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乙女な王子と魔獣騎士【WEB版】  作者: 柊遊馬


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170/170

第170話、すべては変身魔法のせい


 トニにその鋭敏な感覚を使って部屋の周りを見張らせている間に、ジュダは適当な儀式をやり、ラウディに女体化の魔法道具を使った……ようによそおった。


 さらにマントを王子様に被せ、中で服を脱いで矯正具を外してもらう。その間、トニは床下を、ジュダは天井を睨んでいた。

 再びいつもの王子様服を着直し、被っていたマントから出てきたラウディだが、トニはそれを見て目を丸くした。


「うわぁ、おっぱいある」


 矯正具なしのラウディの胸、その服は内側から押し上げられ膨らみがある。本来はこれが素なのだが、それを知らない者から改めて指摘されて、彼女は恥ずかしげに視線を逸らした。


「魔法道具、凄いですね」


 ジュダはどこか棒読みを感じさせる淡泊な声を出した。


「どこからどう見ても、女の子ですよ。よかったですね」

「……意地悪」


 元々女の子なんです、とラウディは言わずとも、むくれてみせた。その時、近づいてくるわずかな気配にトニとジュダは気づき、視線をやった。ジュダは素早く荷物にラウディの矯正具を放り込んで証拠の品を隠した。


『あー、王子様? 入りますよ』


 アクラが入ってきて、ギョッとした。王子様が服を着ているのに反射的に胸の膨らみを隠す仕草をしたことも含めて。


「え? えっ!?」

「凄いだろう、アクラ」


 ジュダは薄ら笑みを浮かべた。


「どこからどう見ても、女にしか見えないよな」

「こ、これ、どういうこと? 王子様じゃ――」


 さすがに動揺しているアクラである。ジュダは持っていた黒いコインを親指と人差し指でつまんでみせる。


「魔法道具だ。王子様専用の変身魔法」


 いかにもそれらしくジュダは説明する。


「敵から逃れる際、非常事に身を隠す時とかに使う目的で作られたって話なんだが、本当に使えるか試したんだ。……そうしたら」


 ジュダは、ラウディを見やる。


「見ての通り、女性化した」

「はぁ……。ヒュージャンも変身魔法を研究していたんだ」


 などとアクラはどこか納得したような顔になる。そんなすんなり信じるのか、とジュダは思ったが、彼女の言葉を聞き逃さなかった。


「ヒュージャンも?」

「そ、ウルペ人の、特にあたしら幻狐でも変身術に関しては、それなりに研究しているのよ」

「潜入、暗殺が生業だからな」


 ジュダは本心から納得した。アクラは、しげしげとラウディを見やる。


「どこからどう見ても女性ね。ただ王子様は、元々優しい顔立ちだし、性別を変えてもあまり隠せるとは思えないけど」

「率直な意見をどうも。試してみてよかった、というやつだ。これでいざという時に使う時に、もうひと工夫がいるってわかったからな。……そうですね、ラウディ?」

「そ、そうだね。……ど、どうかな?」


 ラウディが上目遣いにアクラに尋ねる。アクラは躊躇いつつ視線を逸らした。


「ええ、まあ。王子様にこういうことを言うのもなんですが、よく似合ってらっしゃいますよ、ええ――」


 どう言うのか不敬にならないか、少し考えてしまったようだった。ジュダは畳みかける。


「アクラ、悪いけど。もし着替えを用意してくれるなら、女性用のものを頼む」

「それがよさそうね。……ちなみに、その変身魔法って効果はどれくらい?」

「一日か二日くらいじゃないかな?」


 少し考えながらジュダは答えた。


「なにぶん初めて使ったからな。製作した魔術師曰く、元には戻るとは言っていたけど」

「ふうん。まあ、王都に帰るまでには戻っていそうね、それなら」

「そう願うよ。もしかしてずっとこのままかもな」


 ジュダは素知らぬ顔で言う。ラウディは苦笑する。


「笑えないよ、それ」

「でもあなたは、そっちの願望もあるから、実はまんざらでもないでしょう?」

「っ! 馬鹿!」


 ぺちん、とラウディはジュダの腕を叩いた。アクラはどういう顔をしていればいいのかわからず、黙っているトニに視線をやる。エクートの少女はニコリと笑みを返した。

 ラウディは立ち上がる。


「じゃあ、まあ、せっかくだし、お風呂にしようかな。ジュダ、行くよ」

「はい、お嬢様」


 今、ラウディを護衛できるのはジュダしかいない。彼女が風呂に入るというなら、安全確保、そして見張りとしてそばにいないといけない。


「トニは?」


 ブンブンと彼女は首を横に振った。後から聞いた話では温泉のニオイが駄目らしい。



  ・  ・  ・



 風呂が温泉だとアクラは言っていた。屋根付きの部分と露天なっているのがあって、広さは当然、露天の方である。

 アクラが案内したが、最後に『ごゆっくり』と言葉をかけてさっさと立ち去った。王子様のお風呂に長居する趣味はない。趣味以前に、それは失礼というものである。王族の湯浴みの邪魔をするものではない。


「で、ジュダ。君もさっさと服を脱ぐんだよ」


 服を脱ぎ、タオルを巻いて胸からふとももあたりまで隠したラウディは、護衛として風呂場の前で見張ろうとしていたジュダを脱衣所に引き込んだ。


「何の冗談ですか?」

「そこにいたんじゃ、露天風呂の方を見張れないでしょ」


 顔が赤らめつつ、ラウディは真面目ぶる。確かに配置上、彼女の指摘は正しい。だが女性であるラウディがタオル一枚の姿を、ジュダに見られるという状況を許容できるというのか。――できるから、声をかけられたのだろう。


「端で見張っていますが、何故、脱げと?」

「君も一緒に入るからだよ。わかるよね……?」


 いやいやいや……何言ってるの?――ジュダは激しく困惑した。

次話は20日頃、投稿予定。

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