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サイアク  作者: 駄犬
40/48

4-15 欲望の在り方

 白昼と夕暮れの狭間。

 校舎の白い壁が少しだけ、ほんの少しだけ橙を帯びる時間帯。

 背の低い彼女は小さな声で歌を歌いながら、人気のない廊下を軽やかな足取りで進む。

「泣ーかないこーとを……誓ったまま……時は過ぎ……」

 彼女の名前は月葉。

 髪は肩にかかるぐらいのロブであり、透明感のある黒髪に、インナーカラーが緑色になっており、前髪につけられた四葉のクローバーのヘアピンが目立つ。

 彼女の人生には苦痛も苦悩もあった。傷も痛みも残り続けている。

 それでも、彼女は誰も見ていない場所でも、その全てをなかったかのように振る舞う。

 そう有れる程に、彼女の人生は幸せに満ちていた。

 信じるものがあるから。大切なものがあるから。

 しかし、それは永遠に続くものではない。

「いーたむここ……ろ、に?」

 月葉の足が止まる。

 目の前には、二人の男が立っていた。学校という世界にはあまりにも不釣り合いな、異質な風貌。

 一人は黒スーツ姿の男。吊り目で病的に顔色が真っ白であり、その奇妙で作り物のような容姿が、彼女に内包されているアラートを加速させていた。

 もう一人は、パーカーを着た長髪の若い男であり、彼女が知っている男だった。

 彼女が二ヶ月前、恐怖を覚えた男。

 彼女を尾行し、彼女を捕捉し、彼女の所有物を奪おうとした、同じクラスの男子生徒。

 しかし、彼はもう普通の人間ではなかった。

 目は血走り、腕は震え、顔は青ざめ、体には真っ黒い泥のようなものが纏わりついていた。

 その黒は、他の色を拒絶する程の黒。全てを否定する、見ているだけで吐き気のする黒。

「ひっ……」

 悲鳴。あまりにも小さな悲鳴。

 それは、彼女の唯一の抵抗。

 しかし、それ以上はなにもできない。

 確信したのだ。これからこの二人に苦痛と苦悩を植え付けられる事を。

 彼女の幸せが、終わることを。

「……つ……き、は……ちゃあああああんんんんん!!!!!!」

 長髪の男は、纏わりついている真っ黒な泥と共に、獣が獲物を捕らえる時のように月葉に襲いかかる。

「───」

 彼女は反射的に目を閉じる。

 逃避行動であり、生存本能。

 彼女は死を受け入れる暇も与えられず、ただ彼に嬲られるのが運───

 

「月葉!!」

 ───ザシュッ!!

