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【人間一人】

一三二四年大晦日、朝廷で追儺の儀式(鬼を追い払う儀式)が行われた。この年の上卿は近衛経忠である。経忠が着座した時、ひざつきを忘れて、外記(進行係)を呼んだ。

 追儺の儀式では、まずひざつきを敷き、そのあと外記を呼ぶ。

 その様子を見ていた、老衛士・又五郎はつぶやいた。

『先づ、軾を召さるべくや候ふらん』(徒然草・百二段)

“(外記を召す前に)まず、ひざつきを召すのでしょうに”

生き字引のぼやきに、周囲は笑う他なかった。


 一三四四年三月、春日顕国は独り関東にいた。思えば軽薄な“あの御方”のせいで、親房卿は勝機を失った。最早、卿は東国を振り返らず、顕国はとり残された。

『我國者天祖經始之地。日神統領之州也』(関城書)

“我が国は天祖始まりの地。日の神が治める州である”

『欲圖逆節者必絶種類世之所知』

“逆賊が必ず滅ぶのは世の知るところ”

『今尊氏等爲躰非可知政道之器。無可貽子孫之謀』

“今、尊氏は政道を知らん。後継者のことをまるで考えておらぬ”

確かに、尊氏の子義詮は京になく、鎌倉にある。外部から見て、これは異常であった。だがそれは、尊氏がかつて、弟直義に全てを譲ると誓ったからである。

『家僕師直假虎威凌重代之武士。彼等一族誇張。已比擬高時等行事』

“執事・高師直は尊氏の威を借りて、諸大名を抑え込み。一族の行い、北条高時と変わらぬ”

戦の中にあって、敵中央の致命傷に気付く眼。卿には顕国には見えないものが見えるのだろう。しかし、北畠親房は味方の屍を顧みない。顕国は、そんな卿を追いたくなかった。


終わらせてたまるか。四日再挙した顕国は沼田城を占拠し、七日常陸に進み、大宝城を奪回した。しかし、八日、慌てた幕府軍の反撃を前に、遂に顕国は捕らわれた。

―切れ― 

九日、顕国は処刑された。顕国の首は、同月京に運ばれた。顕国の奮戦がなければ、常陸でここまでの犠牲は出なかった。復讐に燃える幕府では、顕国の首を大通りで引き回せという意見が出た。だが、そうした声は諌められ、顕国の首は六条河原に晒されることになった。

顕国の死に触れた尊氏は、薩摩谷山城に上陸した懐良親王への対応に忙殺される島津貞久への書状の中で、「顕国の死で、東国は鎮静化した」と述べた。

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