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サイアク  作者: 駄犬
3/31

1-3 保健室

 時刻は12:47。

「よしっ……」

 俺はカバンから財布を取り出して教室を後にする。

 廊下の右手にある窓の外を眺めると、いつの間にか空は灰色の雲で覆われており、窓には水滴で描かれた線が貼り付いていた。そんな外の光景を眺めながら廊下を歩き、階段を降りて零奈がいる三年生の教室へ向かう。

 昼飯は零奈が弁当を持ってきているか持ってきていないかで、どこで食べるかが変わる。持ってきてたら人気の少ない屋上に続く階段の踊り場で、持ってきてなかったら食堂だ。

 今日は月曜日だから食堂の週替わりメニューは唐揚げ丼か。美味しいけど、気分じゃないなぁ……

 そんな事を考えながら、零奈がいる3-1の教室に辿り着く。既に扉は開いており、少し覗き込めば中の様子はすぐに分かった。

「零奈ー……あれっ?」

 しかし、教室に零奈の姿が見えない。

「あ、暁理くんじゃん」

 声をかけてくれたのは、零奈と同じクラスの茶髪ショートの女子生徒だ。何度もこのクラスに来てるせいで、ちょっとした顔見知りになってしまった。

「あ、ども。零奈どこに行ったか知ってます?」

「あー零奈ちゃん?保健室だよ」

「……え」

 その言葉に一瞬、呼吸を忘れてしまう。

 同時に、過去の零奈がフラッシュバックする。

 道端で倒れた零奈を。熱を出して苦しそうに眠る零奈を。

「さっきの授業中に倒れてねー。保健室行ったんだ。それで───」

 その言葉を聞くよりも早く、俺は駆け出していた。

「えっ!?ちょっ!」

 後ろから女子生徒の声が聞こえるが、無視して保健室へ一目散に走る。

 途中何度も生徒にぶつかりそうになって、一回教員の怒鳴り声も聞こえたが、どうでもいい。

 数秒後、保健室に着いた俺は息切れを整える余裕も無く、スライド式の扉を勢いよく開ける。

「零奈!」

 扉を開けて、最初に存在を主張されたものはエアコンの冷風。その後に消毒液の匂い、そして誰もいない保健室の光景だった。

 俺はすぐに保健室内に入り、辺りを見渡す。しかし、見ての通り保健室内には零奈どころか養護教諭もいない。

「どこだ……?」

 そう小さく零した瞬間。

「暁理……?」

 保健室内にあるカーテンの向こうから声が聴こえる。俺はすぐにそのカーテンを開けると、そこにはベッドで横になっている零奈がいた。

「零奈!!」

「ううっ……声、大きい……」

 零奈は顔を歪ませながら布団を少しだけ深く被る。

「あっごめん!」

 俺は謝罪しながら、零奈の様子を伺う。零奈の顔は朝より少し青ざめており、呼吸も荒かった。

「大丈夫じゃなさそうだな……熱はあった?」

「うん……ちょっとだけ」

「じゃあ寝ろ。ここにいてやるから」

 俺は零奈の側に椅子を置いて座る。

「いつからしんどくなった?」

「四時間目始まってすぐ……」

「そうか……」

 会話が途切れる。

 扉の向こうから生徒の笑い声が、窓の向こうからは雨音が聴こえてくる。

「……お昼食べてきた方がいいんじゃ……」

 ふと、零奈が言葉を発する。

「は?なんでだよ」

「だって……昼休みだよ?私に構わず、お昼ご飯食べてきた方がいいよ」

「いいよ別に。零奈心配だし」

「……」

 少しの沈黙後、再び零奈が口を開く。

「ねぇ……暁理」

 零奈は掠れた声で問いかける。

「なんだ」

「昔もよくこんなことあったよね。私が倒れて、暁理が保健室まで来てくれて、今みたいに側にいてくれた」

「あったな」

「暁理はそのせいで、遊ぶ機会とか、私以外の友達といる時間が少なくなったでしょ……?」

 普段の零奈とは程遠いぐらい、弱気な掠れた声で言葉が紡がれる。

「ごめ───」

「違う」

 反射的に、言葉が出てしまった。

 零奈の謝罪なんて聴きたくなくて、反射的に出てしまった。

「違うから。俺が零奈の心配をしたかっただけ。昔も今も、やりたいことをやってるだけ。気にすんな」

 本心から出た言葉を、そのまま出力する。

「そっか……」

 その言葉を聴いて、零奈は少しだけはにかんだ。それにつられて、俺も小さな笑みが溢れてしまう。改めて、俺は単純な人間だと痛感する。

「げほっ……」

 零奈の咳き込みが、静かな保健室に響き渡る。

「大丈夫か?」

「うん……喉、乾燥してて」

「エアコン効いてるしな。なんか飲み物買ってこようか?」

「レッド◯ルがいい……」

「いま翼いらねぇだろ」

 何故かこいつ、レッドブ◯好きなんだよな……

 俺は仕切りのカーテンを開け、すぐに閉める。

 そして、保健室を後にして、自動販売機へ向かう。


 自動販売機は保健室のすぐ近くにある食堂の前にある。さっさと買って零奈の元へ戻ろうと、早歩きで食堂へ向かおうとした。

 でも、出来なかった。

「えっ」

 保健室の扉を開けた瞬間、違和感に気がつく。

 目の前にある窓の向こう側。

 起きている事実が、ただ口から零れ落ちる。

「暗……」

 外があまりにも暗い。夜のように暗い。

 曇雨天だからじゃ無い。まるで箱の中のようにあまりにも暗かった。

 新しい雨粒が窓につかない。雨音も聞こえない。光も届いていない。

「なんで……」

 独り言を無意識に溢しながら、窓の向こうを凝視する。

 するとその暗さの原因はすぐそこにあった。

 雨も光も降るわけ無かった。

「……は?」

 上空には青空も曇天も無い。あるのはただ一つ。

 空はあまりにも巨大な『人の顔』で覆われていた。

お読みいただきありがとうございます。

お身体にはお気をつけてください。

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