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ある研究者の話。

 私は国立魔法研究所で働いている、レオという。

 ここにはありとあらゆる魔法に関しての研究を行っている。ここまで大きい研究所は世界中をみても草国にあるここぐらいだろう。さすがは、世界で最初に魔法の学校をつくった国だ。学び足りないもの、所員がスカウトしてきたもの、一度外に出たものの出戻ってきたものなど、いろんなものがここにいるが、皆一様に魔法について研究している。

 魔法については未だわからないことが多い。

 発動に呪文と魔法陣が必要と思われていたのが実は必要ないものであったり、魔力を身体にどう巡らせるかでできることが変わってきたり。

 これらは近年判明したことで、その証明のために研究所員はもちろん、魔法を使うものたちがあれやこれやと試行錯誤している。理解はできても、今までの経験を塗り替えるのは難しい。そういう意味では子どもの方が柔軟に対応できている。これからの子どもたちはもっと魔法を発展させていくだろう。

 だが、私がここで調べているのは魔法ではなく、その魔力の根源とも言える、竜のことだ。昔から語られている建国神話。世界を生み出した7の竜のことについて私は調べている。6の竜である、水、土、草、風、氷、火については昔の記録を見ても、時々目撃の記録がある。それに、それぞれの名を冠する土地に竜たちが住んでいると言われており、特に火竜と氷竜に関しては自分の住む山から基本的には出てこようとはしない。だが、こちらが会いに行けば会えるというわけではない。神話に出てくるような相手なのだから、おいそれとは会えないというわけだ。

 そして私が一番知りたいのは、最後の竜、白竜のことだ。

 白竜に関しては目撃情報はほとんど皆無に等しい。名前だけが一人歩きしている。もしかしたら、何かの教訓にしたい思いがあり神話に混ぜ込まれだけなのではという仮説もあるが、私は実在していると知っている。

「所長は、今日も竜のことですか?」

「ああ。これが私のできることだから」

「そうは言いますけど、いるかもわからない竜の保護施設なんて作ってどうするんですか? お偉方に怒られません? 他の研究にお金降りなくても知りませんよ」

 職員が心配そうにしているが、ここの主たる研究である魔法の研究を棄ておけるほど貴族様も馬鹿じゃない。それに、とあるものがもたらす研究成果はここにしか届かないのだ。

 OZとだけ名乗るその人は、研究所に研究資料と成果のみを送り付け、『振り込みよろしく』と金銭を要求してくる人であるが、内容としては誰もが飛びつくものであるので、払う価値はある。先ほど話した、無詠唱の件もOZからもたらされた。

 OZが誰かは誰も知らない。ということになっている。実際、過去の記録を見ても記載はない。

 彼の名前はオズヴァルト。彼は、私の父だ。いや、父だった人というべきかもしれない。今はまた違う名前を名乗っているだろう。別の場所で、別の姿で、別の家族と過ごしているのだろう。私は、顔を上げて窓の外を眺めた。


 私には父、母、そして姉と兄が一人ずついた。

 平民の割には恵まれていた方で、父が貴族と取引のある仕事をしていたことも関係していたと思う。

 平和な家庭だった。3人とも魔法の学校に通わせてもらえた。姉も兄も学校の中では魔法が得意な方で、私は少し苦手だった。父が私たちの小さい頃から魔法の使い方を指導していたこともあって、苦手とはいえ他の生徒よりも使えていたのだとは思う。姉には、お前も使えるよと言われていたが、それでも苦手感は否めなかった。姉は青、兄が赤である中、私の魔力が白だったからだ。

 だが、ある事件が起こった。

 両親とこのまま生活することが厳しくなってしまった。そこで両親は、成人を迎えている姉と兄を残し、私だけを連れて街を出た。そこで初めて、父がオズヴァルトということ、OZとして魔法の研究をしていることを教えられた。父は普通の街の中では生活できないと話した。もう何年も歳をとっていないのだという。名前も姿も偽って生活しているが、『もう知っちゃったんだから、これでいいだろう?』と私の前ではおそらく本来の姿で過ごしていた。

