第33話 決戦①
「虚実混交ッ!!」
「反実仮想!」
2人が唱える。
すると、ハルバードを中心に、半径約2m程度の円ができる。
円の中は、夕日の橙色の外とは違い、晴れの真昼のような明るさをしている。
そして、塗装が剥がれるようにして橙色の地面がひび割れて剥がれ、白明の地面に変わってゆく。
剥がれた地面は、薄い硝子が割れるような音を立てながら、小さな魔法陣となって、幾つも浮かび上がっては消えてゆく。
そこが、衝突点。
互いの魔法が、拮抗する。
ハルバードの魔法「反実仮想」は全てを意のままに改変する魔法である。
ハルバードはまず「忘却の町」内に侵攻する際に、体が消滅しないように自身の体を改変した。
そして現在、再び魔法を「忘却の町」に対して使用。
150年前に忘れ去られた町を、現世へと回帰させようと試みる。
(…クソッ!何だこの魔法は!)
ハルバードは苦悩する。
(賢者の魔法を使って尚、ここまで持ち堪えられるとは!…更に此奴、ただ魔法を持続させているだけだと思って居れば、魔法を貼り直し続けているとは!これでは俺の魔法も貼り直し続けねば、逆に此方の方が侵食される!)
神官第三席。
とは言え、一般の出の魔法。
魔法の格としては、本来賢者の方が数段上である。
しかし、150年間の研鑽。
ペトラは決して怠けることなく、自身の魔法を研ぎ続けた。
それが、賢者の魔法と渡り合うレベルにまでに至る。
その事実に、ハルバードは驚愕する。
対するシャスナハ、及びペトラの魔法「虚実混交」は触れた全てを透明化させる魔法である。
透明化は自身の意図とは関係無しに、全て自動的に発動してしまう。
彼女に触れられた物は、周囲の人間からはおろか、自身すらも認識できないレベルで透明化する。
透明化したものはやがて、自身を構成する全てが無に帰す。
「忘却の町」は極めて特殊な例であり、本来消滅する筈であったが、シャスナハの魂と融合する形で存在している。
その結果、現在「忘却の町」は周囲から認識できない状態であり、またその町の記憶も外部の人間から消え去っている。
「忘却の町」内は彼女の支配下であり、内部に侵入したものは、触れずとも魔法をかけることができる。
(…仕留めきれなかった!)
ペトラは自身の魔法に対応するハルバードを見て驚愕する。
(この町に入った時点で既に魔法にかかっているはず…。そして、今私はもう一度こいつに魔法をかけ、現在二重に魔法がかかっている状態!それでもなお持ち堪える…どころか、段々とその円の領域を広げつつある…。)
150年。
自身の魔法を研ぎ続け、そして魔力も蓄えてきた。
全霊をもってハルバードに挑む。
それでもなお、仕留めるどころか適応されつつある現状。
決定的な、底での差が露呈する。
しかし、現在窮地にたっているのはハルバードである。
絶え間なく魔法を貼り直し続ける行為には、莫大な魔力を消費する。
このままだと、「虚実混交」を解析し終えるその前に、ハルバードの魔力が底をつく。
それを本人も理解している。
長期戦は不利。
では、どうするか。
(この円の中に彼奴を引きずり込み、直接魔法をかけるしかない!)
ハルバードは心の中で決心する。
ペトラはハルバードを見つめる。
ハルバードが円の中にペトラを引き込むことを決めた今、ペトラがするべきは逃走。
しかし、ペトラはそれを選択しない。
何故なら、彼女はハルバードの魔力量を測量することができていないからである。
150年間、自身の魔法を研ぎ続けた。
それは、他のことを極めることが無かったということ。
この町に閉じこもり続けた彼女は、魔力の測量方法を知らない。
ペトラは、このままだとハルバードに魔法に適応されてしまうと錯覚する。
では、どうするか。
(解析されてしまう前に、より近くで魔法をかけ、こいつを完全に消滅させるしかない!)
ペトラは、心の中で決心する。
短期決戦。
図らずも互いの目的は合致する。
ハルバードはその場で剣を構える。
そして、シャスナハの方に向けて斬る。
刃に籠った魔力が、剣の動きに連動して、斬撃がペトラに向けて飛ぶ。
ペトラはそれを見て、辛うじて避ける。
そして、空を泳ぐように、舞うように、翻り、ひらひらと空を飛ぶ。
そして、再びペトラはハルバードの方を見る。
眼前には、先よりも巨大な斬撃が迫る。
思わず手に魔力を込め、防ごうとする。
そしてそのまま、斬撃に弾かれペトラの体は地面に叩きつけられる。
ペトラはよろめきながらも、すぐさま立ち上がる。
そして、ペトラの目に入ったのは、自身の体の数センチ先に、白明の地面。
ハルバードが、迫る。
魔法以外の戦闘面でも、圧倒的にペトラは格下。
相手に有利のまま戦闘が進む。
覆らない事実。
それでも。
「虚実混交ッ!」
3度目の魔法。
それは、ハルバードでも、周囲の建造物でもない。
(…消えた?)
ハルバードはペトラを眼前に捉える。
しかし、ペトラが魔法を唱えたと思うと、その瞬間にペトラを見失う。
(…逃げた、という訳ではないな。)
ハルバードは消えたペトラを探し、辺りを見回す。
その瞬間、ひたりとハルバードの背中に、何かが触れる感触。
ペトラは、自身に魔法をかける。
「透明化は自身の意図とは関係無しに、全て自動的に発動してしまう。」
それは、触れたものに限る。
150年の研鑽。
その末に彼女は、自身のみに限り透明化の度合いをコントロール可能とした。
そして今、その魔法を使用する。
賢者の魔法域では、自身の魔法を維持する為に出力を上げて対処する。
透き通った手が、ハルバードの背中に触れる。
「虚実混交。」
4度目の魔法。
ペトラが、王手をかける。




