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女子高生の志望理由

 ログアウトすると、冬牙はすぐにヘッドセットを外した。



「あぁー!ムカつく!なんで馬鹿にされなきゃなんねぇんだよ!あの鉤爪野郎が!ただじゃおかねぇからな!」



 行き場のない怒りから、冬牙は拳を力一杯握り締め、食いしばった歯がギリギリと鳴った。



 すると、中々出てこないのが心配になったのかスタッフが部屋をノックする音が聞こえた。



「あの、空風様!大丈夫でしょうか!」



 冬牙は乱暴に部屋のドアを開けるとスタッフを睨みつけた。



「全然大丈夫です!」



「しっ、失礼しましたぁっ!」



 冬牙のあまりの剣幕に恐れをなしたスタッフは思わず後ずさった。



「先程はAIの無礼な態度で大変不快な思いをさせてしまい誠に申し訳ありませんでした!!」



 スタッフは深々と冬牙に頭を下げた。



「いいんですよ、俺が怒ってるのはAIじゃなくて鉤爪の男ですから……」



「そちらの方につきましても誠に申し訳ございません!どうか、ユーザー同士の揉め事はお辞めになってください」



「安心してください。一瞬で終わらせますから……」



 冬牙は頭の中で鉤爪の男を地獄へ蹴り落とした。



「ダメです!彼の一生が終わってしまいます!」



「とにかく、現実世界では何もしませんから食事の場所教えて貰っていいです?腹が減っては戦は出来ぬっていいますし」



「やる気満々じゃないですか……」



「何か言いました?」



「い、いえ!お連れ致します!こちらです!」



 食事場所には長テーブルが並べてあり、好きな場所に自由に座るスタイルだった。

 冬牙は配られている弁当を受け取り、壁際の隅の席に座った。



「おやおや、あんな隅っこに座ってるのは無職くんじゃないか?」



 2列離れた場所から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



 鉤爪野郎……。



 冬牙は聞こえてはいたが、聞き流した。



「おい!聞こえてるんだろ!流石に耳も悪いってオチじゃないよな?ギャハハハハ!」



 クソムカつく……!



 言い返そうと立ち上がろうとしたその時



「ちょっといいですか」



 そう話しかけてきたのは女子高生だった。



「おいおい、あいつロリコンかよ……」



 鉤爪野郎はまだイチャモンをつけてきたが、嫉妬しているようにも見えた。



「あのー、聞いてます?」



 もう一度女子高生に話しかけられ、怒りを押し殺した。



「なにか?」



 彼女は全く関係が無いのに無愛想に返事してしまった。



「タイミングが悪かったみたいでごめんなさい。貴方の職業について手伝える事があるかもと思って」



「手伝える事?」



「例えば最強職のモンスターを倒す手伝いとか?」



 なんて優しい子なんだ。

 そりゃそうか、医療系の道を目指しているんだからよっぽど人を助けたい気持ちが強いんだろう。



「本当にそれで倒すことが出来るなら嬉しいんだけども」



 どうしても嫌味ったらしくいってしまう。

 お前、何歳だよ。相手は女子高生なんだぞ!もっと大人な対応しろよ!



 冬牙は自己嫌悪に陥った。



「私の職業はヒーラーだから、Lv1でも生き返らせ続ければいつか倒せると思うんです」



「なるほど!……って、そりゃ無理なんじゃないかな……」



「どうしてですか?」



 どうしてって、やっぱりこの子ゲームに疎いのか。



「MPって分かるか?」



 女子高生は頭を傾げた。



「えっと、マジックポイントっていうんだけど、魔法を使う時はそれを消費して発動する。っていうことは、俺が倒しきる前に恐らくそれが無くなってしまう可能性が高いってことだ」



「あぁ、なるほど。それってもしかしてあの青いゲージのことですか?それなら問題ありませんよ」



「そうだけど……問題ないってのはどうしてだ?」



「だって私達のアバターはHPもMPも∞(無限)って書いてあるじゃないですか!」



 そうだったっけ……?

 って事は、最強職になるのは時間がかかるけど余裕って事じゃん!

 まてよ、そしたら回復要らなくねぇか?

 ……そっか、彼女はMPを知らないくらいだからHPの事も知っているわけないのか。



「HPはヒットポイントっていってそれが無限ってことは、相手から攻撃を受けても死なないって事なんだよ。だからサポートは無くても大丈夫」



「なるほど……そうですか」



 女子高生はすごく残念そうな顔をした。



「あ、えっと、でもありがとな!心配してくれて」



「いえ、心配などはしていません。それなら話は別です。私を手伝ってください」



「ん?なんの話し?」



 え?何?全く心配されてなかったの俺?

 何この子、何がしたいのこの子は。



「食事が終わったら場所を変えて続きを話しますね。そう言えば自己紹介をしてませんでしたね。私は万里乃まりの 紗月さつきと言います。よろしくお願いします」



「俺は空風 冬牙。……よろしく」



「それではまた後で」



 彼女は少し微笑むと去っていった。



 よく分からない奴だな。掴みどころがわからないっていうか。とりあえず、メシ食わないと訳が分からないままだな。



「いただきます」



 冬牙はやっと弁当を食べ始めることが出来た。




 食事を済ませた冬牙は万里乃と人気が少ない場所に移動した。

 そして、万里乃は立ったまま俺の耳元でひそひそと話し始めた。



「休憩時間が残り少ないので手短に話しますが、私がここに来た理由は病気になった妹を助けるためなんです。妹が病気になったのはこの会社で働き始めてから数日経っての事です。医者が何度診察しても原因は不明のまま。だけど、私は大方見当がついています。それを確信に変えるためにここに来たんです。その妹の病気の原因は……」



「きゃぁぁぁあああ!!」



 突然女性の叫び声が響き渡った。



 周りがざわつき始めた。

 冬牙は視線を叫び声がした方に向けると男の人が倒れているのが見えた。激しく痙攣している。

 しかし、すぐに人混みができ、それ以上は確認できなかった。



「冬牙さん!ついてきてください!」



 そう言うと彼女は冬牙の腕をつかみ、その現場に向かって走り出した。



「えぇ!?」



 冬牙は想像以上の力で引っ張られ付いていかざるおえなくなった。



 人混みをかき分け万里乃と冬牙は人混みの前の方まで来た。そして、男の様態が明らかになった。



 男は激しく痙攣しながら、視線はギョロギョロと忙しなくあちらこちらの方向を見ている。口からは泡を吹いていて、異常な長さの舌が力なく垂れていた。



 冬牙は思わず目を背けた。顔や体中からサーっと血の気が引くのがわかった。普段見ている人間からは想像できないほどの異様な動きに恐怖すらも感じていた。



「冬牙さん、私の妹もこの症状がでたの」



「え……」



「恐らくこれはコンピュータウイルスに感染したのよ」








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