのは中身はおそらく変わってないところだな。
あれか、『男子、三日会わざれば刮目して見よ』ってやつか?
三日も経ってないし、多分明日には戻っちゃうだろうけど。
「ところで……どうですか?」
「ど、どうですかって……何だよ」(もしかして、ドレス姿の感想を求められている……のか?)
そうだよ。
まだ口に出して言ってないだろう? 私は褒めたんだから、今度はそっちの番だ。
「言わなければ、分かりませんか?」
「あ、いや……そ、そう、だな。えっと肩が、いや……うん、似合っていると、思う」(あ、危ない……肩が出ててエロく見えるとか、変なことを口走りそうになった)
よく口走らなかったな、偉いぞ。
「エロく見える」なんて誉め言葉、私の十一年の人生経験じゃあ、どう対応して良いか分からないからな。
「それだけですか?」
「え、えっと……普段よりもずっと、その、美人に見える」(な、何だろう……何て言えば良いんだ? 大人っぽく見える? 色っぽく見える? やっぱり、普段とは綺麗の方向が違うというか……ダメだ、頭が混乱して、整理できない)
「ありがとうございます……ところで、本当に、気付いていませんか?」
「へ? 気付く……あ、ああ! えっと、うん、似合っているよ。その、髪飾り……」(ちゃんと、着けてくれたんだな……)
ようやく自分が渡した誕生日プレゼントを身に着けていることに気付いたようだ。
「それは良かったです」
それから私は手を差し出した。
「エスコートをお願いできますか? ジェントルマン」
「あ、ああ! 任せろ」(き、緊張する……)
ジャスティン・ウィンチスコットは私の手を握った。
緊張のせいか、彼の手は少し汗ばんでいた。
……自分よりも緊張している人を見ると、逆に落ち着くのはなぜなんだろうか。
とりあえず私たちは用意されている席に座った。
「ここの料理って、全部タダなんですよね?」
「多分そうだと思うけど……おい、食い過ぎるなよ?」(パートナーが「タダなら食い貯めしないと!」なんていって、バクバク飯を食うなんて、ちょっといやだぞ)
「あなたは人を何だと思ってるんですか?」
そんなみっともない真似はしない。
ただ……一番原価が高そうなやつを注文しようと思っただけだ。
もっとも、食事を摂るのは後だ。
とりあえず、お互いジュースを頼み、乾杯する。
少し時間を潰していると……ようやくダンスパーティーが始まった。
「とりあえず、二、三曲踊りましょう」
「あ、ああ!」(つ、ついにこの時が来たか……)
お互い、手を握り合う。
……やっぱり少し緊張するな。
まあ、授業通りにやれば良いんだろうけど。
曲に合わせてステップを踏み、時折ターンする。
ジャスティン・ウィンチスコットは最初はガチガチに緊張していた様子だが、さすがに貴族ということもあってこういう場には慣れているらしい。
時間経過とともに、緊張してしまっているのは私だけになった。
……さっきと逆だな。
「っ!」
「おっと、危ない……大丈夫か?」(緊張、しているのか?)
転びそうになったところを、彼に助けてもらってしまった。
……ちょっとは男らしいところがあるじゃないか。
ちょっぴり、ドキっとしちゃったぞ。
吊り橋効果だろうけど。
「ありがとうございます」
「いや……どうってことない」(……頼られたの、もしかして初めてか?)
そんなことは……いや、そんなことあるか。
「その、さっき言い忘れたんだが、ベレスフォード」(ちょっと、落ち着いてきた)
「どうしましたか?」
「今のお前は、その、大人っぽいというか、ちょっと色っぽくて、素敵だと思う」(こうしてみると、やっぱり女の子というか……胸があるんだな……柔らかい、のかな? って、何を俺は考えているんだ!)
いや、すまない。
興奮しているところ、本当にすまない。
その胸は詰め物なんだ……ドレスをよく見せるための、偽物なんだ。
私の体型、つるつるぺったんすっとんとんなんだ。
「来年はもっと素敵になっていると思いますよ。まあ、来年もあなたと踊るかは、分かりませんが」
来年こそは本物の胸で、ドレスを持ち上げよう。
……胸の発育をよくする魔法薬ってないのかな?
