第二章 地下
ノアが意識を取り戻したとき、最初に耳へ飛び込んできたのは甲高い耳鳴りだった。
鋭い音が頭の中いっぱいに響き渡り、思考をかき乱す。
手探りで体を支えようとすると、指先に触れたのは冷たい石だった。
少し体を動かすだけで、誰かに頭を金槌で殴られているような激痛が走る。
喉の奥には重たい土埃がまとわりつき、口の中には血と土の味が広がっていた。
どこかで、水滴が一定の間隔で落ちる音だけが響いている。
それ以外は――静寂。
静かすぎるほどに。
ノアは壁に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がった。
そのときになってようやく、自分がどこにいるのかを理解する。
そこは一本の通路だった。
壁は古びているものの、自然にできた洞窟ではない。
積み重ねられた石は均一で、柱も一定の間隔で並んでいる。
さらに奥へ目を向けると、淡い光を放つランプが一定の距離ごとに吊るされ、地下道全体を病的な薄明かりで照らしていた。
――誰かが造った場所だ。
「……最高だな。」
ノアはかすれた声で呟くと、慎重に一歩踏み出した。
出口があるとすれば、この先しかない。
数メートル進んだところで、彼の足がぴたりと止まる。
誰かが倒れていた。
最初に頭をよぎったのは、
――死んでいる。
そして次の瞬間には、
――頼む、生きていてくれ。
ノアは急いで駆け寄り、その人物のそばへ膝をついた。
肩に触れようとした、その瞬間。
倒れていた人物の体が小さく震え、苦しそうなうめき声を漏らした。
年齢は自分と同じくらい。
全身が土埃にまみれた少年だった。
「おい。」
ノアはしゃがれた声で呼びかける。
「死ぬなよ。今それをやられると、かなり困る。」
少年はゆっくりと顔を上げ、ぼんやりとした目で淡い光を見つめる。
「……何が、起きたんだ?」
「爆発が三回。それから地面が崩れた。俺が知ってるのはそれだけだ。」
少年は苦しそうに息を吐きながら体を起こした。
思っていたより肩幅が広い。
意識はまだはっきりしていないはずなのに、その瞳には確かな強さが宿っていた。
簡単には折れない人間。
ノアはそう感じた。
そして、もう一つ気づく。
服装だった。
布地。
縫製。
細かな意匠。
エルラシで育った者なら、一目で分かる。
――パレスの人間だ。
その事実が、胸を冷たく突き刺した。




