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10/11

ぼっこぼこにされちゃいました♪

俺たちは、確認するまでもなく中卒ニートだ。

当時はニートなんて言葉はなかったけれど。

ニートである俺たちには他の人にはない利点がある。


それは、時間だ。


俺たちは、競馬場のある駅から電車に乗り、その足で忠彦の住んでいるというアパートに向かった。

忠彦は家を出てひとり暮らしをしており、大学近くのアパートにひとり暮らしだった。

だが、まだ帰宅していないようで、部屋には誰もいなかった。


「居留守じゃないのか?」


「いや。裏に回って部屋の明かりを見たけど消えてた。たぶん本当にいないよ」


「じゃあどうすんだよ!」


「待つに決まってんだろ」


 俺たちは、忠彦の部屋のドアが見える場所を探し、そこで張り込みを始めた。


……まさか3日も帰らないとは思わなかったけど。


 俺は、忠彦が帰宅した報告を終電で帰った家で聞いた。

もちろん携帯なんて持ってないから家電だ。

幸い、といえるかどうかはわからないが、深夜の電話にも関わらず、家を出て行くことになっている俺に対して両親は白い目を向けるだけだった。


「……あ~。わかった。始発でそっちに向かうよ」


『なに言ってんだ! タクシーでも自転車でも使って早く来い!』


 自転車って……。

いや、この頃はどこに行くにも自転車で1~20キロくらいなら平気だったっけ。


俺は眠い目を擦ってマウンテンバイクに跨り、国道を走った。

まだ3月、夜はさすがに冷え込む。

幸い車を運転するようになって道には詳しくなっていたから、初めて向かう場所だったが迷わないですんだ。


 そして、目的の忠彦のアパートには3時間ほどかかった。


「遅い! なにしてたんだ」


「無茶言うなよ。これでも必死こいて来たんだぞ」


「なんで自転車?」


「タクシーなんて使えるかよ。金がないのに」


「金なら、これから取り返せるだろ」


 そういえばそうだった。

俺たちはひとつ頷くと、忠彦のアパートの前に立った。


「部屋にはひとりか?」


「それは間違いない。3日前から誰か篭っていたのなら話は別だけど」


 雄平はドアをノックした。


……返事はない。時間が時間だし、寝ているんだろう。


雄平はしつこくドアをノックした。


やはり、ドアは開かない。さすがにもう起きているだろうに。


「……出ないな」


「確認するけど、いるんだよな」


 雄平と雅彦は頷いた。


「それじゃあ居留守ってことになる。あいつ、出る気ないってことだろ」


「どうすんだよ!?」


 俺は、夜中にも関わらず、大声で怒鳴った。


「忠彦さん! いるんだろ! 出てきてください!」


 それに合わせてドアを強く叩く。


雅彦と雄平は顔を見合わせると、俺に倣って声を張り上げて忠彦を呼んだ。


「いるのはわかってるんだ! 早く出てきて!」


「居留守だってばれてるんだよ!」


 俺たちの罵声に耐えられなくなったのか、忠彦はそれから1分もかからずに出てきた。

寝巻きではなくご丁寧にしっかりとした私服の格好で、だ。


「……誰かと思ったら君たちか。こんな時間に、さすがに非常識じゃないのか?」


 年上の威厳を保ちたいのか、忠彦は少し厳しい顔を作った。


「俺たちがなんでここに来たのか、わかってるよね」


 忠彦はわかりやすいため息を吐いた。


「ここじゃなんだから、少し出よう」


 そう言って忠彦は部屋から出た。

俺たちは黙って忠彦の後についていく。


やがて、忠彦が立ち止まったのは、いかにも人気がない空き地の資材置き場だった。


 しばらく思い沈黙が辺りを覆う。


俺は、口火を切った。


「なんで勝手にいなくなったのか、とか、今までなにをしていたのかとかはこの際いいです。とにかく、金を返してください」


 忠彦は、なにも答えない。

