13-編成
どうも、作者です。
受験勉強やらなんやらでぜんぜん更新出来ていませんでした。
本編と合わせて更新を再開出来そうなので、宜しければまたお付き合い下さい。
---013---
---編成---
気がつくと俺は特定のガーデナーしか入室を許されない”特異ブリーフィングルーム”に連れてこられていた。
ココに”俺の同僚”が集まっているらしい。
RoAに配属されたメンバーはそれぞれ班で別けられる。
今日に限って、俺を迎えるために班のメンバーが1つの部屋に集まっているとのコトらしい。
そしてそこまでは大将様が直々に俺を案内してくれたのだ。……なんというか、圧巻だ。
昨日までレミアに合わせる顔が無かったが、今なら大きくしたり顔を浮かべてヤツと向き合えそうだ。
普通のブリーフィングルームは真っ白で圧倒的に大きな部屋に、備え付けの簡単な机と椅子、それとプロジェクターとスクリーンがある。
大勢に対して一度で指示、作戦を伝えるのに適した構造であるのだ。学校の体育館程度の広さがあれば、一度の作戦行動に参加する分の”サガ”には説明を一括で行える。
ちなみに、以前の試験時に待合室として扱われていた場所が”そこ”である。
あれでも十分に豪勢な作りだと思っていたのだが、コレを見てしまうと貧相にすら思えて来るな。
「……さて、既に大体のメンバーが集まっている様だな。」
サヴァン大将の言葉に場に居た全員がそれぞれに反応を見せた。
1人はちらりとこちらを見遣り、1人は椅子から立ち上がり敬礼をした。
既に部屋には3人のガーデナーが揃っていた。
特異ブリーフィングルームは通常のそれよりも断然小さい。
といっても、その規模は学校の教室程度の大きさだ。3人しかいないのであれば空間がとんでもなく余る。
……ただ、この部屋は規模の小ささを補って余り得る程に設備がいい。通常よりも断然いい。そして豪勢で圧倒されるような雰囲気に包まれている。
部屋の壁は黒い大理石の様な質感の物質で出来ている。ピカピカに磨かれたそれは薄く黒光りを反射している。
また、この部屋にはプロジェクターもスクリーンも無い。
部屋の中央には黒い球体が設置されているのだが、これが超高性能な映写機の様な存在で、空中に”触れる事が出来る”立体映像を投影する。
作戦の細部をとても具体的に、そして解り易く兵士に伝える事が出来る。また、兵士同士で作戦の概要等について考察、意見して最終調整を行える場所になっている。
なんというか、まさに”最新”とか”ハイテク”とかの言葉が合う。
「大将殿、その子が僕の隊に入隊する最後の1人、ですか?」
3人のうちの1人がこちらに歩み寄って来た。
他の3人のガーデナーだが、彼等は全て”青服”だ。……もしかしなくても。
「そう。彼が第弐部隊最後の1人、ジン・サクヤ。彼の”RoA”としての適性は信頼出来ると言われていてね。」
その言葉を聞いて、改めて認識する。
ここが"RoA"ってやつか。
この部屋に居る他のガーデナーは俺の”同僚”と言う事になるヤツ等だ。
よく観察しておこう……。
「ナルホド。貴方が言うからには、それなりの期待はさせて頂きます。」
目の前でサヴァン大将と会話しているこの優男。
どうやらこの隊のリーダー格らしい。
じっと顔を見ていたら目があった。俺に対して男は優しげに微笑んだ。
どうやら悪いというか、怖い人間ではない様だ。
青いコートの襟に金色のバッジがついている。
それの意味は判らないが、何かのエンブレムの様だ。
同じく部屋に居る青服にも目をやるが、彼等はエンブレムを付けて無い。
特徴を出しているということは、隊長の証か何かなのだろうか。
「珍しいな、ラクラス。君の事だから情報元の提示等を求めて来ると思ったのだが……。」
「お言葉ですが、貴方は無駄が嫌いなお方だ。故に予め提示が無い情報はお尋ねしても後に提示される事は無いと考えましたので。」
「ナルホド、流石に私を良く理解してくれている様だね。だからこそ君の部隊にこの少年を預けられる。サクヤ君の疑問や経験不足を補ってやってくれ。」
……こう言っちゃなんだが、大人同士の長話って退屈だ。
すぐ脇に立った偉そうな大人2人の”偉そーなオーラ”から逃れるべく、俺は部屋の他のガーデナーに目を配った。
やれやれ……。大将なんて大物が隣に立ってるなんて、それだけで相当疲れちまう。
この部屋に入った時点で気がついていたことなのだが、この部屋の他のガーデナー達……。
要するに俺の同僚となるモノ達だろうが、彼等はやけに若かった。
まだまだ少年らしさが抜けぬ幼気な俺と比べたって、年齢的には大差がないと思われる。
これは一体どういうことだ?
