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U.13「Xepsion」

器が発した無機質な声――


「名前を入力してください」


その言葉が室内に響いた瞬間、チュウネンは満足げに息を吐いた。


「……成功だ。魂の定着反応がある。イーコ、やったぞ」


だがイーコはすぐに違和感を覚えていた。

器の声には、上太郎の気配がまったくない。

魂は確かに宿っている。だが、そこに”上太郎”はいない。

イーコは静かに首を振った。


「……違う。これは上太郎の自我じゃない」


その言葉を聞いた瞬間、チュウネンの表情が変わった。

喜びが消え、冷たい光がその瞳に宿る。

そして――間髪入れずに言い放った。

「イーコ、これでお前の役目も終わったな。私はこの技術を完成させるために、お前を利用したんだ。」

イーコの心臓が跳ねた。


「……利用、した?」


今まで助けてくれたと思っていた人物。

共に研究し、共に戦い、共に上太郎を救おうとしていた仲間。

そのすべてが――偽りだったのか。

イーコの胸に、冷たい痛みが広がる。


「どうして……俺たちは仲間じゃなかったのか……?」


チュウネンは鼻で笑った。


「仲間? 企業戦士にそんな甘い概念はない。私は成果を得るために動くだけだ」


そう言うと、チュウネンは魔法を発動させた。

床に倒れている勇者の化身――上太郎の元の身体――と、魂の入った器を同時に浮かび上がらせる。


「企業戦士とは常に二手三手先を読むものなのだよ」


その言葉を残し、チュウネンは一目散に出口へ向かった。

その瞬間――家が大きく揺れた。

天井が砕け、巨大な腕が屋根を破壊して突き出てくる。

瓦礫が降り注ぎ、イーコは思わず身を伏せた。


「よう、イーコ久しぶりだな。」


現れたのは、序盤で倒したはずの成獣――

アルキタ・バコーン。


「ちょうどいいタイミングだ、バコーン。後は任せた。私は先に帰社する。」


チュウネンはそう言い残すと、器と勇者の化身を抱えたまま逃げ出した。

だが――


「名前を入力してください!」


器の音声が響いた瞬間、チュウネンの魔法が器だけを手放した。

器は床に落ち、鈍い音を立てる。


「……ちっ、後で回収させればいい」


チュウネンはバコーンに命じた。


「イーコを倒したら器も回収しろ」


そして完全に姿を消した。

残されたのは、イーコと――バコーン。

バコーンはイーコの首を掴み、持ち上げた。

その力は凄まじく、呼吸が奪われる。


「飼い犬に手を噛まれるとはこのことだ。


イーコお前はこれから俺の魔具人形の素材として使ってやるからな。」

イーコは苦しみながらも、言葉の意味が理解できなかった。

なぜ自分が素材に?

なぜバコーンが生きている?

思考が混乱し、視界が揺れる。

呼吸ができない。

意識が遠のく。

そのとき――


「名前を入力してください」


器の声が、また響いた。

イーコは薄れる意識の中で、助けを求めるように呟いた。


「……じょうたろう……」


その瞬間、遠く離れた場所で――

上太郎も夢の中で呟いた。

――ゼプシオン

異世界を救う使命を背負った、新しい自分の名を。

二つの声が重なった瞬間――


「承認しました」


器の目と額がオレンジ色に輝いた。

バコーンが振り返る。


「バコーン!?」


立ち上がる器。

その口から、確かに上太郎の声が響いた。


「やれやれだぜ」


バコーンは驚愕する。


「魔具人形の素材になった人間は自我を持たないはずなのになぜ。」

上太郎は肩をすくめた。


「しらねーよ」

バコーンは慌てて呪文を唱える。

「ヘンシン!」


バコーンのたばこの角が二本に増え、イーコを抱き寄せると叫んだ。

「この際仕方がない、オーバーライド!」


バコーンとイーコの身体が融合し、形を変えていく。

その姿は――巨大なカマキリのような異形。

「どうだ、これが俺の真の姿よ。カマ・セーヌとでも呼んでもらおうか」

上太郎は叫ぶ。

「イーコをどうした!」


セーヌは笑った。

「魔具人形の素材になった」

だが上太郎は動揺しなかった。

夢の中で教えられた”力”が、今ここにある。

「これは夢の中で出たところだぜ。そんな時はこれ」

上太郎は右腕を突き出し、手のひらを広げる。

「リラート!」

一瞬の静寂――

次の瞬間、セーヌの背中からイーコが飛び出した。

セーヌはオーバーライト状態のまま、混乱して叫ぶ。


「何が起こった」


上太郎は深くため息をついた。


「お前を本当の姿に戻しただけだ」


セーヌは怒り狂い、鋭い両腕を振り下ろす。

「それでも力はお前より強いはずだ!」


だが上太郎はその攻撃を片手で受け止め、軽く払い飛ばした。

倒れ込むセーヌ。

起き上がろうとした瞬間、上太郎が目の前に立っていた。

「お前はいったい何者なんだ。」


上太郎は静かに名乗った。

「俺の名前は上太郎。この異世界では正義の味方、ゼプシオンだ。」


そして渾身の拳を叩き込む。

セーヌは吹き飛び、地面に叩きつけられた。

上太郎は問いかける。

「何か言いたいことはあるか」


セーヌは苦しげに笑い、最後の言葉を吐いた。

「ほんとはイーコちょっと好きだった。」

その瞬間、セーヌは上太郎の背後で爆発した。


上太郎は肩をすくめた。

「やれやれだぜ」


「ぜ、プシオン……」

イーコは薄れゆく意識の中で上太郎の新しい名前をつぶやいた。

メスガキ・テコイレィ

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