俺は業を煮やし、忠彦に詰め寄った。


「おい! 聞いてる……」


 俺の言葉は最後まで吐き出されなかった。

忠彦に、殴り飛ばされたからだ。


冷たい地面を背中に感じる。

痛みと涙で、右目がよく見えなかった。


「こっちが下手に出てりゃ付け上がりやがって、ガキのくせに!」


 最初、それが誰の声がわからなかった。

……これが、忠彦の本性かよ。


「なめんじゃねえぞ! おまえらに大金はもったいないから俺がもらってやったんだ!」


「……言いたいことはそれだけかよ」


 俺は埃を払い、立ち上がった。


「悪いけど、1発2発殴られたくらいで無き寝入られる額じゃないんだよ!」


 俺は忠彦に殴りかかる。が、カウンターで腹部に忠彦のつま先がめり込む。

腹を押さえて蹲る俺の顎に膝が叩き込まれた。


……こいつ、強い!


雅彦と雄平も忠彦に殴りかかるが、余裕で返り討ちになる。


うん、ボコボコにされた。


忠彦は、倒れている俺の顔にツバを吐きかけた。


「次舐めたことしやがったらこれだけじゃすまさねえぞ!」


 そう言って忠彦は資材置き場から出て行った。

俺たちが痛む身体を起こしたのは、忠彦が去ってから1時間が経った頃だった。

日が昇ってきたのか、空がぼんやりと白んできていた。


「……おい、雄平! あいつ、強いじゃねえか」


「……確か、中学からフルコンタクト系の空手やってるんだって。大学でも空手部の主将してるってよ」


「……それ、聞いてない」


 雅彦は血が混じったツバを吐き出した。なぜか顔は明るい。

その理由は、次の言葉でわかった。


「でも、これで警察に訴えられるよな」


それを聞いた俺と雄平の顔は暗い。


「どうしたんだよ?」


「いや。警察は駄目っぽいな」


「なんでだよ!?」


「俺たちは、なんで高校に行けなくなったんだっけ?」


「そりゃ、暴力事件起こして、停学喰らったからだろ?」


「誰を殴ったんだよ」


「金丸慎也……」


 そこで、雅彦は俺たちと同じように顔を暗くした。

うん、2~3年後ならともかく、事件起こしてからまだ3ヶ月も経っていない。

こんな時期にこのことがあいつの耳に入ったら、普通に妨害されると思う。

警察に手を回して、最悪訴えを不受理、なかったことにされる可能性が高い。


「じゃあどうすんだよ! このまま無き寝入るのか!?」

 

「まさか!」


 俺は勢いをつけて立ち上がった。

くそ、身体中痛い。


「このままで終わらせてたまるか! 警察なんかに頼らないで、徹底的に追い込んでやる!」


 それを聞いて、雄平が、次いで雅彦が俺の前に立った。

俺は、2人の前に手の甲を差し出した。


「このまま無き寝入るってのもありっちゃありだと思う。ぶっちゃけるなら前の人生ではそういったことも多かったしな。だけど、今回の人生ではそうなるつもりはない。はっきり言う。そんな人生ごめんだ。だから、俺は忠彦に復讐してやろうと思う」


 そこで、俺は一度言葉を切り、言った。


「乗るか?」


 俺の手の甲に、雄平は手を乗せた。


「こうなった責任は俺にある。金丸の件も、忠彦さんの件でも、な。だから、俺はお前たちに協力するよ。もちろん自分のために」


 雅彦は、少しだけ逡巡したが、やがて雄平の手の甲に自分の手を乗せた。


「ぶっちゃけると、俺は新しく始まった人生を楽しんでない。高校は進学できなくなるし、お先真っ暗だ。

本当なら競馬で大金稼いで余裕ができた後に将来を考えようと思っていたのにそれもパーだ。

だから、やることがない俺は、しばらくはおまえらと踊ることにする」


 俺たち3人は、顔を見合わせた。


ようやく、朝日がビルの谷間から輝き始めていた。








―ぼろ負けワロスポイント、5000点を入手しました。



とりあえずの予約投稿はここまでです、

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