”RoA”って一定階級以上のヤツ等が所属してる訳で、だからある程度の経験を積んだ熟練者だからけの職場を思い浮かべていたのだが。
だって、少なくともこの場に居るヤツ等全員”少尉”以上の階級保持者だろ?
それにしちゃ年齢層が低過ぎる。……まあ、俺が言えた事じゃないんだがな。
ともかく俺は、年齢が年齢なだけにココのヤツ等に強い興味を抱いた。
まず、部屋の椅子に腰掛けたままこちらを見遣っていたヤツと目が合った。
……少年、と言っても俺と同年齢くらいか。
黄土色の髪と同じ色に近い澄んだ黄色の瞳を持つ少年は、俺と同じ青服を着ている。
ヤケに清々しい表情を浮かべているアイツは、俺と目線を交わした後、フッと笑みを返して来た。
それに対して殆ど反射的に、俺はヤツに頷き返した。
するとヤツは同じ様に大きく頷き返して来る。
俺は更に首を左右に振ってみる。
するとヤツは同じ様に左右に首をブンブン振った。
……ふと、隣の大人2人の様子を見る。
話しに夢中になっていて、あーだこーだ俺とは関係の無さそうな話しを続けている。
ソレを確認して、俺は右手をバッと上げた。向こうの少年は一瞬首を傾げたが、同じ様に……いや、左右反対になるように左手をバッと掲げた。
右手を素早く下ろすと、向こうもそれと同じ行動をする。
左手を素早く振り上げ、右手も上げる様に……フェイントをかけて後ろ手に回した。
するとヤツはフェイントには引っかからず、左手だけを振り上げ俺にニヤリとニヒルな表情を見せた。
(コイツ、出来る……!?)
「……ジン、何をしているのかな?」
……真隣から声をかけられた。
しまった、流石にバレた……。
恐る恐る隣を見遣ったら、すぐ隣で大将殿がきょとんとした表情で俺を覗き込む様にしているところだった。
「い、いえ、なんでもありませんッ!!!」
背筋をキッと伸ばして俺は早口に述べた。
ヤバいヤバいヤバいヤバい何をやってたんだ俺は!!!
実は何をしてしまったか良くわかってないがヤバい気がする……!
「……ローティンハイン大将、貴方の意向の必要性が分からなくなってきました。」
「正直をいえば、私もだ。……しかし、情報の筋を考えると彼に掛かる期待は大きいのだが……。」
大人達は首を傾げ、それから俺から目を離して議論を再開した。
目を離されたといえ、俺は恐れ多くてピクリとも動けなかった。
助かった? いや、ちょっと待ていろいろと疑問点が……。
”あんなこと(正直どんなことか分かってないが)”やらかしてしまったのに、まだ俺の採用が色濃いのか?
追求が無い以上はそういうことなのだろうが……。更にいえば、”情報の筋”ってなんなんだよ。
そこまで信憑性があるのか? そんな信憑性のある場所、もしくは人物が俺を押した?
