9話 心配なこと
怖いこと、不安のことは沢山あるけど、それでも気持ちは変わらない、何より……テーティスさんが手伝うと言ってくれてる。絶対に冒険者になるんだ。
「ぼ、冒険者に……なりたい、です」
「よし、それでは冒険者になるにあたって、まず目指すのは学園に入ることですね」
「は、はい……」
「今から目指すとなるとユウさんにはとても、本当にとっても頑張ってもらうことになりますね。ネヴァンエーレ学園の入学試験まで後四ヶ月しかありません。ギリギリの勝負になると思います」
四ヶ月……その間に学園に入るための力をつけるんだ。手をギュッと固める。
「ど、どんなことでも、し、します」
「では早速……あ!」
何かに気づいたようにテーティスさんが声を上げた。
「ど、どうしたんですか?」
「大事なことを確認し忘れてました。ユウさんが冒険者になることと学園に入ること、家族の方にまだ伝えてませんでしたね。学園に入った人は全員、卒業まで寮で暮らします。冒険者に自分の子供がなることを嫌がる親もいます。ユウさんの家族はそこらへんのことは大丈夫ですか?」
確かに、テーティスさん言った通りまだ伝えてない。でも……駄目と言われることはないと思う。むしろ喜ぶ気がする。15歳になって、今通っている学校から卒業したら叔母の家から出て行く約束だった。前々から早くこの家から消えてほしいとも言われてた。だからいなくなっても大丈夫だ。
それに丁度良かったのかもしれない、叔母との約束までそろそろだった、家から出て行っても行く当てもなかったから。あっ……学園に入って寮で暮らすにも、そこで訓練するのにもお金がかかる、どこか働ける場所探さなきゃ……
「ぼ、冒険者になることは……問題ないと思います。だ、だけど学園に入ることが……お、お金ってどれくらい……かかり、ますか?」
「お金のことでしたら心配ないですね。学園の生徒が魔物との戦闘で得た魔石や素材を学園が貰うことによってお金の代わりとしていますから」
「な、なら……どっちも、問題ないです……」
「分かりました。では改めまして……ユウさんに早速頑張ってもらいます。凄く大変ですから覚悟してくださいね」
「が、頑張ります!」
これからどんなことをするのかと緊張していると、テーティスさんが店員さんを呼び、ご飯を注文し始めた。まったく予想してなかったことに戸惑いながらもテーティスさんが頼み終わるのを待った。
頼み終わったのか店員さんが戻っていく。
「テ、テーティスさん……? こ、これは?」
「ふふふ、ごめんね。少しいたずらしたくなって」
「じゃ、じゃあ……さっきの店員さん、との会話は……?」
「ご飯は本当に頼みました。ユウさんにしっかりと食べてもらおうと思いまして。ユウさん、普段からどれくらい食べてますか?」
叔母からパンを毎日一個貰えて、それを食べてるからそれかな。
「パ、パンを一個……食べてます」
「パン一個だけですか……他には?」
叔母の家に引き取られてからはほぼパンだけだ。結構硬くて噛むのが大変だけど、お腹に溜まるから好きな食べ物だ。
「パ、パンだけです」
「……今のユウさんの体と食事では冒険者になれないです」
「パ、パンって……体に悪いん、ですか?」
「パンが体に悪いわけではないです。ただ、パン一個だけでは栄養が足りませんね」
「そ、そうだったん、ですか……」
「ご飯はユウさんが用意してるんですか?」
「い、いえ、叔母が用意してくれて……それを貰ってます……」
「なるほど……これからは私が用意したご飯を食べてもらいます。いいですね」
「は、はい……で、でも……」
「お金のことだったりは気にしないで下さいね。これも冒険者になるために必要なことですから、手伝うに入ります」
テーティスさんは笑顔でそう言ってくれる。でも……流石にもらいすぎてる……だから……
「い、今は無理だけど……わ、私が冒険者になった時に……返さして下さい……」
私の言葉が意外だったのか、テーティスさんの顔がちょっと驚いてるように見えた。
「返そうなんて思わないで下さいって……言ってくれたけど、わ、私……もらいすぎになっちゃいます……」
今の私じゃ何も返すことは出来ないけど、冒険者になったらこんな私でも何かは返すことが出来るはず。
「ま、まだ何を返すとか……具体的なことはなにも、決まってないん、ですけど……も、勿論、テーティスさんが良かったら……です」
どうしようか考えているのか、テーティスさんが迷っている。こ、困らせちゃったかな……
「では、お願いします。どんなお返しかとっても楽しみにしてますね」
よ、良かったぁ。けど、テーティスさんが喜ぶものってなんだろう?
「うっ……は、はい……期待しといて下さい……」
悩んでいる私の姿が面白かったのかテーティスさんが口元に手を添え笑っている。
お返しをする時の参考にするために、ご飯が来るまでテーティスさんが好きなものなどを聞くことにした。
少したった後、店員さんがご飯を持って来てくれた。お肉と色々な野菜がごろごろと入ってるスープとパンがきた。凄くいい匂いがする。テーティスさんも同じものだ。
本当にこんな美味しそうなのを食べてもいいのかと不安に思ってしまう。
「ユウさん……もしかして苦手でしたか?」
私がなかなか食べれずにいるのを見たテーティスさんが聞いてきた。
「そ、そういう訳、じゃなくて……ただ、本当に……食べても、いいのかと思って……」
「食べてもいいんですよ、ユウさんに食べてもらいたくて頼んだんですから」
「……ありがとう、ごさいます……」
テーティスさんといるとすぐ泣いてしまいそうになるけど、私が涙を出しているのを見たらきっと心配する。涙を堪えながらテーティスさんが頼んでくれたご飯を食べ始めた。
一口目は緊張したけど、それ以降はとても美味しくて黙々と食べた。
「ふぅ……お、美味しかったです……凄く……」
「ふふ、良かったです。では、お店から出ましょうか」
テーティスさんとお店から出た。
今日は後なにするんだろう? まだ大変なことはしてないけど……
「テ、テーティスさん……き、今日って後なに、するんですか……?」
「そうですね、今日はこれで終わりです。明日までにユウさんの特訓の内容を考えてきます」
「わ、分かり、ました……」
「明日この宿屋に来れますか?」
テーティスさんが心配そうに聞いてくれた。多分、ここまでの道のりを私が分かるかどうかが心配なんだと思う。けど大丈夫だ、この宿屋に来る途中の近くに私がよく本を借りに来てる図書館があった。叔母の家からは距離があるけど、図書館からは真っすぐだったからこの宿屋に来れるはすだ。
「は、はい……」
「時間は……どうしましょうか?」
明日からまた学校に戻るから、お昼以降……
「ゆ、夕方……15時、から……行けます……」
「分かりました、では、また明日ですね。ユウさんと一緒にいれて楽しかったです」
穏やかな笑顔でそう伝えてくれたテーティスさんを見て、とても嬉しい気持ちになった。
「わ、私もた……楽しかった、です……」
そう伝えて寂しく思いながらも帰路に着いた。テーティスさんはしばらく手を振ってくれていた。
テーティスさん、珍しい食べ物が好きって言ってたけど、珍しい……珍しい……あんまりピンとこない。今度そういう本があったら読んでみよう。
帰っている道すがら、ご飯が来る前に聞いたテーティスさんの好きなもののことを考えながら帰った。




