――後日談:『基準』の消失と、残された「最強」たちの軌跡――
レオン:Sランクパーティー『黒の剣』の苦悩と悟り
国内屈指のSランクパーティー『黒の剣』。そのリーダーとして名を馳せるレオンは、ユイが去った後、さらなる「高み」……ではなく、さらなる「謙虚さ」へと突き進んでいた。
「もやし」のリーダーシップ
かつてユイに「もやしっ子」と断定された際、彼のプライドは一度粉々に砕けた。しかし、それが功を奏した。
今や彼は、どんなに巨大な魔物を討伐しても「いや、ユイさんならこれ、溜息で消してたから」と冷静に分析する。
その結果、慢心の欠片もない鉄壁の指揮を執るようになり、『黒の剣』は生存率100%を誇る「世界一安全な最強パーティー」へと変貌した。彼は今日も、自分たちの筋肉がユイの基準で「栄養失調」に陥っていないか、ストイックにプロテインを啜っている。
エリス:Aランクに咲く、隠れた「令嬢騎士」の真実
王家とも繋がりのある高貴な家柄の令嬢でありながら、最前線で剣を振るう騎士、エリス。アルフレッドやセラフィナという「神の領域」に近い者たちがいたためAランクに甘んじていたが、ユイとの出会いは彼女の騎士道に革命をもたらした。
令嬢の「精密な」教育
ユイから「事務職」と呼ばれた彼女は、令嬢らしい気品と、ユイから学んだ(物理的な)精密さを融合させた。
彼女は今、実力以上のランクアップを拒み、「Aランクの守護聖女」として新人や中堅の教育に力を入れている。
生意気な若手騎士が「俺の剣速は音速だ!」と吹聴すれば、彼女は優雅に紅茶を飲みながら「音速? あら、ユイ様のあくびより遅いわね」と、微笑みながらその剣を人差し指で弾き飛ばす。彼女にとっての「標準」は、すでに人類の限界を超えてしまっている。
アルフレッドとセラフィナ:聖王国の再建と「航路の奇跡」
ユイとアルフレッドの全力の「親睦会(測定)」によって消失した山脈。それは現在、聖王国に莫大な富をもたらす**「ユイ運河」**として、世界の物流の中心となっている。
アルフレッド王の治世
彼は王として、武力による威圧を一切捨てた。ユイという「一億倍」を経験した彼にとって、人間同士の争いは、砂場でのスコップの奪い合いにしか見えなくなったからだ。
彼はあの日ユイがブチ抜いた巨大なトンネルを「平和の門」と名付け、隣国との交易を盛んにした。世界最強の王は、世界で最も平和を愛する王となった。
セラフィナの誓い
近衛騎士団長に戻った彼女は、あの日ユイに指先一つで砕かれた自慢の防御結界を、理論から再構築した。
今の彼女の目標は、もしユイがいつかまた遊びに来た時、「おっ、今回は指二本使わないと割れないね」と言わせること。その目標のためだけに、彼女は今日も宇宙の真理を魔力に込めている。
老師と魔界:終わりなき「測定」の準備
老師
百万倍の握手に耐えた老剣士は、もはや生きる伝説を超え、自然そのものになりつつある。
彼はユイがいなくなった後も、毎日聖王国の北の海(ユイが作った海)に向かって正拳突きを繰り返している。彼にとってユイは、自分の「未熟さ」を教えてくれた恩人。
彼の拳が空気を震わせるたびに、周囲の冒険者たちは「またおじいちゃんがユイさんの残像を追いかけてる……」と遠巻きに拝んでいる。
結び:世界は「手加減」という愛に包まれて
世界中の人々は知らない。自分たちが享受しているこの平和な地形や豊かな航路が、一人の少女が「普通になろうとして、力加減を間違えた」結果であることを。
レオンの率いる『黒の剣』も、エリスの優雅な騎士剣も、アルフレッドの慈悲深い王政も。
そのすべての根底には、かつて能面を被り、炭酸飲料を片手に「標準」を探し求めた、不器用で最強な少女の記憶が刻まれている。
彼女が去った空は、今日もどこまでも青く、そして「普通」に広がっていた。




