表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/15

10.潜入

「うん、あれだ。」


陽斗が目をつけたのは、城門近くで荷車を押している一人の商人だった。荷車には割れた茶碗や干からびたパン、正体不明の壺などが雑然と積まれている。


「ちょっと待って……あれをどうするつもり?」

王女が不安げな顔で陽斗を見つめる。


「あの荷車の中に隠れれば、簡単に街に入れるだろう」



「簡単って……。そもそも、あれ怪しすぎない?」


「怪しいからこそ、誰も中に隠れてるなんて思わないはずだ」


「それ、根拠ないでしょ……。」

王女は頭を抱えたが、陽斗は気にせず商人に向かって歩き出した。



「ちょっといいか?」

陽斗が話しかけると、商人は目を細め、警戒心たっぷりに振り向いた。


「なんだよ、急に」


「いろいろ商品を持ってるみたいだが、本当に売れるのか?」


商人はむっとした顔をして鼻を鳴らした。

「売れるに決まってんだろ。こんなガラクタでも買う奴はいるんだよ」


「そうなのか」

陽斗が適当に相槌を打つと、商人は少し得意げに頷いた。


「まあな。今の時代、物の価値なんて曖昧だからよ」


「なるほどな。それなら――」

陽斗は急に真面目な顔をして、話の本題に切り込んだ。

「俺たちを荷車の中に隠して、街まで運んでくれ」


「……はあ?」

商人は完全に呆れた顔をした。


「勇者だ。協力してくれ」


「いやいやいや! ふざけんな! なんで俺がそんな危ないことしなきゃならねえんだよ!」



「待って!」

王女が慌てて間に割って入る。


「ねえあなた、私の顔に見覚えない?」


「ん? ……おいおい、もしかして――」

商人の目が驚きで見開かれる。


「そう、王女よ」

王女は毅然とした声で答える。


「っ! なんで王女様がこんなとこに?」


「理由はいいの。それより――協力してくれたら、あなたに店を構える土地を与えるわ。商売するならちゃんとした場所が必要でしょう?」


商人は少し考え込む。

「そりゃ悪くない話だが、魔王軍が支配してるじゃねえか」


「だから、これから魔王軍を倒して、この国を取り戻すの」

王女の声には力強さがあった。


「おいおい、本気かよ……。」


「それに!」

王女は追い打ちをかけるように、指を一本立てて言った。

「魔王軍を倒したら、城にある宝石も分けてあげるわ。」


商人の目が輝き始めた。

「宝石だと?」


「ええ、キラッキラのやつをね。」


「……よし、わかった! 協力してやる!」

商人は力強く頷いた。


陽斗は満足げに腕を組んだ。


「交渉したのは私だから!」

王女が即座にツッコむ。


陽斗は平然と流し、荷車を指差す。

「乗り込むぞ」


「ちょっと待って……本当にこれに隠れるの?」

王女は荷車に積まれたガラクタを見て顔をしかめる。


陽斗は強引に王女の手を引っ張り、荷車の中に押し込んだ。



荷車がゴトゴトと揺れながら城門へと近づいていく。


「これ……揺れすぎじゃない? お尻が痛いわ」

王女が小声でぼやいた。


「同感だ」



荷車は城門に到着し、止まった。門番の魔族が商人に声をかける。


「止まれ! 中身を見せろ!」


「あいよ、こんなもんだ。」

商人は荷車の上の割れた茶碗や干からびたパンを見せた。


魔族の兵士はそれをちらりと見て、鼻を鳴らした。

「くだらないガラクタばっかりだな」


「商売ってのはな、こういうもんなんだよ」

商人が軽く肩をすくめると、門番は手を振って通行を許可した。


荷車が再び動き出すと、陽斗が小声で囁いた。

「簡単に入れたな」


「……まあ、結果的にはね。」

王女は深いため息をつきながらも、安堵の表情を浮かべた。

お読み頂きありがとうございます!

評価・ブクマ大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