第一九話 和解
俺とミュウは、副長とギリギリの攻防戦を続けていると、鐘の音がカンカン!!鳴り響く。
それは、ヴァンパイア側の勝利を示す鐘の音であった。
ラロットが予め、「俺が長同士の戦いを制したらこの鐘の音を鳴らす」と言われ聞いた音と同じだったから分かった。
よっしゃあああああああ!!
この戦いを制したぞぉおおおおお!!
本当は声に出して叫びたかったが、そんな元気はなかった。
ヴァンパイアの勝利を理解したのは、俺以外のヴァンパイアも同じであり、リザードマンが“負けた”という事を理解する事は、そう時間が掛からなかった。
ヴァンパイアの歓喜の声が一斉にこの空間を包み込む。
死闘を生き抜いた戦士達が抱き合いながら飛び跳ね、喜びを分かち合っている。
先程までの重苦しく、殺伐としていた空気感とは一変したようであった。
そんなヴァンパイアとは裏腹に、リザードマンは、膝から崩れ落ち、何もかも失ったような絶望な顔を見せた。
ラロットの元へ向かおうとしようとすると、俺と戦っていたリザードマンの副長は、短刀を取り出し、自分の首へと向けた。
刀が握りしめられた手は一寸に震えもなかった。
俺は、すぐ副長の手を取り押さえた。
「今は死ぬべき時ではない!!だから、その刀を手から離すんだ」
俺は、放せと暴れている副長を抑えているから、辿々しい喋りになる。
「放せ!お前は勝った立場ではあるが、我輩に死ぬ場所さえ指図立場ではなかろう。我輩には負けた責任として自害する必要がある!!」
そんな事はさせない!
ここで、死なれてもらったら困る。
何せ、俺の推測である、『リザードマンの長が外部的接触により、単独で実行した行動』であった場合があるからだ。
その線が消えない限り、戦力になり得るコイツらを死なせたくはない。
「そんな責任、後からやるかどうか決めろ!!今は、勝った俺らの命令を聞いて、部下の命を担保するのがお前のするべき事だ!」
俺はもっともらしい言葉を並べると、副長は分かってくれたのか、自害するのをやめてくれた。
ふぅ危なかった。
危うく死なれる所だった。
死なれたら、俺の国造り計画のゴールは遠ざかるからね。
「おい!お前ら、副長を見張っておいてくれ!!」
俺の近くにいて、心配そうに俺らを見ていたヴァンパイアに副長が自殺しないか、見張っておくように頼んだ。
これで、ラロットの元へ向かえるな。
◆
「よ!ラロット、お疲れ様」
あぐらをかきながら、崖が手前にある場所に座っていたラロットの肩に手をポンと乗せて言った。
「ユレン...復讐は果たせました」
少し悲しそうで、しかしどこか澄んだ目をしていたラロットは、落ち着いた声で、そう言った。
「ったく!!勝ったんだから、もっと喜べよ!!」
と、ラロットを肘で小突いてみたが、少し愛想笑いをした。
俺はラロットも重い反応に察した。
「そっか、長殺しの犯行には、リザードマンの長には収まらない“裏”があったんだな」
俺はそうポツリと言うと、ラロットは、ビクッと驚いた
「何故それを?」
ラロットが言いたいのは、何故それを予測していて、言わなかった?と言いたいのだろう。
当然の反応だ。
弁明しなくてわな。
「ナギとの間で行われていた不確かな推測だったからな。それをお前らに言ったら、戦いに躊躇が生まれてしまうだろ?それが敗因にもなり得るから、黙っといたんだ。ごめんな」
「いえ、そこまで考えてくれて、ありがとう」
俺は、思いっきり背伸びをして、強張った筋肉をほぐした。
「まぁ、この事は後で考えればいいじゃないか。今は、勝利に喜ばなければな!」
そう俺は明るく言いながら、腕をラロットの首に巻き、顔をギュッと近付けた。
「そうだな!今は、素直に勝利を喜ぶ事にしようか!!」
そう言い、俺とラロットは喜びを分かち合った。
◇
少しすると、俺とラロットの元に、ナギ、レイン、アスナ、フィオナと全員が戻ってきて、その四人達は、副長、ルーディア、リエル、リドルを連れていた。
リザードマン四人は、「信じられない」と言いたげな怪訝な顔をしていた。
ナギ、レイン、アスナ、フィオナ全員、生きていると言う事は、五憲の守人皆んな、敵に負けなかったんだな!!
皆んな、誰一人死んでなくて良かった....
「お前ら全員無事でよかった。よく勝ってくれた!」
俺はそう祝杯を送ると、レインとフィオナは胸を張っていた。
が、ナギとアスナは、少しだけ引きずった顔をしていた。
どうやら、ナギとアスナだけは、少し違うらしい。
リエルを見ると、傷が他二人と比べたら浅かったので、何となく察した。
まずは、処遇を決めると言うより、この戦いの真実から語るべきであろう。
それを信じてくれるかは、分からないが。
いや、100パー信じないであろう。
どう信じてもらうべきか。
俺はそう思いながら、ラロットに目線を配った。
ラロットはその目線を受け取り、分かってる、と言わんばかりに頷いた。
え?信じてくれる要素でもあるのか?
ラロットの話術で信じさせることが出来るの??