それから一度、ジャスティン・ウィンチスコットとは別れた。
ジャスティン・ウィンチスコットも家の付き合いがあり、他の女子と踊らなければならない。
そして私も普段、お世話になっている男子と義理で踊る必要がある。
まあ、社交儀礼というやつだ。
もっとも、私が踊るような相手、親しい男子なんてのは精々ギルバート・グランフィードかラインハルト・ブランクラットくらいしかいないのだが。
とりあえず、手が空いていたギルバート・グランフィードと踊ることにした。
「Mr.グランフィード、ありがとうございます」
「どうした、急に?」(何のことだろうか?)
「私のパートナーを助けてくださったそうですね……噂になってますよ。あなたたち二人が二年生と戦ったと」
本来は私が戦わなければならなかったと思う。
いくらジャスティン・ウィンチスコットのプライドと面子を守るためとはいえ、無関係のギルバート・グランフィードを巻き込んでしまった。
「まあ……頼まれたことだしな。それに、あいつらは俺もムカついてたんだ。礼には及ばない」(それにベレスフォードには世話になってるしな)
「このお礼はまたいつか」
「ああ」(礼なんていらないけど……まあ貰えるなら貰っておこう)
一曲踊り終わり、次はラインハルト・ブランクラットを探す。
しかしさすがはイケメン。
モテモテだな。女子に群がられている。
笑顔を浮かべてはいるが、内心ではかなり面倒くさがっていることが分かる。
そんなラインハルト・ブランクラットは私と目が合うと、一直線に私のところに来た。
「一曲、踊りましょう。Miss.ベレスフォード」(ふう……丁度良いところにいてくれて助かった)
「構いませんけど……あなた、この後に私が周囲からどんな目で見られるか、考えてますか?」
「どういうことだい?」(……何を言ってるんだ?)
あ、分かってないんですね。
……他の女子からの嫉妬の目線が半端ないんだけど。
ただでさえ、ジャスティン・ウィンチスコットをパートナーに選んだことで周囲から僻まれているのに。
私が思うに、ゲームで女主人公がクリスティーナ・エデルディエーネに虐められた要因の一つに、こいつの空気の読めない性格があると思う。
まあ……元々一曲は義理で踊る予定だったから良いけど。
「この後、ちゃんとあの子たちにフォローしに行ってあげてください。そうしないと、私が彼女たちの嫉妬を一身に受けることになるので」
「ちょっと大げさじゃないか?」(彼女たちもそんなに悪い子じゃないと思うんだが……)
「恋愛絡みの嫉妬ほど、恐ろしいものはありません。面倒だという気持ちは分かりますが、ちゃんと対応してあげなさい。……私は荒事には慣れてますが、クリスティーナは違うでしょう?」
クリスティーナ・エデルディエーネを危険に晒すつもりか?
と私が言うと、彼は納得の色を浮かべた。
「それもそうだね。忠告、ありがとう」(確かにMiss.ベレスフォードと違って、クリスティーナは心配だな……)
お前、クッソ失礼だな。
それから私は他の男子からのダンスの申し出を尽く断り、席に戻った。
別に受けても良かったのだが……
正直、こういう場にはなれていないこともあって疲れていた。
一度申し出を受けると、次から次へと踊らなければならないことになりそうなので、全部断ったのだ。
席にはまだジャスティン・ウィンチスコットは戻っていなかった。
彼はまだ他の女子と踊っている。
おっと……あの子は以前、私に喧嘩を売ってきた子だな。
良かったじゃないか、踊れて。
と思ってみていたら目が合った。
私が微笑むと……睨まれた。
ゲロが止まらなくなる呪いを掛けたことを、未だに根に持っているようだ。
そんなゲロ女のことは放っておき、私はいくつか料理を注文して食べ始めた。
ダンスを踊ったこともあり、少しお腹が空いていたのだ。
ゲロ女と踊り終えると、ジャスティン・ウィンチスコットはすぐに私のところにやってきた。
「お先に食べています」
「ああ……俺も何か、頼もうかな」(軽い食べ物はないかな……サンドウィッチで良いか)
胃に食べ物を入れると、空腹はおさまった。
