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サイアク  作者: 駄犬
22/31

3-3 男同士、訓練室、5分間。何も起きないはずがなく…

 あの握手の後、俺達はそのまま無機質で真っ白な廊下を歩いている。病院の中というよりは、SFアニメの戦艦の中みたいだ。そんな非現実に、歩き方が少したどたどしくなる。一方で、右斜め前を歩く戒刃は、一定のリズム且つ歩幅で慣れたように廊下を進む。

 しかし、ここまで会話が一切ない。

 き……気まずい……

「その……これから何をするんですか?」

 俺は沈黙を少しでも和ませる為に質問をすると、戒刃は後ろを振り返る事なく答える。

「実験だ」

「じ、実験?」

「あぁ」

 戒刃はそれ以上は何も言わず、淡々と足を動かす。

 なんというか……彼の言葉に棘はない。しかし、確かな威圧感がある。ちょっと怖い。

 あと実験って何するの?解剖とかされたら嫌……というか無理。

「……というか、お前17歳だろ」

 ふと、戒刃が質問を投げかけてくる。

「あ、はい……17歳です」

「同じ歳だ。敬語は使わなくていい」

 戒刃は淡々と言い放つと、再び無言に戻る。

 なんとなくだけど、今の会話は戒刃なりの気遣いなんだろう。

「……ありがとう」

 戒刃は何も言わず、廊下を歩き続ける。それに追従して1分も経たない時だった。戒刃の足が止まったのは。

「ここだ」

 そこには、無機質だが10m以上の高さの扉があった。

「デカッ……」

 戒刃が扉の横にある小さな液晶に触れると、10m以上の高さの扉は音を殆ど鳴らさずに開く。

 そこは、何もない白い部屋だった。

「……ここは?」

「訓練室だ」

「ここで実験を?」

「ああ」

 戒刃はそれ以上は何も言わず、黙々と部屋の中に入っていく。

 俺も戒刃について行くように部屋に入ると、戒刃が素早く上半身をこちらへ向き、指を刺しながら言い放つ。

「そこで止まれ」

「は、はい」

 俺は威圧感に呑まれ、足が固まる。

 戒刃は俺の足が止まった事を確認すると、顔を正面に戻して何歩か進む。そして立ち止まると、今度は全身をこちらへと向けてくる。

「始めるか」

 戒刃はそう言いながら、帯刀していた刀の二本のうち、一本を抜く。

「えっちょっ!?」

 唐突な戦闘開始に戸惑いを隠せない。

「なんだ?何がいけない?」

「いやっ!?急に殺し合いとかしたくないんですけど!?」

「殺し合いなんて誰が言った?」

 戒刃は『こいつ頭おかしいんじゃないか?』という顔をこちらに向ける。

 確かに、殺し合いなんて誰も言ってない……

「ご、ごめん……」

 戒刃は呆れたようにため息を吐くと、淡々と話を続ける。

「これからお前には、俺と勝負してもらう」

「しょ、勝負ですか?」

「ああ。ただし、お前は『デザイア』を使用しろ」

「『デザイア』を?」

 戒刃は小さく頷き、話を続ける。

「お前は『デザイア』を使用して、俺と戦う」

「戦う……」

「お前の勝利条件は『刀を折る事』だ。そして、俺の勝利条件は『刀を折られない事』」

 戒刃は淡々と、感情のようなものを殆ど見せずに話を続ける。でも、これって……

「……実験なの?」

「実験だ」

 戒刃は刀をこちらに向ける。

「お前の戦闘力と『デザイア』の性能実験だ」

「いや……俺そんな強くないぞ?一般人だし……」

「317人殺しただろ。そんな白々しい反応するな」

「ゔっ……」

 その事実を突きつけられると弱い。

「俺はただ『デザイア』の力を確かめたい。それだけだ」

 戒刃は深く息を吐くと、刀を強く握り直す。

「始めるぞ、制限時間は5分」

 その動作に不備や欠陥はなく、ただただ美しかった。

「開始───」


 瞬間、戒刃の刀が眼前に迫っていた。


「───は?」

 現実を理解するよりも先に、俺の顔面に刀が振り下ろされた。

 ───ガンッ!!!

「いっ……たあああああ!!!!!」

 細い鉄骨を振り下ろされたような衝撃と、爆弾が弾けたような激痛が身体中を貫く。

 俺はその激痛と衝撃に耐え切れず膝から崩れ落ち、その場でのたうち回る。

「痛い!!クソ痛いんですけど!?」

「うるさっ……」

 戒刃の呆れた声が聞こえる。お前のせいだぞ。

 てか、めっちゃ剣速が速い!あの建物にいた二刀流の男よりも全然速い!