 聞き慣れた声と、斬撃の音が同時に鼓膜を刺激する。

「ぎゃあああああああ!!!!」

 男の叫び声が、廊下を震わせる。

 黒い泥はバケツに入ったペンキをぶちまけたかのように、廊下の床や壁に飛び散る。

「……え」

 彼女の目の前には、顔面に裂傷ができた長髪男。

 そして、彼女にとって見慣れた青年の背中があった。

 彼女にとって最も信頼できる男の背中。

 何度も、何度も魅せられた彼の背中。

「月葉!! 大丈夫か!?」

 彼は振り返り、焦燥を隠す事なく叫ぶ。

 彼の名は槍華。彼女の親友であり悪友。

 何度も見て、見慣れて、もう見飽きた程の友の姿。

 ただ一つ違ったのは、彼の右手には翡翠色の槍が握られていること。

「あっぶね! 間に合った!」

 その言葉と同時に、彼女は気がつく。

 自分がそもそも立ってもいない事と、彼女が立っていた場所から遥か後ろに自分がいる事を。

 彼女は今、誰かの右腕に抱えられている。

「大丈夫! 月葉さん無事!」

 その叫ぶ青年の顔を覗くと、そこには昨日と今日に出会った青年、暁理がいた。

 彼の足元からは煙が立ち、彼女が抱えられている右手は黒い鎧躯の籠手になっていた。

 その黒は目の前の泥と同じぐらいに黒以外の色を拒絶しているが、その黒は長髪男の泥の黒とは違う。理論も理由もないのに、それだけは無意識に確信していた。

「月葉さんっ……お怪我は……」

「暁理! 槍華! 秘匿結界張る前に飛び出すなってんだろ!!」

 後ろからは、暁理と同じく昨日と今日に出会った二人の声が聞こえる。

 一人は白髪の少女、シロア。

 もう一人は毛先が青のグレーの短髪青年、戒刃。

「しかたねーだろ! 月葉危なかったんだから!」

 そんな三人に向け、槍華は叫ぶ。

 安堵や恐怖、混乱と使命。様々なものが絡んだ声色であった。

「シロア、月葉さんを頼む」

「はいっ……!」

 暁理はシロアの後ろに月葉を降ろす。

 すると、シロアは白と黄色を基調とした錫杖を振り回す。そして、力強く錫杖の棒尾を地面に叩きつけると、月葉の周囲が光り輝き始める。

「暁理さん、月葉さんの周囲に防御結界を張りました」

「ありがとう。シロアはそこで援護と月葉さんの死守だ」

「はい」

「戒刃、秘匿の結界は?」

「起動してる。ただ、校舎を外郭にしてるから、校舎を壊し過ぎたら結界自体も壊れる。暴れすぎるなよお前ら」

 戒刃がそう告げると、槍華は頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

「つまり……どういうことだってばよ?」

「好きに暴れていいけど、暴れすぎたら俺達以外の人間が死ぬから気をつけろってこと」

「むずくね?」

「難しいね」

 暁理はそう言いながら二人の間に入り、右手の黒い籠手に赫い焔を宿す。

 戒刃は虚空から刀を取り出し、刃先をスーツの男に構える。

 槍華は翡翠色の槍を振り回し、穂先を敵に向ける。

「おやおや……どうしてここが?」

 目の前にいるスーツ姿の男は、緊張も緊縛もない軽薄な態度で問いかける。

 しかし、その挑発とも取れる態度を意に介する様子もなく、暁理は抑揚のない声で答える。

「お前らが分かりやすいからな」

 そうして、彼は思い出す。

 ほんの少し前の、彼等の動向を。


 ――――――――――


「暁理、工場から『デザイア』の反応はまだあるか?」

 ふと、戒刃が腕を組みながら、真っ直ぐな目で問いかける。

 その近くでは、シロアが槍華の怪我の様子をチェックしていた。シロアは槍華の正面に座り、腕や顔に触れて、傷や痛みの具合を確認している。……ちょっと照れてんじゃねぇぞ槍華。

「ちょっと待ってね」

 そんなことはどうでもいい。『デザイア』を見つけないと。

 俺は目を瞑り、『デザイア』の反応を探る。

 夏の太陽は皮膚をやすりで擦るように刺激し、木々の葉擦れと河のせせらぎが鼓膜を撫でるように通り抜けていく。

 そんな世界で、俺は夜空に鈍く輝く星を見つけるように『デザイア』を探す。

 工場にはもういない。ということは遠くにあるのか? もう少し、もう少し遠くを感じろ。

「……あった」

 数秒後、俺はかなり遠くに、タールのようなドス黒い異物を感じる。それは、紛れもなく『デザイア』の反応だった。

「工場にはない。反応自体はあるけど結構遠い。さっきのコンビニ辺りだと思うけど」

「なるほどな。やっぱり、四肢は『デザイア』で瞬間移動したのか?」

「かもね。でも、なんであっち方面に?」

「知るか」

「なー、それってどの辺なの?」

 ふと、槍華がからっと問いかけてくる。

 さっきまでの復讐に駆られた様子や自暴自棄な様子はなく、昨日ラーメン屋であった時と同じ、あっけらかんとした雰囲気だ。

 俺はそんな槍華に胸を撫で下ろし、応える。

「朝に会ったコンビニらへん」

「へー遠いな」

「あの辺って何があんの?」

「マックとか吉野家とかあるけど」

「チェーン店は聞いてねぇよ」

「あと俺の高校はあるぞ!」

「興味ねぇよ」

 戒刃は苛立ちを隠さず言い捨てる。

「……うーん」

 そんな戒刃と槍華を横目に、俺は顎に手を当て、なんとなくで思考を回転させる。

 しかし、どうして『デザイア』はそんな人が多い所に行ったのだろうか。

 あの辺にあるのはマックと吉野家と槍華が通う高校。特にめぼしいものはないだろ。まあ、さっきの廃工場もいい場所ではないだろう。

 つまり、重要なのは場所ではなく、それ以外?

 何を?

