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【脱線五・歳月と兼好】

一三一七年三月、花園天皇の新内裏が造営された。だが、内裏を訪れた玄輝門院は言った。

『閑院殿の櫛形の穴は、丸く、縁もなくてぞありし』(徒然草・三十三段)

“閑院殿の覗き窓は、丸く、縁もなかったわ”

閑院殿とは一二五九年に焼失した里内裏を指す。女院が少女時代を過ごした内裏であった。五十八年も昔、十四歳の少女が覗き窓からみた光景。後深草天皇。それは、余を持って代えがたい想い出であった。女院は七十二歳の老躯をおし、内密で建造中の内裏に足を運んだ。その数は二度に及ぶ。女院の言葉は、聞く者をして捨てがたい何かがあった。

件の覗き窓はなおされた。


『甲香は、ほら貝のやうなるが』(三十四段)

“甲香は、法螺貝のような形をしている”

『小さくて、口ほどの細長にさし出でたる貝の蓋なり』

“小さく、口の辺りが細長く突き出ている貝の蓋である”

甲香は、現代でもお香の材料として使われる貝である。当時、都の貴人にもてはやされた。

『武蔵国金沢といふ浦にありしを、所の者は、「へなだりと申し侍る」とぞ言ひし』

“武蔵の金沢という浦では、「へなだり」と呼んでいる”

金沢は兼好法師の故郷である。兼好法師の幼き日、甲香は確かに「へなだり」だった。


『八つになりし年、父に問ひて云はく』(二百四十三段)

“八つの頃、父に問うた”

『仏は如何なるものにか候ふらん』

“仏とはいかなるものじゃ”

『人の成りたるなり』

“人がなるものだ”

また問うた。人がなんで仏になる。

『仏の教えによりて成るなり』

“仏の教えでだ”

教えをくれた仏には誰が教えた。先の仏だ。

じゃあ、第一の仏は、どうやって仏になった。

『父、「空より降りけん。土よりや湧きけん」と言ひて笑ふ』

“父は「さて、空から降って来たのか。土から湧いてきたのか」と言って笑った”

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