 数秒間、もだえながらそんな事を考えていると、ふとあることに気がつく。

 俺の顔面には血が一滴も垂れていない。普通、刀に斬られたら血が出る……というか、顔面に刀喰らったら普通死んでるよな。

「なんで切れてないの!?」

「そりゃ……これ逆刃刀だから。真剣はこっちだ」

 戒刃は呆れたような顔で、鞘に収まっているもう片方の刀を指差す。

 というか……逆刃刀!?あの!?

「逆刃刀って……某人斬り抜刀斎かよ!?」

「誰?」

 実物の逆刃刀に興奮するが、戒刃はきょとんとした顔をする。どうやら、あの大ヒット漫画を履修していないらしい。

「えっと……まあそれはいいや。なんで真剣じゃないの?」

「いや、真剣でお前死んだらどうするんだよ」

 ……ごもっとも。いくら『デザイア』があるからといって、戦闘素人なのは変わりない。

「それよりも……お前」

 戒刃は若干の苛つきを隠す事なく言い放つ。

「なんで『デザイア』を使わない?」

 それは真っ当な疑問だろう。『デザイア』の実験で『デザイア』を使わないとか、意味不明だ。しかし、使わないのには理由がある。

「えっと……使い方が分かんなくて……」

 そう。使い方が分からないのだ。

 テレビの電源ボタンがどこにあるのか分からないように、ゲーム機の起動ボタンがどこにあるか分からないように、『デザイア』の起動の仕方が分からないのだ。

 そういえば、なんであの時使えたんだろ。

「……」

 戒刃は何も言わない。しかし、今までにない威圧を感じる。怒りや呆れのような物をこちらにぶつける。

「あの……その……」

 そう小さく零すと、戒刃は大きなため息を吐いてから言い放つ。

 

「こんな奴のせいで、零奈は死んだのか」

 

「───」

 戒刃は俺を見下ろしながら、凍えるような声で吐き出す。

「零奈は優秀だった。俺よりも何倍も優秀だった。あいつは将来、間違いなく多くの人間を、多くの世界を救う人間になれた筈だ」

 戒刃は俺の眼を見ながら、冷たい声ではっきりと告げる。

「それをお前は殺したんだ。お前のせいでな」


「……そうだな」

 そうだ。その言葉には、一切の間違いはない。

 俺が弱かったから、俺が無知だったから零奈は死んだ。

 俺のせいだ。戒刃の言っていることは、何一つとして間違いはない。

「その通りだ」

 怒りなんてない。全部戒刃が正しい。

 俺は戒刃の言葉に賛同する。

「……反論はないのか?」

 しかし、戒刃は深い疑念を宿した顔をこちらに向ける。

 いや……そう言われましても……

「だって嘘でしょ?その言葉」

「……」

「本心から俺に向けた言葉じゃないでしょ?」

 分かっていた。

 戒刃の言っている事は全部正しい。

 けれど、その言葉が本心から出たものではない事を。

 戒刃は怒ってる。

 ()()()()()()()

 それが何かは知らないが、嬉しくはない。

 俺に怒ってくれた方が、よっぽど楽だったのに。

 俺に怒ってくれた方が、よっぽど幸せだったのに。

「俺に発破かける為に、わざと煽ったんでしょ?」

 戒刃は驚きを隠すことなくこちらに疑問を投げかける。

「……分かるのか?」

「うん。本気で人に悪意を向ける人の顔は、そんな真剣じゃないよ」

 そう。悪意を持って人を傷つける言葉を吐く奴は、そんな真っ直ぐな眼をしてない。

 俺の両親や兄、教員や同級生。いろんな人の悪意を言葉や態度で受けてきた。でも、戒刃の言葉は違う。

 俺はゆっくりと立ち上がりながら、戒刃に言い放つ。

「良い奴だな、あんた」

 その言葉を聞いた戒刃は、面食らったような顔でこちらを凝視していた。

「……」

 でも、これじゃダメだ。

 俺は『デザイア』を使えるようにならないといけない。

 俺は無意識に、あの時の事を思い出す。

 あの時と今の違いはただ一つ。()()がない。

「……はぁ」

 結論は出た。

 戒刃は善良な人間だ。

 やりたくないってのは甘えだと分かっていても、やっぱりやりたくはない。

 でも、『デザイア』を起動させる為にやるしかない。

「逆刃刀じゃなく、真剣で来い」

 俺は戒刃にそう告げると、ゆっくりと瞼を閉じた。

 身体の奥から、懐かしい感覚が湧き上がってくる。

 あの時、飽きるほど湧き上がった感情を、無理矢理生み出す。

「殺してやるから」

 瞼を開く。

 右手で前髪をかき上げる。

 眼の前にいるのは善良な人間ではなく、殺すべき人間だと自己洗脳する。

 その瞬間、『赫い焔』と『黒い鎧』が四肢に纏われる。

「……いくぞ」

 『デザイア』の起動方法。

 それは、眼の前の生命を殺すという意思、『殺意』だった。

お読みいただきありがとうございます。

バチグソ風邪ひきました。皆さまは体調に気をつけてください。

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