「……あれ」

 そんな時、ある可能性がよぎってしまう。

「……月葉さんと槍華って同じ高校?」

 俺は槍華に恐る恐る問いかけると、槍華はからっと笑いながら平然と答える。

「うん。そうだぞ」

「今日、月葉さんって学校行ってるよね?」

「あー多分、夏季補習だな。つーかなんで知ってんの?」

「………………やばいかも」

 俺は朝の出来事を思い出す。

 『デザイア』を持っていたのは長髪男。その長髪男は月葉さんを尾行、つまりストーカーをしていた。

 俺達はそいつの反応がある廃工場に行って、さっきのいざこざが起きた。

 そして現在、『デザイア』の反応は月葉さんがいる高校の近くにある。そこに長髪男がいる可能性が高い。

 推測の域を出ない、妄想に近い結論。けれど、だからといって看過できない結論。

 俺は三人に向けて、自分の結論を放つ。

「『デザイア』の狙い、月葉さんかも……」

「……」

 沈黙。

 重い沈黙。

 そりゃそうだ。あまりにも過程と結論が結びついてない。

「……月葉が?」

 一番初めに口を開いたのは、槍華だった。

「う、うん。その可能性があるってだけですけど……」

「なぜ敬語」

 戒刃が呆れたように言い放ち、続ける。

「どうしてそう思った」

「あー……『デザイア』の反応がする男さ、月葉さんストーカーしてたじゃん? それで───」

「───まって、それって八木?」

 槍華が俺の言葉を遮る。

 そこにはさっきのような余裕や気楽さはなく、硬い表情で額には汗が垂れている。

「やぎ?」

「髪が長くて……同い年の男?」

「あーまさにそれ」

「……やばい」

 槍華の顔は先程の硬い表情から、切羽詰まった顔にアップデートされる。

「なんかあったのか?」

 戒刃がそう問いかけると、槍華が焦りを隠す事なく言葉を羅列する。

「二ヶ月ぐらい前に、八木が月葉にストーカーして警察沙汰になったんだよ。家から学校、俺たちと遊んでる所も盗撮してて、最終的には月葉の下着を盗もうとしたんだよ」

「きしょすぎるだろ」

 反射的に嫌悪が口から零れる。

 人伝でも顔見知りのこういう話聞きたくないんだけど。

 槍華は不安げに言葉を並べ続ける。

「それから八木は自宅謹慎で、解除されても学校には来なかった……そいつの顔を俺は見てないけど、もしそいつが八木だったら……」

「……」

 槍華の話を聞いた俺達は、顔を合わせずとも、目を合わせずとも総意は決まっていた。

 その代表として、俺は思いっきり叫んだ。

「やばいじゃん!!!!」


 ――――――――――――――

 

 そして、今に至る。

 最初は『レッド・デザイア』で飛んで行こうとしたら、戒刃から「秘匿対象だからやめろ!」と止められた。それで、俺達は福岡に来た時の扉でのワープを使おうとしたが、そんな便利なものではないらしく、登録した扉にしかワープできない。つまり月葉さんがいる高校にはワープできないのだ。

 痺れを切らした俺は、戒刃を無理矢理丸め込み、『レッド・デザイア』を使って三人を抱えながら空を飛んだ。

 なるべく雲の上を飛んで、高校についたら急降下という形なら、撮影とかされないだろうという魂胆である。

 人に見られたかや撮影されたかどうかは分からないが、戒刃が「これ後でめっちゃ怒られるやつ……」と頭を抱えていたが、怒られるだけで一人救えるならめっちゃお得だろ。

「秘匿の結界……サテライトは高級品を豪快に使われますね」

 四肢はスーツのネクタイを直しながら嫌味ったらしく、ニヤニヤと言い放つ。その隣には、顔を掴んで蹲る長髪男がいる。恐らくというか、間違いなく『デザイア』を持ってる男、八木だろう。

