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【神皇正統記と神国】

一三四〇年五月二十七日、高師冬率いる幕府軍は、ようやく駒城を陥落させた。

―掛かった―

だがその二日後、悪夢が幕府軍を襲った。勝利に沸く本陣を突如南朝方が突いたのである。

『廿九日酉剋、飯沼館没落、同夜師冬陣屋悉焼払逃走候了』(相楽結城文書・欠年六月一日北畠親房御教書)

“二十九日、(高師冬の本陣)飯沼城を落とした。師冬は陣を焼き払い逃走した”

師冬は命辛々戦場から逃れ、かくして駒城を巡る戦いは北畠親房の勝利に終わった。


 今、奥州の結城親朝が常陸に来援すれば、数年前に息子顕家と築いた勢力を回復できる。一度撃退した高師冬が再び来るまで。今。親房の心は逸った。しかし、勝利を報じ、出兵を求めた結城親朝は来援できなかった。周囲に阻まれ、常陸までは進出できなかったのである。実のところ、親房を取り巻く情勢は、何一つ変わっていなかったのである。


では、親房は何故戦うのだろうか。

そもそも後醍醐天皇は死んだのである。当時の南朝を知るものが感じる素朴な疑問である。こののち、「日本」は北畠親房のために試練を迎える。その端緒は間違いなくこの時期に親房が記した「神皇正統記」という書物にあった。

『大日本者神国也』(神皇正統記)

“大日本は神国である”

『天祖はじめて基をひらき、日神ながく統を伝へ給ふ。我国のみ此事あり。異朝には其たぐひなし。此故に神国と云ふ也』

“天祖が国をひらき、日輪の神が永く(今日まで)その血統を伝えてきた(いうまでもなく皇室の事である)。他国に類がない。この故に、我が国は神国なのである”

都で隠居生活を送る北朝の花園法皇がこれを読んだら咎めるだろう。

『諂諛の愚人以為えらく。吾が朝は皇胤一統し、彼の外国の徳を以て鼎を遷し、勢によりて鹿を逐うに同じからず、故に徳微なりと雖も隣国窺覦の危なく、政乱ると雖も異姓簒奪の恐なし、これその宗廟社稷の助け余国に卓礫する者なり』

(誡太子書・「日本中世史を見直す」二三四頁~二四四頁)

“天皇におべっかをつかう愚か者は、我が国は皇統が一つだから、朝廷が衰退して政治が乱れても、外国のように異姓の者が天皇の位を簒奪することはない。これぞ神々の助け、我が国が他国に勝る所以だ、と考えている”

我が国は神国という南朝。それを愚と捉える北朝。親房の戦いの根には、これがある。

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