48話 世界を作るのって面倒くさいからね
「この事件の被害者はふたりいる。真・世界にある真・物語部の部員であり、おしゃれ盾を使う騎士の真・樋浦遊久先輩、それにおれたちの世界の物語部の部員で、おしゃれ服がキュートで、先輩じゃなくてただのネコだったらぎゅって抱きしめてすりすりしたくなる、極上のこしあんパンみたいな遊久先輩だ。え、おしゃれ服は妹の清が昔趣味で買って、何度か着たけど、どうも合わないな、ってことで下賜された、じゃなくてお下がり? お前なんかに似合うわけないだろ、何考えてんだよ清は」と、おれは真相を語りはじめた。
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真・世界、つまり真・物語部が存在するかしないかは、おれたちの世界の人間による認識の問題になる。あちらの世界とこちらの世界は、類似と暗喩で重なり合っていたり、すれ違っていたりする。類似のところは、物語部の部員の数、各人の名前、各人が自分を何と呼ぶか、髪と瞳の色、体型など。異なるのは性格・性別・武器使用の有無で、特に武器に関しては真・世界の世界観と関係している。
あちらの世界は殺伐として殺し合う世界なのか、それとも学校へコスプレしていってはしゃいでも問題ない世界なのかは曖昧だ。今のところ、なぜ曖昧なのかは曖昧だ。考えられる理由としては、その世界観が今回の事件に関係がないからかもしれないし、断片的に、嘘とも解釈できる真・物語部員の証言しかその世界を知るすべがないからかもしれないし、作者がそこまで考えていないからなのかもしれない。世界を作るのって面倒くさいからね。
さて現在、真・樋浦遊久先輩の首と胴体、おれたちの遊久先輩の首と胴体、それにスイカは、霊的な方法で混ざっている。おれが最初、どう見ても遊久先輩の首にしか見えなかったスイカは、実は真・遊久先輩の首だった。まあそこらへんは、首のない死体はだいたい胴体と違う首だ、ってセオリーだから仕方ない。死体じゃないけどね。
犯人は、あらゆる方法で自らの霊性、超人性を示している。その割に奇妙な、隠された真実がある。真・遊久先輩は物語部と同じ階の男子トイレで、遊久先輩はひとつ下の、調理室がある階の女子トイレで記憶を失っている。そのような犯罪めいたことができるのは、神か(と言って、おれはヤマダを指さした)、あるいは男女の共犯か(と言って、おれは松川志展・関谷久志の一般人カップルを指さした)、いや、こんなことは一般人には無理だな。じゃ、樋浦清と市川醍醐のふたりか。まあそれでもいいんだけど、おれはこう思ったよ、それは男女どちらのトイレにも入れる、超越的存在、つまり女装男子だ。
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おれは、弓を使う魔法少女っぽいコスプレをしている女装男子、真・樋浦清を指差した。
「え、えー? わたしは普段男子トイレの個室使ってるよ? 最初のうちは男子にびっくりされたりしたけど、ひと月ぐらいで慣れてもらったし」と、真・清は言った。
「そうなんだ。まあいくら女装してても、男子が女子トイレ使っちゃまずいからね。普段はそうかもしれない。ところで、お前とお前は、途中で入れ替わってたろ」と、おれは真・清と清のふたりを順番に指差して言った。
「そうなんですか! でも今は元の、あちらの世界の清さんと、こちらの世界の清さんですよね!」と、松川はまた、疑問符で聞くところを感嘆符で質問した。
「そうだね、こちらの世界の清じゃ、魔法の矢は放てないから。まず、最初の入れ替わりは、調理室でおこなわれた。こちらの清と真・世界の清とは、性格その他とてもよく似ているので、服が同じなら見分けがつかない。女子と男子という性別はともかく、あとはほぼ同じだ」
「なるほどですね、備くん。でも、闇の世界の住人は、今日みたいな大豪雨でほぼ闇になってるときか、夜でないと来られないのでは。清さんが下へ水をくみに行ったときには、まだ雨も降り始めてなかったはずです」と、市川は言った。
「あるんだよ、闇は。誰もが奥底に秘めている、邪悪で、どす黒くて、真夜中の怒涛の岸壁のような心の闇が」
みんな、特に市川は明らかに唖然として、黙っておれを見た。
ごめん、ネタ滑った?




