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第三章:天下三分 ―戦国の種―【謀反の流儀】

―某日京周辺、さる人達の会話より―

『御子はおはすや』(徒然草・一四二段)

“お子さんはいますか”

『一人も持ち侍らず』(同)

“一人もいません”

『さては、もののあはれは知り給はじ。情なき御心にぞものし給ふらんと、いと恐ろし。子故にこそ、万のあはれは思ひ知らるれ』(同)

“だったら、人の情けなど分からないでしょうよ。貴方心が冷たいと思うと恐ろしい。子がいてこそ、よろずの情けは分かる”


 この話を人伝に聞いた兼好法師は、めずらしく底意地の悪い顔を引き締め、こう記した。

『その人の心に成りて思へば、まことに、かなしからん親のため、妻子のためには、恥をも忘れ、盗みもしつべき事なり』(徒然草)

“その人の心になって思えば、まことに大事な親のため、妻子のため、恥をも忘れ、盗みをも犯すのだろう”

 かけがえのない宝があるからこそ、人は狂うことができる。


三代将軍義満の時代。山名時氏という武将は、子供達にこんな話をした。

『我建武以來は當御代の御かげにて人となりぬれば』(難太平記)

“建武年間以来、わしは、将軍(尊氏)のおかげで人となった”

『元弘以徃はたゞ民百性のごとくにて上野の山名といふ所より出侍しかば』

“元弘以前(鎌倉幕府倒壊まで)は、上野の山名で、百姓のような暮らしをしておった”

今川了俊によると、時氏老人は、文字の読み書きさえ、ろくにできなかったという。

『渡世のかなしさも身の程も知にき』

“じゃから、わしは、世の辛さも、身のほどもわきまえておる”

『軍の難儀をも思ひしりにき』

“戦の難儀も思い知っておる”

そう言った上で、時氏は、将軍義満に対して忠節を尽くすよう、息子達に釘を刺した。

さて、これを老人の小言で終わらせないため、ある史実を指摘しておく。この老人、本章の時期に、“幕府に反旗を翻している”。そして、あろう事か、幕府を追い詰めた。身をわきまえる人物が、何故背いたのか。如何なる運命に抗ったのか。それが本章である。

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