 新しい土地で生活が始まったが、学校にはちゃんと行きなさいと再び学校に通わされた。

 行っても変わらないのにと思っていたのに、『お前は自分の力のことをちゃんとわかってないだけだよ』という父に背中を押され、渋々通っていた。だが、そこで得たものが今の私の力となっている。私の家族となってくれた人もそこで出会った。

 今でこそ、自分の力の使い方を理解しているが、魔法とはそれでは語り尽くせないものである。可能性はまだまだある。特に白の魔法には。この力を使えて一番嬉しかったのは、空を飛べることだった。飛ぶ、というより浮いているという感覚に近いかもしれないが。見られない景色を見られることが、あの両親についていけたことが何より嬉しかった。


 しかし、両親は私の前からもいなくなってしまった。

 姉と兄の時のように、置いて行かれた。

 わかってはいた。そろそろだろうと思っていた。私も結婚し、家庭を持った。成人したら手を離す。それが彼らの中では決まりごとのようになっていることを、なんとなく気づいていたから。でも、それでも連れて行って欲しかった。あなたたちの息子なんだと、言いたかった。同じ世界を見ていたかった。私もそこに加わりたかった。

 きっとそれを口にしても、『お前はお前の世界で生きなきゃいけないよ』と言われるだけなのはわかっていた。それでも、知ってしまったからには戻れないのだ。戻りたくなかったのだ。

 私は父と揃いで買った時計を握りしめた。

 置いていかれたなら、追いかければいい。こちらが追いつけばいい。

 そのためにはもっと知らなければ。彼らのことを、世界のことを。

 そして彼らのためにできることを。


 

 白き竜が鳴いていると報告が上がった。

 人が白竜を確認した初めての事例だと研究所内は盛り上がっていたが、どうも様子がおかしいとのことだった。白竜の下にあっただろう街は破壊されており、その周囲をくるくると回りながら鳴き叫んでいると。

 私は焦った。傍に一人の男がいなかったかと報告を上げた職員に確認した。私の焦りに、職員は強張ったが、ゆっくり首を振った。

 まずい。

 私はここから見えるはずもないのに、屋上まで走って登る。

「何を焦っておられるんですか!?」

「いいから君たちは観測を続けてくれ! 人の姿がそばにあればそれでいいんだ!」

 もしかしたら。

 そんな不安が、私の頭をよぎる。私も室内に戻り、現場の映像を見るべきなのかもしれない。でも、見ているだけでは気が済まない。本当は現地に行きたいと今にも飛び出しそうになる自分を抑える。

 後ろから階段を駆け上がる音が聞こえた。

「所長! 人かどうかはわかりませんが、白い球のようなものが白竜のそばに浮いていると! 中に誰かいそうだと」

「わかった」

 あの人は、本当に父のことを大事にしていたから、ちょっとでも傷つくことを嫌がった。危険を犯すことは拒んだ。自分から離れていくことを許さなかった。そして、今白竜は泣いている。治癒が間に合わなかったのだろうか。

「ですが、所長! 白竜へ手を出すものがいて、また街が!!」

 そういうことか。

 白竜の怒りに触れたのはそちらだというのに、見たこともないものを見てしまった恐怖に駆られた人々が撃とうとしている。許されるわけもない。

「所長!?」

 私は、地を蹴って空へと跳び上がる。そのままの勢いで、どんどん上へと上がっていった。

 気づいてくれればいい。気づいて欲しい。

 私は、自分の魔力を急速に回らして、魔力の塊を空に放つ。何度も何度も空に放つ。

 昔、父が言っていた。

『自分の子どもの魔力は区別がつくよ。ちょっとずつ違うんだよ。意外と』

 お前は母さん似だからそのうちわかるよと言っていたが、私には詳しいことはわからない。でも、それが本当なら、きっと気づいてくれるはず。

 そうしているうちに、風の流れが変わり、大地が少し揺れた気がした。遠くの方から大きな魔力を持った何かが向かってくる。

 ああ。気づいてくれた。よかった。ちゃんと覚えててくれた。

 大丈夫。なんとかする。なんとかなる。今度は私が、力になる番だ。

 白き竜が視界に映り込んでくる。

「また会えて嬉しいよ。母さん」

 私は白竜の姿に目を細め、控えていた職員へと指示を飛ばした。


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