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12 外典 メイドHの憂鬱

外典は本編のサイドストーリーとなります。

本編では語られなかった設定や、各キャラクター達のお話となります。


外典は時系列どおりには並んでいません。


本外典「メイドHの憂鬱」は、本編「04 初めてのお嬢様」と同じころのお話です。

 私の名前はエッチ。

 本名じゃないですよ。不本意ながらみんなからエッチと呼ばれています。

 今日は屋敷の皆様についてと、私の不本意な名前についてお話しようと思います。


「よーエッチ、洗濯か? いい天気だな」

 同じメイド仲間のビーンさんです。

 ビーンさんは先輩にあたります。

 栗毛色の癖っ毛のショートカットがチャームポイント。

 少し小柄で可愛いのですが、私のことを気にしてよく声をかけてくれるおねーさんポジションです。


「エッチ、今日は午後から研修がありますのでお忘れなく」

 同じく先輩メイドのエースさんです。

 ビーンさんとは対照的に長身でスレンダー。

 その黒に紫がかった腰まで伸びるストレートヘアと身に着けた眼鏡が出来る女感をさらに高めていて、メイド達の中でも人気は高いのです。


「わかりました。よろしくお願いします」

 お二方の方を向いてぺこりと礼をします。


 研修というのはメイドの研修なのですが、皆様が想像されているような掃除や料理の研修ではありません。

 その研修というのは戦闘訓練なのです。


 なぜ戦闘訓練が必要なのかとお思いでしょうか。

 そうしましたら、まずは私がお仕えしているエヴァード家の使用人についてお話させていただきます。


 エヴァード家は古くから続く大貴族の家系です。

 現在もマフラスの街では一二を争うお金持ちです。


 そのエヴァード家のお屋敷はもちろん貴族街にある大豪邸です。

 ご主人様、奥様、それにお嬢様にお仕えするため、エヴァード家には26人の使用人がいます。


 一番の権限を持つ執事が一人。

 二番目の権限をもつメイド長が一人。

 そして、


「エッチ、いつまで洗濯してるの。早く終わらせてこっちを手伝ってよ」

 とと、あれは同じメイド仲間のエルエルです。

 申し訳ございませんが、先に洗濯を済ませてしまいます。


 ・

 ・

 ・


 洗濯を済ませて、エルエルの手伝いをして、それが終わったらよい時間になったので昼食をすませました。


「それでは戦闘訓練を始めます」

 号令をかけるのはエースさん。


 戦闘訓練は少数で行われます。

 今日は私のほかにエルエルと、他2名の計4名のようです。

 屋敷の仕事に影響が出ないようにローテーションで行っていると聞きました。


 戦闘訓練ですので、メイド服で行うわけではなく訓練服に着替えています。


 私とペアなのはエルエル。

 珍しい桃色の髪の毛をした子です。

 メイド達の髪型の多くは、耳が隠れるくらいのショートカットです。

 エルエルも私も例にたがわずその髪型をしています。

 特に指示されているわけではないのですが、仕事には都合がよいのです。

 でも可愛いんですよ、この髪型。


「今日も前回の続きで初歩の初歩だ。相手の首に手刀を叩き込んで気絶させるぞ。まずは俺とエースで手本を見せるぞ」

 今日の教官はエースさんとビーンさん。


 初歩の初歩と言っていますが、明らかに難易度が高すぎです。


 そうそう、先ほどお話が途中になりましたが、なぜ戦闘訓練があるのかと言いますと、舞踏メイドになるためです。


 お屋敷の使用人は、先ほど話をした執事とメイド長以外では、通常のメイドと舞踏メイドとに分かれています。

 権限では通常のメイドよりも舞踏メイドのほうが上になります。

 舞踏メイドというのは、通常のメイド業務を完ぺきにこなせる上に騎士級の戦闘力を所持していることが求められます。

 ご主人様の護衛や、屋敷に侵入した賊を抹殺するためです。


 現在お屋敷の使用人には9人の舞踏メイドがいます。残りが通常のメイドということになります。

 私、エッチは通常のメイドで、舞踏メイドになるために日夜研鑽しているところなのです。


 とと、舞踏メイドの人数は極秘事項でした。忘れてください、お願いします。

 メイド長に知れたらきついお仕置きが待っていますので……。


 ――がすっ


 何か首の後ろに衝撃が……。


「ああっ、エッチ、なんでぼーっとしてるのよ、まともに入ったじゃない」

 薄れゆく意識の中で、エルエルの声が聞こえました。


 ・

 ・

 ・


「マリー、いつまで寝ているの。立ちなさい」

 どこからか声が聞こえます。


 目を開くと、眼鏡をかけた凛々しいメイドさんの姿が見えます。

 この人は私の前任者のハイビスカスさん。


 ハイビスカスさんがここにいるはずはないので、これは夢です。


「マリー、あなたには私の後を継いでエヴァード家のメイドになってもらいます」

 確かにハイビスカスさんからこう言われて私はメイドになったのです。


 あ、ちなみにマリーというのは私の本当の名前です。


 場面が変わりました。夢なので展開が早いです。


「あなたが新しいメイドですね。エヴァード家のために尽くしてください」

 この方は奥様です。

 本当にお美しい方で、お嬢様をお生みになられたとは思えないプロポーションに、太目の眉と厚い唇がフェロモンをですね……。


 とと、夢の展開が一時停止しています。先に進めましょう。

 今の場面は屋敷に初めて来た時のものです。


「奥様、命名の儀を」

 この方は執事のG様。立派な白いお髭を蓄えた老紳士です。

 先ほどお話したように、使用人の中でも一番の権限を持っています。


