番外編「小さなお客様とベビーベッド」
ある日のこと。
城門の前に、小さな籠が置かれていた。
中に入っていたのは、捨て子と思われる魔族の赤ん坊だった。
小さな角と、蝙蝠のような翼が生えている。
「まあ……!」
私はその子を抱き上げた。
赤ん坊は一瞬驚いたように私を見つめたが、すぐに私の匂いに安心したのか、キャッキャと笑い始めた。
「リノ、それは……」
ザルドリス様が困惑顔で覗き込む。
「捨て子のようです。……放っておけません」
「……そうだな」
彼は赤ん坊のぷにぷにとした頬を、恐る恐る指でつついた。
すると、赤ん坊はその指をギュッと握りしめた。
「……!」
ザルドリス様の表情が、一瞬でデレデレに崩れた。
「……可愛いな」
「ですね」
その日から、魔王城に新たなミッションが加わった。
「至高のベビーベッド制作」である。
「素材は最高級のシルクだ! 肌触りが命だぞ!」
「柵の高さはこれでいいか? 落ちたら大変だ!」
「モビールはドラゴンの鱗で作ろう、キラキラして喜ぶはずだ!」
ザルドリス様は、政務そっちのけで(ギルに怒られつつ)育児と工作に参加した。
完成した子供部屋は、もはや「雲の上」と形容すべきファンシー空間になった。
赤ん坊――「ミナ」と名付けた――は、その部屋ですくすくと育った。
私たちを「パパ」「ママ」と呼び、城中をハイハイで冒険する。
「パパ、だっこ!」
「おお、よしよし。高い高い~」
玉座で仕事中の魔王様によじ登るミナ。
それを目尻を下げて受け入れる魔王様。
部下たちは「平和だ……」と遠い目をしている。
私たちはまだ本当の子供を授かってはいないけれど、こうして家族が増えていくのも悪くない。
「リノ、ミナが寝たぞ」
「お疲れ様です、パパさん」
「……次は、私たちの子供のためのベッドも、考えておかねばな」
ザルドリス様が、意味深にウィンクをした。
私の巣作りは、まだまだ終わりそうにない。