いや、ここは、ラロットに全てを託し、信じるしかない。
ラロットが口を開く。
「お前達には、信じられないだろうが、黙って聞いて欲しい。まず、リザードマンの長――ガエルが俺達ヴァンパイアに戦いを仕掛ける要因となった、お前らにした説明は、全て嘘だ」
ラロットはそう前置きをする。
そして、説明をした。
大まかに説明した内容はこうであった。
・ガエルは、何らかの外部的接触により、不確かな情報を吹き込まれ、このような行為に至った事。
・ガエルがガエルの付き添い人を殺し、自作自演でヴァンパイアと戦う理由を作った事。
・ヴァンパイアの村に攻めてきた理由は、力をつける為であった事。
・これは全て、ガエルが単独で行ったとの事。
単独で行ったかどうかは不確かである。
それに外部的接触が、国単位なのか、このヘルシャースでの他の種族の部落が起こした事なのか分からない。
だが、力を付けるために、ヴァンパイアの村に攻め込んだと言っているので、東の国の介入っぽいんだよなぁ。
ラロットの説明を聞いたリエル以外のリザードマン三人は、ポカーンと口を開けていた。
だが、すぐに疑いの顔に変わった。
そりゃそうだ。
簡単に敵の言葉を信じるわけがない。
それは、自分達が慕ってきた長を殺した奴の言葉で、加えて、自分達の長が嘘をついていた事になるからだ。
それによる被害はリザードマン側も尋常ではないはずだ。
ここをどう潜り抜けるのかが、国造りの一歩に大いに関わってくるだろう。
それまで、訝しげな顔をしていたリエルが口を開く。
「大前提、あなたが言った事は、筋は通っているかもしれないが、それを信じれるかは別だ。それは分かっているだろう」
すると、副長がリエルの言葉に被せるかのように話し出す。
「そうですね。何か証拠はあって言ってると言う事でしょう?そうじゃなければ、我輩らにあなたがこんな見え透いた嘘を付かないはずじゃ」
慎重に、探るように言葉を選んだ。
すると、ラロットが一言
「フィフム」
と。
その瞬間、リザードマン達は騒めきだす。
そして、いきなり静まったと思えば、副長が頭を地面にめり込ませる勢いで、下げた。
「申し訳ない....!あなたが言った事は全て、ワシ達の長――ガエル様の言葉である事は分かった。あなた達ヴァンパイアに何一つ非はなかったようじゃ....」
副長以外の三人のリザードマン達も頭を下げだす。
え....え!?
何一つ俺はこの状況について処理が追い付いていないし、ラロット以外のヴァンパイアもそうだった。
だが、リザードマン達はヴァンパイアに何一つ非がなかった事を公に認めてくれた。
これだけで、俺の目標は完璧に達成した。
リザードマン達の反応的と、ガエルの言葉的に、ガエル単独で行った線は強いだろ。
少なくともここにいるリザードマンは、関わってなさそうではある。
俺は、そう思い、又もやラロットに目線を合わせると、「分かってます!」と言いたげな表情でウィンクをする。
いや!ラロット俺の心読みすぎだろ!とつっ込みたくなったが、冷静に....
ラロットは、他のヴァンパイア四人――ナギ、レイン、フィオナ、アスナに対し目線を合わせる。
すると、皆は同意するように、頷いた。
言葉を交わさずとも、長年一緒にいた仲なのだから、何を言いたいか分かるのであろう。
「副長....」
ラロットは口を開こうとすると、
「その呼び名は、やめてくれ....ルランでいい」
確かに副長呼びだとヴァンパイアの副長みたいになり、少し語弊を生むかもしれないからな。
ラロットは、ゴホン!と咳払いをし、言い直す。
「ルラン、この件は、ガエルが主犯格とし、お前らは、不本意に操られていた側だ。お前らリザードマンに非など一切ない。だから、俺らヴァンパイアは、リザードマン達を許そうと思う。その代わりに、ヴァンパイアの仲間となってくれ」
ラロットは、ルランに手を差し伸べた。
◆
その後、どうなったと言うと、ラロットの提案をルランは受託した。
これで丸く収まったと思ったが....ルランは、そんな条件では甘いと、自分自身の腹に短刀を向け出し、「ワシが切腹をし、この責任を取る!!」と、言い始めたので、大慌てになった。
今回ばかりは、俺は、切腹を止めれる口実が無かったので、リザードマン達に協力してもらい、何とか諌めれた。
この切腹ジジイが!!
ちなみに後でリエルに聞いた事だが、「フィフム」とは、ガエルが好きな花の名前らしいのだ。
綺麗で壮麗な花らしいのだ。
それを合言葉にし、リザードマンのごく一部が使っていたらしいのだ。
合言葉....それは便利だな。
作れる時になったら、作ろうかな。
もちろん、合言葉は、工事系にするけどね。
リザードマンとヴァンパイアの皆んなに、この事件の発端と、どう折り合いを付けたかをラロットと、ルランが自分の口で話した。
皆、少し戸惑っていたが、自分のトップ達が話しているので、信じてくれた。
だが、リザードマンとヴァンパイアの中にデカい壁がある事は否めない。
それは当たり前だろう。
先程まで殺し合っていたのだから、理屈がどうあれ感情が先に来てしまう。
これを取り除かなければ、国造りの中で分断を生むことになる。
どうにかせねば....
「ミュウ!!」
ミュウは、俺の顔に力強く飛びついてきた。
俺は勢いのまま、地面に倒れてしまう。
「ちょ!ミュウ!」
俺はそう言い、ミュウを離そうとするが中々離れなかった。
そっか....そうだな、ミュウは、俺とミュウがこうやって地に足を付けている状態が、本当に嬉しいんだろうな。
俺もミュウは死ななくて本当に嬉しい。
そう思うと、俺はギュッとミュウを抱きしめた。