何がなんだか判らない。1から10まで分からないことしかない……。そもそも俺の階級自体が解せない。
じっくり考えるには状況が大分”アレ”だし、かといってこの人物を相手に、それも会話をぶった切って追求する気はちゃんちゃら無かった。
クソ、やり辛いな……。
故に俺は、ソレ以降身を硬くして正面を向いていた。
……すると少年ではない方の、先程立上がって敬礼を投げたヤツが俺の視界に入って来た。
気のせいではない。ヤツは視界に入り込んで来た上で俺と目を合わせて来た。
いや、合わせて来たってのは若干言葉が足りないな。
目を細めてこちらをキッと睨んで来たのだ。……何故俺は睨まれた。
”彼女”は俺と先程の少年と同じく俺と同年代辺りと見受けられた。
少女は俺よりも低年齢に見える。服の色はやはり青で、長く伸ばした金髪は肩に掛かる程で、素直に真っ直ぐ伸ばしている。
レミアのヤツの同じ感じの髪型だが、この子の場合アイツよりも髪質がさらさらりとしていてすらっと伸び切っている印象がある。
顔つきは引き締まっていて(というより表情の問題かも)今は赤い瞳のキリリとしたツリ目で俺を真っ直ぐに睨み付けている。
……ただ、そんなことはどうでも良い。
なんでさ。彼女とは初対面だ。初対面のはずだ。
何故俺をそんなにキツく睨む。
何故真っ直ぐ俺の目を覗く。
そんなに覗き込まれたら対抗意識を持たざる負えないじゃないか!!
俺はヤツの瞳を正面から受け止め、瞬きもせずじっと見つめ返した。
……30秒程目線を交差させ続ける。
その間互いに瞬きは許されなかった。当然先に瞬きするコト等互いに出来る訳が無かった。
俺が目を見開き見つめ返した瞬間から俺達の勝負は始まっていた。
ヤツだってそれを把握していたのだろう。しっかりこちらに付き合って来た。
だが、ヤツは致命的な事に先に瞬きをしてしまったのだ。
俺は身持ちを楽にし、優雅に瞬きをしてどっしりヤツを見遣った。
向かいに居た少女はますます目をギラリとさせ、しかしすぐにぷいとそっぽを向いてしまった。
ふっふっふ。俺の勝ちだな!
「……ジン、どうかしたのかな?」
またかよ!?
俺は再び大将に声をかけられた。
今度も身の凍る思いで隣の人物と向き合った。やれやれ、寿命が縮んでしまうぞ!
「え、えっと、俺なんかしちゃいましたか?」
「いや、やけに嬉しそうににやにやしていたから……。RoAに配属されるのが喜ばしいのかな?」
「いや、そーゆーわけじゃ……。いえ! 配属は嬉しいですがにやにやする様なことじゃ……。いや、すっごい嬉しいですよ!? そうじゃなくて、事柄的にそーゆー風に表すべきことじゃないですよねっていうか……!!」
……何をいっているのだろうか、俺は。
俺のしどろもどろな返答に対して大将はフッと笑って来た。
「面白い少年だね、君は。……成る程、彼女が君を選んだ理由がますます知りたくなったよ。」
「え、選んだ? 彼女?? 何の事ですか、それ?」
大将の今の発言、幾つも引っかかるコトがある。
思わず俺は追求の声をあげた。
「ジン、君は大将に口答えを……。」
「ラクラス。いいじゃないか、別に。減るものは何も無いよ。」
大将は紳士的だ。俺の失礼を咎める事なく、そのまま答えてくれた。
「そして、『彼女』というのは、君の情報の教えてくれた人物の事だよ。すぐに合えるだろうが、私の口から正体を明かすのは気が引けるね。同様に”選んだ”という言葉の意味は、君自身がそのうち理解出来るだろう。」
「理解……?」
「いや、理解というよりも”把握”の方が近しい言葉かも知れないな。いずれ”把握”出来る時が来るはずだ。仮にその事柄を君が”把握”出来ないのなら、私にも永遠に理解出来ないだろうね。」
……???
大将の言葉はまるで謎掛けだ。
どう考えても意味が分かりそうに無いが、いずれ分かるのか?
やはりこの大物を目の前にして深い思考をする余裕は無いため、俺は考えを放棄した。
いずれ分かるんだな、うん、分かった。この人が言うならきっとそうなんだろう。
「さて、私は戻ろうか。ラクラス、君と話しているとついつい長話をしてしまうね。」
サヴァン大将はラクラスに緩やかに告げた。
「恐縮です。」
「おいおい、その言い方はやめてくれたまえ、友よ。」
大将は小さく左手を上げ、そのまま部屋から出て行った。
……あれ? 俺に対してはなにもないのね?
いや、なんかあっけなく終わったものだからさ。
あれだけいろいろ言ってくれた割には、帰り際は結構あっさりなのね?
後に残された俺は、なんとなく寂しいキモチでいっぱいになった。