「わかりました。さてマリー。あなたがこの家でメイドをする限り、マリーと呼ばれるのはこれが最後です。あなたはハイビスカスのHを引き継ぐことになります」


 この時はいったい何を言われているのかよくわかりませんでした。


「Hを引き継いだあなたの名前は、今から……」


「奥様?」


「ええと、しばらく考えていたのだけど、まだ決まってないのよ。そうね……」


 先ほどもお話しましたとおり、奥様はお美しい方です。

 この時の私は奥様の美しさに見惚れながら、ある一点を凝視していたらしいのです。


「あら、この子ったら、ふふふ。そうね。あなたの名前はエッチよ」


「奥様!?」

 G様が驚かれています。

 後々思い返せばとても珍しい姿です。

 G様はいつも冷静で物静かな方ですから。


「だってね、この子私の胸をじっと見つめているのよ。それでピーンときたの」


 そうでした。この一見で私の名前がエッチになったのです。


 お屋敷で働く使用人26人にはそれぞれアルファベットが割り振られているのです。

 そして退職した使用人の後任として雇われた人は、そのアルファベットを引き継ぐのです。


 そして命名の儀とは、そのアルファベットに基づいたコードネームを使用人に与えることなのです。

 コードネームを与えられた使用人はずっとその名前で呼ばれることになるのです。


 私はHのハイビスカスさんの後任だったので、Hを引き継ぎ、コードネームとして【エッチ】をいただいた……、というわけです。


 後で聞きましたが、命名の儀は特に奥様だけが行うものではないようなのです。

 時にはご主人様、または執事により行われることもあるようです。

 私のときはたまたま奥様だったということで……。


「エッチ、エッチ」


 そう、私の名前はそこからエッチになったのです。


「エッチ、エッチ」


 そんなに何度も呼ばれなくてもわかっています。

 私の名前はエッチです。


「エッチ、エッチ」


 ん? なんか眩しい。


「エッチ! よかった」

 エルエルの姿が見えます。

 どうやら私は夢から覚めたようです。


 先ほどからずっと私の名前を呼んでくれていたようです。


「えるえる。ここは」

「私たちの部屋よ。私の手刀でエッチが気絶してしまって、それでエースさんが部屋まで運んでくれたの。お姫様抱っこでね」

 あぁ、あのエースさんにお姫様抱っこされただなんて。なんで気絶していたの、私のバカバカ。


「それ、見たかった……」

「あはは、残念だったね。それにしてもエッチ、エースさん派だったんだ。私はヴォーグメイド長派かな」


 ヴォーグさんはメイド長です。

 メイド長は舞踏メイドの中から選ばれる、名実共にメイド達の長なのです。

 ヴォーグさんも強くてかっこいいのです。

 メイド長故に規律に厳しく、私を含めて新入りのメイドはよく叱られます。ですが、氷のような笑顔から紡ぎだされるしっ責の虜になるメイド達が後を絶たないようです。

 私は違いますよ。ノーマルです。


「おっと、こうしちゃいられないわ。エッチはもう少し休んでいるといいわ」


「ありがとう、エルエル」

「貸にしとくわ」

 そういってエルエルは部屋を後にしました。


 一般的に下位の使用人に部屋が与えられることはありません。

 ですが、エヴァード家では相部屋ですが部屋を与えていただけます。


「はぁ」

 ため息がでました。

 これほど恵まれた環境でどうしてと、思うでしょうが。ここまでお話ししてきたのでお分かりですよね。


「エッチ、か。なんとか変えてもらえないかな」

 私はこの名前が、非常に不服です。

 身から出た錆びなのですが、不服です。

 ですが、下っ端のメイドである私がそんなことを言うわけにもいきません。


 いつか舞踏メイドに名を連ね、その先のメイド長になったら……。


 ――ほわんほわん


「エッチメイド長」


「ぶぶーっ」

 その名前で呼ばれることを妄想したら噴き出してしまいました。

 これはまずいです。

 威厳のかけらもありません。


「ヘーゼルナッツメイド長」

 あ、これかっこいい。

 かっこいいというかおいしそう。夜ご飯まだかな。


「エッチ、入りますよ」

 ノックの後、そう声が聞こえたきがしました。


「ほえ、」

 妄想から復帰してないので、間抜けた返事をしてしまいました。


 ――がちゃり


 エースさんが入ってきました。

 お見舞いですか?


「ふむ。まだ頭がはっきりしていないようですね」


 突然のことだったので、エースさんのお姿を無言で眺めていました。


「あ、ああ、エースさん。だ、大丈夫です。妄想がですね」


 なに言ってるの私。意味わかんない。


「本調子ではないところ悪いのですが」

どうやら間抜けづらと発言で勘違いされてしまったようです。


「お嬢様が客人を連れてこられます。急いで玄関ホールに来てください」


「わ、わかりました。わざわざありがとうございます」

「いいえ、私の監督が不十分だったことが原因でもありますしね」


 そういうとエースさんは先に玄関ホールに向かいました。


 お見舞いではなかったです。

 お仕事のお話しでした。

 別に残念がってはいませんよ。

 いい仲になんて思ってはいませんよ。


「あっと、こうしちゃいられない」

 急いで玄関ホールに行かなくちゃ。

 お嬢様の客人ってどんな方なんだろうか。

 もしかして恋人?


 そんなことを考えながら歩いていた廊下で、訓練服のままであることに気づいてしまった。

 ばかばか、急いでるのに私のバカ。


 そして急いで着替えて玄関ホールに向かうのであった。


 私の名前はエッチ。

 不本意ながらエッチという名前で呼ばれています。

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