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第十三話 祭りの後で

「ったく。せっかくマンティコアを俺たちが倒したっていうのによぉ、何のご褒美もなしかよ!」

「いやいや、デュオは何もしてないから。頑張ったのはオグマだから。……まあ、でもちょっともったいないと思うのは同感。オグマ、お人好し過ぎ。そこは反省しなさい」

「……」


 「職人街」にある居酒屋「ポンポコ停」は大荒れだった。

 その原因は俺の連れであり、つまりはデュオとミレーヌの二人である。

 さっきから、こうしてくどくどと不平不満をぶちまけているのだが、俺としてはどう宥めていいのか分からない。

 絶対に悪酔いしている。

 というか、そもそも俺がなぜ怒られているのかが意味不明なのだが。


「いや、別に俺がマンティコアを倒したわけではないだろ。あの生徒が止めを刺してくれなければ、俺にはどうしようもなかった」


 ――実際には、俺の目論見はほぼ当たったと言える。

 魔力を餌としているらしいマンティコアは、すでにかなりの魔力を吸収して躰が膨張していた。

 そこへ、俺の魔力、しかも <錬成> により高度に圧縮した魔力をさらに与えれば、もしかしたら今以上に躰が膨らんで、内部から破裂させることが出来るのではないかと考えたのだ。


 <発現> の才能がなく魔術が使えない俺だが、<錬成> は結構得意だった。

 体内で魔力を練る感覚は非常に面白い。

 <錬成> された魔力は、何というか高質なエネルギーの塊のようで、神々しささえ漂わせている。

 きっと、餌としては申し分ないはず。


 狙い通り、マンティコアの躰、特に腹部は、はち切れそうなほどに膨らんだ。

 しかし、一向に破裂しそうな気配はない。

 俺は内在する魔力量は多いほうだが、それでも無限に放出し続けることなど不可能。

 そこに、あの女子生徒が苛烈な一撃を加えてくれたことで、何とかマンティコアの腹部を裂くことができた。


 やはり、止めを刺したのはあの生徒に違いない。

 まさか、<練成> の技能がこんな形で役立つとは夢にも思わなかったが、俺が果たした役割は彼女に比べれば微々たるものだろう。


「それにしてもだぜ、ああも美味しいところだけ持っていきやがってよぉ。けっ! けっ! これだから、魔導学院にぬくぬくと通っているようなぼんぼんのお子ちゃまたちはっ! あー、腹が立つ!」


 どうも、デュオは魔導学院の生徒たちに対して一家言あるようだ。

 彼らが恵まれた家の出であることが気に食わないらしい。

 俺の出自をもし知られるようなことがあれば、一体どう思われるだろう。

 今では貴族家を放逐された身空ではあるが、当面の間はデュオには黙っていたほうがよさそうだ。


「確かに面白くはないわね。手柄を横取りされたわけだからさ。まあ、私とデュオは、ただ岩陰から覗いていただけだから、何も言えないけどねぇー」


 タチアナから恨めしそうな視線を向けられ、俺はいつものように曖昧な苦笑を浮かべてやり過ごす。

 

 マンティコアを倒してほどなく、冒険者ギルドの調査隊の隊長が、大勢の冒険者を引き連れて戻って来た。

 俺は、彼らが訓練場へと到着する前にデュオとタチアナと一緒に現場を離れた。

 二人は「マンティコアを倒したのはオグマだろ」と最初は反対していたが、俺がどうしてもと頭を下げる姿を見て、しぶしぶ同意してくれたのだ。

 

 あのまま訓練場に残れば、俺は事情をいろいろと説明しなければならない。

 しかも、魔導学院の生徒たちと一緒に。

 正直、彼らと同じ場所に居続けるのは苦痛だったし、魔力云々の話をするのも面倒だった。


 あの後、魔導学院の生徒たちが一部始終をどう説明したのかは分からない。

 けれど、いずれにしろ俺が何をしたのかはっきりとた者はいないだろう。

 どれだけ優秀な魔導学院の生徒と言えども、魔力がえる体質の者はほとんどいない。

 そう言えば、つい先日街で男子生徒に絡まれていた平民出の女子生徒は魔力がえると話していたが、まさかあの場にはいなかった……よな。

 うん。

 いなかったはずだ。


「ほんとやってられないよなぁ! 生まれで人生が決まるなんてよ! 俺も貴族の坊ちゃんに生まれたかったよ! マジで!」


 すでに相当酔いの回っているらしいデュオは、かなり怪しい呂律でこの世の不条理を嘆いている。

 やはり、俺が元貴族だということは口が裂けても言わないでおこう。

 どんな罵詈雑言を浴びせられるか分かったものではない。

 それよりも、そろそろ酒を飲むのを止めたほうがいいのだろうか?


「ああ、お金よ。お金が凄く欲しい! めちゃくちゃ楽ちんで、しかも大金が手に入る仕事はないの?」

 

 デュオと同様に酔いで完全に目の据わったタチアナが管を巻く。

 やたらとお金に執着しているタチアナは、稼いだお金を一体に何に使っているのだろう?

 贅沢をしなければ、それなりの生活はできると思うのだが。

 不思議だ。

 それと、残念ながらそんな都合のいい仕事はない。

 

「おい、分かってるのか? オグマ? お前もそう思うだろ、な? な? な?」

「ああ。まったくその通りだ」

「ねぇ、私の話をちゃんと聞いてるの、オグマ! 返事は!」

「聞いている。タチアナの言うことが正しい」


 両隣に居座る酔っ払いを相手にしながら、俺もチビチビと酒を嗜む。

 若干の鬱陶しさは禁じ得ないが、悪い気はしない。

 この二人には変な気を使わないで済むから助かる。

 友人らと飲む酒の席とはいささか趣が違うかもしれないが、それなりに俺も楽しいのだ。

 

「あの……少しよろしいでしょうか?」


 背後からそんな声を掛けられたのは、すっかりデュオとタチアナが酔い潰れて、眠ったようにテーブルの上に突っ伏した後のことだった。

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