が、少しとはいえやはり食べたばかりは動く気にはなれないな。
「どうします? 踊りますか?」
「そうだな……踊るのはもうちょっと、後にしよう。少し、歩かないか?」(とりあえず、胃の中をも少し消化してからにしたいな)
意見の一致が図られ、私たちは一度会場から抜けて裏庭を歩く。
私たちのようなカップル(と言って良いかは怪しいが)は珍しくはないようで、裏庭にもかなり多くの男女がいた。
中には二人だけの世界を構築して、接吻している者たちもいる。
「ほら、座れよ」(女って、動きにくそうだな)
「今日はやけに気が効きますね」
ジャスティン・ウィンチスコットに手を握って貰いながら、私はベンチに腰を下ろした。
彼もすぐ隣に座った。
「そ、そのさ……ベレスフォード。お、お前に頼みたいことがあるんだけど……」(き、緊張する……)
「頼みたいこと、ですか?」
何だろうか? 付き合ってくれは、ちょっと早い気がするが。
「その……こ、今度からファーストネームで、呼んでくれないか?」(い、言えた……)
「ファーストネーム?」
「お前、俺のことをMr.ウィンチスコットって呼ぶだろ。た、他人行儀じゃないか……ダンスの、パートナーだぞ?」(いきなり恋人になってくれって言ったら引かれそうだし、まずはこうやってちょっとずつ距離を詰めていこう)
一応、彼なりの打算があるらしい。
……申し訳ないが、恋人になるつもりはないぞ? 少なくとも、今のところは。
「別に構いませんが……」
私は少し考えてから、あの時の意趣返しをすることにした。
「人に何かを求めるときは、まずは自分から改めるべきではありませんか?」
私が笑みを浮かべて言うと、彼は目を丸くした。
「……そう言えば、そんなことがあったな」(こ、こいつ、一年も前のことをよく覚えてるな……)
あの時は実は言い負かされて少し悔しかったので、覚えていた。
まあ、そのことは絶対に教えてやらないけど。
「ほら、どうするんですか?」
私が言うと、彼は真剣な顔で私を見つめた。
「え、え、え……エレナ」(き、緊張する……)
「すみません、聞き取れませんでした。もっと大きな声でお願いします」
「お、お前……」(や、やっぱり性格が悪いな、こいつ……そこが可愛いところなんだけど)
……やっぱり、君はちょっと、女の趣味が悪すぎやしないか?
と私が思っていると、彼は顔を真っ赤にさせながら、私の両肩を掴んできた。
私の露出した肩に、彼の暖かい手が触れる。
これには少しびっくりしてしまい、自然と体がビクンと震えた。
「え、エレナ! ど、どうだ? こ、これで良いか?」(お、大きい声で言ったぞ!)
「え、ええ……」
裏庭に響き渡るような、大きな声だった。
ちょっと、声が大きすぎる。
肩に触られたこともあり、私は少し気恥ずかしくなった。
しかしここで恥ずかしがって、何も言わないのは私のキャラじゃない。
「ジャスティン。……ジャスティン、これで良いですか?」
「……やっぱり、お前も恥ずかしいんだな」(貴重な姿を見れた)
「別に……恥ずかしくも何ともありませんけど?」
おかしいな。
いつもの無表情を保ったはずなんだけど……
「顔、真っ赤だぜ」(クールぶってるくせに顔だけ真っ赤なんて、滑稽だな)
「な!」
私はその時、自分の顔が熱くなっていることにようやく気付いた。
……くそ、なんか悔しいな。
言い返してやろう。
「これは……あ、あなたが変なところを触るからでしょう。……どうして、急に肩なんか掴んだんですか?」
すると彼は慌てた様子で手を離した。
そして大慌てで弁明をし始める。
「え? あ……これは、反射的にというか、勢いというか、と、とにかくわざとじゃないぞ?」(でも、もう少し触っていたかったな……すべすべしてたし)
掴んだのはわざとじゃなくても、そのあと触り続けたのはわざとだろう?
知ってるんだぞ?
「あと、私の胸を、踊っている最中にチラチラみていましたよね?」
「は、はぁ? そんなわけ、ないだろ! お、お前、まるで俺が変態みたいに言うなよ!」(き、気付かれていたのか?)
