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 「思惑なんて、ないよ…?」


 「嘘…よ…貴方は嘘つきよ」


 「嘘じゃないよ。保障する。絶対だ」


 「いや…そんなの信じられない!そもそもその保障って何ですか…っ!?貴方自体が保障にならない存在じゃないですかっ!それをどうして私達に信じろと…そう申されるのです…?」


 「……」


 「そのようなお顔をなさられても私には貴方様をもう…信ずることは不可能です…無理なのです…すみません」


 「いや…それはいい。信じてもらえなくて当然だ。それだけのことを犯してしまったから…けど、僕は…」


 ひるんだかのように見えた女はしかし、僕の言葉を遮ってキッとこちらを睨みつけながら、勢いに任せて僕を罵った。


 「だからっ!!それが信じられないというのですっ!貴方のようなお方が…貴方のような立場のお方をそう容易く亡くすわけにはいかない桃宮には私達の居場所など…たとえ仮初であったとしてもないのです。そのようなところに身を置いたが最後…私は貴方の知らぬところで消され、この子は殺されてしまう…それがっ!何故お判りにならないのですかっ!?」


 「それ、は…」


 返す言葉がなかった。


 すぐに答えてやれればまだ信じてくれたかもしれないというのに。


 いや、却ってできすぎていて余計信用をなくしていたか――。


 確かに、この人の言う通りかもしれない。


 桃宮の敷地内に身を入れてしまえばたとえ僕が許可しないと禁圧して宣言したとしても、内密に消されてしまうかもしれない。


 それくらい桃宮ならいとも簡単にやりかねない。


 あとは、それを知って激昂する僕をうまくあしらってしまえばいい。


 ご老人達お得意の口車に乗せてしまえば、言いくるめてしまえばいいだけの話だ。


 僕にはまだ全てを把握できるだけの力が備わっていない。


 それは自覚しているし、今回の惨事だってそのせいで起きてしまった。


 いや、起こしてしまったというほうが正しいのか。


 どちらにせよ、絶対にないという可能性は捨てきれない。


 むしろその可能性は比較的高いだろう。


 その点から言えば、この人が言うことも理解できなくはない。


 恐らく言ってることは正論だ。


 彼女の視点から考えればその考えに思い至って当たり前とも言える。


 桃宮の年寄り共にかかれば人の一人や二人…造作もなくいなかったことにもしてしまえるし。


 自分はひどく無力だと思った。


 このときばかり痛感したことはない。


 何が桃宮の当主だ。


 その実態は何もできない名ばかりのお飾りな子供ではないか。


 いいように立てられて背後に控える老人達に都合よく操られる人形。


 僕の立場…地位の力・権力をむさぼりに集まってくるカス共よりももっと…使えない。


 だめな人間。


 だけど、それでも何かを守りたいと思うのはいけないことなのだろうか?


 たとえそれが相手に拒まれるものだとしても。


 自分をひどく嫌がってたとしても。


 単なる押し付けになるのかもしれないけれど。


 それでも自分の責任を、後始末を、罪を背負いたいと――償いたいと思うのはたとえ気休めの偽善だとしても本当の想いだ。


 それを悪いことだとは僕は思わない。


 それすらも否定されても仕方がないことをしてしまったのだということはちゃんと判っている。


 彼女が涙する原因を作った。


 この存在自体がそれへと導いた。


 赦されない罪。


 赦してくれなんて、とてもじゃないけど口が裂けても言えないよ。


 厚かましい願いなんて口にするものではない。


 第一願っても、望んですらいない。


 赦されなくていい。


 それがいい。


 一生忘れないほうがいい。


 忘れらないほうがいい。


 これがこれからの自分への戒めになればいい。


 もう二度と繰り返さないためにも…この罪を忘れてはならない。


 一生をかけても決して償えはしないのだろうけど、だからこそ、一生怨んでてくれればいい。


 たとえそれで彼女が一生泣いて苦しもうが。


 「れん。刀貸して。できれば小振りの――」


 どうか信じてくれなんて、余りにも図々しく無神経だから言わないけれど。


 降ってきた雨が頬を打つ。


 ざぁざぁとものすごい勢いで空より地へたたき落ちてくる雫が彼女の体に付着した、彼女のものでは決してない血を洗い流す。

 

 その腕に抱えられている自分と同い年ほどの子供にもその雨は降りかかる。


 この子供の眼にももう焼きついてしまっているのだろうか。


 この子供の赤い目同様の真っ赤な真っ赤な人の体内を流れる赤い色だらけの光景が。


 ああ。


 嗚呼、嗚呼…ぬれてびしょびしょだ。


 この土地が玖珂の者達の流した血を吸ってゆく。


 すっと無言で差し出された小太刀を受け取って、右手に持つ。


 僕が小太刀を手にしたことでびくっと体を揺らす女。


 嗚呼…この眼は、それでこの身を刺すのか、斬りつけるのかと訴えているようで。


 「…そんなことするわけないよ…」


 僕はにこっと笑って、そして。


 小太刀の刃を鞘から滑らせた。


 どうか僕を信じてついて来て――なんて戯けたことをと僕自身でもそう思ってたりするけれど。


 信じてくれなんて口に出さずに、どうかこれが本気であるということを知ってもらうために、どうか見届けなさい。


 この覚悟を――その眼にしかと焼き付けなさい。


 自らの首に当てた刃は果たして狙い通り僕の首を落としてくれるのか――どうか、認めて。


 嘘でも戯れでもないと言うこの想いを。


 僕さえいなくなれば、もう鬼の呪いなんて関係ないよ。


 彼女もその子供も殺されなくても済むと思うんだよ、僕。


 だから、ねぇ。


 そんな眼をしないで。


 これからは笑って生きて欲しいと願うよ。


 とても酷な事を言っているようだけれどね。


 その裏で全てを憶えている彼女は苦しんで泣くだろうから。


 僕も忘れないよ。


 全てを憶えたまま、償えない罪を背負って、二度と同じ事を繰り返さないために消えたいと思うんだ。

 

長期間放置の上に半端なところですが、これで一旦終わりとさせていただきます、すみません;;


ですが、新しくこの話を作ろうと思ってるので、いつ更新されるかまだ不明ですがよろしくお願いします!


ではでは、ありがとうございました^^

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