「お前らみたいな蛆虫以下のせいで使ってんだよ」

 戒刃は怒りを隠すことなく、四肢に悪態をつく。

「ふふふ……槍華様、数時間ぶりですね」

 しかし、四肢は戒刃の言葉を無視し、今度は槍華に向かって挑発をするように言い放つ。

「ああ」

 しかし、槍華はその挑発を無いもののように扱う。冷静で冷淡な対応。

「騙された気分はどうでした? 貴方がもう少し賢ければ、風雅様も飛鳥様も死ぬ事はなかったでしょうに」

「……飛鳥……? あーちゃん?」

 背後にいる、結界に守られている月葉さんが声を震わせながら零す。

 飛鳥さんの記憶処理は追いついていない。つまり、月葉さんは飛鳥さんを覚えている。その事実はナイフや銃弾よりも彼女を傷つける事実だろう。

「槍華様、ぜひ教えてください。貴方は今、どんな気持ちなのですか?」

 俺は四肢の言葉に反射的に拳を握ると、隣の槍華は対照的にため息をつき、落ち着いた様子でゆっくりと口を開く。

「……最悪だよ」

 槍華は戒刃とは違い、怒りを露わにする事はなく、冷え切った目つきで四肢に吐き捨てる。

 しかし、四肢は槍華の目線を意に介さず、挑発を続ける。

「風雅様を殺したのは暁理様の『デザイア』だと言うと、あなたはあっさり信じましたよね?」

「……ああ。全部お前の言う通りだったからな。風雅のマンションが半壊してて、風雅が死んでいた事も。風雅の事を誰も覚えてないことも。まんまと騙されたよ」

「……マンションが半壊してたの見たの?」

「うん。四肢に連れていかれた」

 俺の問いに槍華があっさりと答えると、戒刃は少しだけ動揺の色を過らせながら重ねて問いかける。

「待て、結界内に入ったのか? 断絶結界が張られていたはずだろ、どうやって?」

 断絶結界についてはよく分からないが、他者を侵入させないものらしい。その中に、槍華と四肢が入ったのか?

「企業機密です」

 四肢は俺達を煽るように人差し指を唇の前に立て、ウインクをする。そして、四肢は胸に手を当て語り始める。

「私はね、欲望が人間の全てだと思っているのです」

 まるで演劇の一幕のように、彼は自分の美学を、哲学を語る。

「欲望は人間を美麗にすることもあれば、醜悪にすることもある。欲望に溺れるのは悪いことと語る者もいますが、それこそ愚の骨頂。欲望に溺れないことは死んでることと同じ」

 そして四肢は踊るように、槍華に向けて手のひらを向ける。

「槍華様、貴方は欲望に溺れた。復讐という純粋な愛による欲望に溺れた。けれど、がっかりです。欲望を具現化させてあげたのに、あなたの欲望は弱すぎる。出来損ないの『レッド・デザイア』すら倒せない程に弱い」

 声のトーンが落ちる。

「欲望はその人の強さ。ですが貴方は弱い。つまり、貴方の復讐は命を賭ける程の欲望ではなかった。なんて矮小な存在なのでしょう。死んでるのと同義です」

 冬に晒された鉄のような、痛く冷たい言葉が放たれる。

「貴方は、つまらない」

 その言葉には、槍華の存在を否定する、侮辱や侮蔑が込められていたような気がした。

「……槍華さん」

 背後から、シロアの消え入りそうな声が聞こえる。

 俺は反射的なのか、本能的なのか判断がつかない意志で、隣の彼に顔を向ける。なにか声をかけてあげるべき。でも、何を言えばいいのかわからない。出来損ないの俺は、言葉を見つけられないまま、彼に顔を向けてしまった。

 しかし、それは杞憂だった。

「……そうだな」

 隣には、怒りも悲しみも浮かべる事なく、ただ目の前の現実を見つめている槍華がいた。

「……確かに、俺には大した欲望とかないんだろうな。美味い飯が食えて、バスケとかゲームで遊んで、布団の中で寝る。忙しい日があって暇な日がある。そしてそこに、あいつらがいる。それだけでよかった」

 槍華は語る。

 アルバムを捲るように、思い出を撫でるように語る。

「お前の言う通り、つまらない人間だ」

 槍華は腰に手を当て、小さく微笑んだ。

「でもな、そんなつまらない俺にとって、つまらない日々が幸せだったんだ」

 そして、彼は告げると。

「俺はつまらない日々を取り戻すために、あいつらを取り戻すために、お前を討つ」

 槍華は真っ直ぐな目で、確かな意志と信念を込めて言い放つ。そこには、復讐に飲み込まれた槍華も、自暴自棄になった槍華も、中途半端な槍華もいない。

 信じるものを見つけた、誇りを持った強さを抱く人間が、そこにいた。

 それがなぜか無性に嬉しくて、俺は口元が緩んでいたのかもしれない。

「槍華」

 無意識に、そう呟いてしまった。

 すると、槍華は俺の顔を見て、春風のように爽やかに微笑んだ。

「おやおや……随分と勇ましい」

 四肢は先ほどとは反対に、つまらなさそうに言葉を放つ。

「ですが、中途半端で曖昧な欲望ですね。そんな欲望では、私を討つことなど───」

「───欲望欲望うるせぇよクソ吊り目」

 俺は四肢の言葉を遮る。

 そして、四肢を煽るように言葉を並べる。

「お前は槍華を騙して、俺を殺そうとした。けど、失敗した。それだけだろ? 作戦失敗したのはお前じゃねぇか。その責任を槍華に押し付けて罵倒するのダサすぎるぞ」

「ふふ……ですが」

「あとスーツ似合ってねぇぞ」

「……」

 一瞬の沈黙。そして、

「……関係ないでしょう」

 四肢は冷え切った笑顔でそう呟く。その声は微かに震えており、青筋も浮かんでいる。

「おいスーツ煽り効いてるぞ」

 戒刃が肘で俺の腕をつつく。俺はそれに共鳴して叫ぶ。

「スーツ似合ってねぇぞ!! コンサルイメージしてピッチリキメてきたんだろうけどクッッッソ似合ってねぇぞ!! 起業目指してる意識高い系大学三年生か!? 背伸びすんな!! それがお前の欲望か!? つまんねぇ欲望だな!!」