他の女子は分からないが、私は読心能力があるから、そういうことはほぼほぼ気付くぞ。
……まあ別にそういう視線には慣れているから良いけど。
「胸だけじゃなくて、鎖骨とか、首筋とか、二の腕も見ていたでしょ?」
「そ、そんなマニアックな場所、見るわけないだろ!」(な、何で分かるんだ?)
「あと、あなた、体育の時とか、放課後に一緒に運動するとき、私の足を、太腿をたまに目で追ってますよね?」
「な、な、な、そんなわけ……」(い、いや……確かにずっと見ていたけど……き、気付かれてたのか?)
「あと、どさくさに紛れて私の匂いを嗅ごうとしてましたよね」
「そんな、真似するわけないだろ!」(それはしてない! ただ……近づいた時に、こ、呼吸をすれば、自然に嗅いじゃうというか、不可抗力というか……)
「あと、夏、水泳の時に私の背中とか、水に濡れたうなじとか、足とか、付け根の際どい部分とか、胸とか、ずっと、毎回目でチラ見してましたよね」
「は、半年も前のことだろ!」(そんなこと、思い出すなよ!)
「あ、ということは認めるんですね?」
私がそう言うと、彼は顔を真っ赤にして硬直した。
それから何度か口をパクパクさせた。
「………………だから、なんだよ」(じ、実は気持ち悪いと思ってたとか、ないよな?)
いや、安心して欲しい。
その理論だと私はギルバート・グランフィード以外の男子全員を嫌いにならないといけなくなる。
中身が三十を超えていて、いろいろ老けているギルバート・グランフィード以外の男子は私のことを、大なり小なりそういう目で見てくる。
それどころか、授業中に私をネタに変な妄想をしていることだってある。
だから全然気にしてないというか、気にしていたら私はブルカやニカブでも着てなきゃいけなくなるからね。
私はプロテスタントだ。
イスラム教に改宗する予定は今のところない。
「いえ、まあ隠していない部分を見るのはあなたのご自由だとは思いますが、見た分の対価は欲しいですね」
「た、対価って、なんだよ……か、金でもとるのか?」(は、払えば見て良いのか?)
やだよ、お金なんて。
余計に卑猥じゃないか。
私はジャスティン・ウィンチスコットに手を伸ばした。
「対価はエスコートです。そういうことが気にならなくなるくらい、私を楽しませてくださいよ」
すると彼は目を見開いた。
それから立ち上がり、私の手を取った。
「わ、分かった……任せろ」(さ、最初からそう言えよ……緊張しただろう)
私を揶揄った報いだ。
反省しろ、全く。
私はジャスティン・ウィンチスコットの手を借りて立ち上がった。
「じゃあ、会場に戻って踊りましょう……ジャスティン」
「ああ……エレナ」(……キス、したかったな)
それから私は彼に手を引かれ、再び会場に戻る……
が、その前に私は軽く彼を引っ張った。
「何だよ」(まだ、何かあるのか?)
私はじっと彼の顔を見つめる。
「……俺の顔に、何かついているのか?」(変な奴だな)
彼は不思議そうに言った。
……私自身も、自分が何をしようとしているのか分からなかった。
彼の肩を軽くつかむ。
そっと踵が上がる。
ああ……ダメだ。
これ以上は……良くない。
だけど……ああ、そうか。
母はきっと、こういう気持ちだったんだろう。
私の唇に柔らかいものが触れた。
「ふぇ? ……え、え?」(い、今の、え、まさか、え?)
彼は何が起こったのか分からないという顔を浮かべ……
それから顔を真っ赤にさせた。
私の顔もきっと赤いだろう。
これほどまでに顔が暑かった時はない。
私は彼の手を掴み、強引に引いた。
「さあ! ボーっとしてないで、行きましょう」
私は誤魔化すように言った。
……恋愛ってのも、案外悪くないかもしれない。
ぼんやりと、私は思うのだった。
やっぱね、好きって言われて良い気分にならない人はいないんすよ
それが美形なら尚更
というわけで完結です。ご愛読、ありがとうございました。
完結おめでとう! と思ってくれたら、ポイントをいれて頂けると幸いです。
幼い子供らしい恋愛が書けたかなと、思っています
気が向いたら、少し成長した二人の話も投稿したいと思っています(いつ気が向くとは言っていない)