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規格外の幼女サバイバル  作者: 沼口ちるの


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第一話 女神様のうっかりミスと私のエラー級異世界ライフ

冷たい水が、容赦なく私の体温を奪っていく。

息苦しさと恐怖でパニックになりそうな頭の片隅で、私はただ一つだけを願っていた。

(あの子、ちゃんと岸に着いたかな……)


夏休み、友達と遊びに来ていた近所の川。

そこで溺れていた小さな男の子を見つけた時、私は何も考えずに飛び込んでいた。

なんとか男の子の体を押し上げ、浅瀬に向かって突き飛ばしたところまでは覚えている。けれど、その反動と流れの速さに負けて、十一歳の私の体はあっけなく川底へと引きずり込まれてしまった。


ぶくぶくと泡が上へ向かっていくのを見つめながら、私の意識は暗闇へと沈んでいった。



「……あ、れ?」

冷たさも、息苦しさもない。

ゆっくりと目を開けると、そこは果てしなく広がる真っ白な空間だった。


「目が覚めましたか、勇敢な魂よ」


不意に、頭の上から声が降ってきた。

驚いて顔を上げると、空中に一人の女性が浮かんでいる。透き通るような金の髪に、真っ白なドレス。背中には光り輝く羽。ゲームや漫画で見る『女神様』そのものの姿だった。


「ここは……?」

「ここは生と死の狭間。私はこの世界を管理する女神です。あなたは自らの命と引き換えに、幼い命を救いました。その尊い自己犠牲により、膨大な『徳』が積まれたのです」

「私が、死んだ……」

「ええ。ですが悲しむことはありません。その徳へのご褒美として、特別なスキルを授け、剣と魔法の異世界へ転生させてあげましょう」


女神様は慈愛に満ちた笑みを浮かべて、大げさに両手を広げた。

剣と魔法の異世界。転生。特別なスキル。

普通の小学生ならワクワクする言葉の羅列かもしれない。でも、今の私にはそんなことよりもずっと大事なことがあった。


「待って! あの子は!? 私が助けようとした男の子は無事なの!?」

「え?」

「異世界とかスキルとか、今はどうでもいいの! あの子が助かってなきゃ、私が飛び込んだ意味がないじゃない!」


私の剣幕に押されたのか、女神様はたじろぎながら宙に指を這わせた。

すると空中に半透明の板のようなものが現れ、そこに様々な文字が流れていく。


「え、ええと……少々お待ちくださいね。今確認しますから……あ、大丈夫です。彼は無事に岸にたどり着き、近くにいた大人に保護されました。命に別状はありません」

「……っ、よかったぁ……!」


私はその場にへたり込み、深く息を吐き出した。

自分が死んでしまったのは怖いし、お父さんやお母さんに会えなくなるのはすごく悲しい。でも、あの子の未来がちゃんと続いていくなら、私の行動は無駄じゃなかったんだ。


「本当に素晴らしい慈愛の精神です。己の死よりも他者の生を喜ぶとは。では、改めてあなたに相応しいスキルを――って、きゃああああ!?」


突然、女神様が素っ頓狂な悲鳴を上げた。

見れば、私が座り込んでいる足元から、眩しい光の陣が浮かび上がっている。


「て、転生のゲートが閉まりかけています! あなたが男の子の安否なんて気にして時間を食うから、滞在時間の限界が来てしまったのです!」

「ええっ!? 女神様が確認に手間取ったせいじゃん!」

「と、とにかく急いでスキルを付与します! 焦らないで、私! えっと、初期スキルは……『身体強化』と『魔力操作』! ポイントを割り振ってレベルを設定して……ああっ、手が滑っ」


ピピピピピピピピピッ!!

女神様が操作していた半透明の板から、けたたましい警告音が鳴り響いた。


「え?」

「あああっ! ゼロの桁をいくつか間違えました! 限界突破してエラーを吐いています!」

「ちょっと、大丈夫なのそれ!?」

「修正している時間はありません! もうゲートが完全に開きます! とりあえず、異世界で元気に生きてくださいませーっ!」


「ちょっと待って、女神さまああああ!?」


足元の光が爆発的に膨れ上がり、私の視界を完全に白く染め上げた。

そして今度こそ、私の意識はプツリと途切れた。



チュン、チュンチュン。

のどかな鳥のさえずりと、頬を撫でる柔らかい風の感触で目が覚めた。


起き上がって辺りを見回すと、見渡す限りの大草原だった。遠くには大きな森が見える。

服は死んだ時に着ていたTシャツと短パンのままだし、体も十一歳の私のままだ。どうやら赤ん坊からやり直しというわけではなく、この体のまま転生したらしい。


「……ほんとに異世界に来ちゃったんだ」


ぽつりと呟いた自分の声は、風にさらわれて消えた。

これからどうしよう。まずは人がいる町を探さないと。


そう思って立ち上がろうと地面に手をついた、その瞬間。


ドゴォォォォォォォンッ!!!


「……え?」


私が軽く手をついた地面を中心に、すさまじい轟音と共に大地が陥没した。

まるで隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターが出来上がり、土煙が舞い上がる。


「な、なにこれ……?」


唖然とする私の脳内に、無機質な声が響いた。


《エラーレベルの『身体強化』を確認しました。現在、対象者の筋力・耐久力は通常の人類の約一億倍に設定されています》


「……一億倍?」


私は震える手で、もう一度そっと地面に触れてみた。

指先が触れただけで、岩盤が豆腐のように崩れ去っていく。


どうやら私の異世界ライフは、女神様の盛大なうっかりミスのせいで、とんでもないハードモードになってしまったらしい。



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