「殺すッ!!」

 怒髪天の叫びを放つ四肢の背後から黒い肉塊が顕現する。

 先程の廃工場で見せた肉塊と同様のものであり、廊下を全て埋め尽くしてしまう程の質量。あれが押し寄せてきたら、蚊のように潰されてしまうだろう。

「キレすぎだろ!?」

「あーお前のせいだ」

 戒刃が他人事のように呟く。

「お前も共犯だろ!!」

「あはは!!」

 槍華は明るく、爽やかに笑う。

 こんな時でも笑えるの大物だな。

「貴方も闘いなさい!!」

 四肢が隣で蹲っていた八木に触れる。

 瞬間、八木の身体が跳ねる。

 そして、

「……つ、きはあああああああ!!!!」

 彼がそう欲望のままに叫ぶと、身体が風に吹かれる幟のようになびき、身体から黒い泥を放出する。

「……あれって」

 俺はその黒い泥を見た瞬間、ある違和感を覚える。

 直感でしかないが、その黒い泥は、俺の黒い鎧、つまり『鎧躯』に似ているような気がする。

「戒刃、あの泥って『デザイア』の『鎧躯』か?」

 俺がそう聞くと、戒刃は間髪入れずに答える。

「その可能性は高いな……つーかあれ、拒絶反応じゃねぇか?」

「そうなの?」

「恐らく……四肢の能力だろうな。拒絶反応で今すぐに死ぬ所を、無理矢理繋ぎ止めてる」

「つまり、八木は無理矢理生かされてるってこと?」

「多分な」

 戒刃がそう呟くと、続けて言葉を放つ。

「来るぞ」

 その言葉と同時に、黒い肉塊と黒い泥が濁流のように押し寄せてくる。

 四肢と八木の『デザイア』の能力。

 廊下を埋め尽くす程の物量により、目の前は一瞬で暗転する。

「なっ……!」

 槍華が息を詰まらせる。

 驚くのも無理はない。単純な質量が桁違いだ。

 だから、俺が動く。

 不相応でも隊長で、出来損ないでも『レッド・デザイア』なんだ。

 俺は両脚に纏った鎧躯から救焔を放出し、逆噴射で一気に前方へ加速する。

 そして、鎧躯によって構築された右手の籠手に救焔を纏わせ、

「ッ……!!」

 拳を振ると同時に、救焔を前方に放出する。

 ───ドウンッ!!

 刹那、赫灼の焔は黒い肉塊と泥を焼き払う。

 校舎の窓は割れ、壁には焔の軌跡が痣のように疾る。

「ぎゃああああ!!」

 八木の醜い叫び声が廊下に響き渡る。

 八木の身体からは微かに黒い泥が溢れ、その顔や手足は赤く爛れている。

「ッ……なんだこれは……!?」

 四肢は上半身の一部が焔で焼かれ、はだけた部分は痛々しい火傷が出来ていた。

「……すっげ」

 背後から、槍華の感嘆が聞こえた気がした。

 けれど、嫌味でもなんでもなく、全然凄くない。

 零奈が『レッド・デザイア』を使っていた時は、もっと高火力だ。

 使う度に実感する。零奈と俺の距離の遠さを。

「なにノスタルジーになってんだ」

 戒刃が俺の頭をこつんと叩く。

「……なってねぇよ」

「そうか。さっきのは悪くない判断だ。でも闇雲に高火力出しすぎるなよ。校舎壊しすぎたら結界も壊れるからな」

「わかってる」

「ならいい」

 戒刃は両手で刀を握ると、淡々と言い放つ。

「好きに動け、合わせる」

 俺は開いた左手と閉じた右手をぶつけながら救焔を噴射させ、告げる。

「いくぞ」

お読みいただきありがとうございます。

毎週投稿なのに執筆が全く進んでいない。そんな中、残業をしているとそこに上司が現れ、何も言ってないのにデスクの隣に来はじめ、

「今夜、2時まで残業な」

そう言った。

あなたならどうする…?最悪だった…

ジョジョの奇妙な冒険 七部 STEEL BALL RUNアニメ放送おめでとう御座います。

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