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【青野原の戦い】

 一三三八年一月二十八日、奥州軍は東海道を抜け、美濃を進軍していた。

美濃を突破すれば、京が射程に入る。

対する足利方は、何としても、ここで奥州軍を止めなければならなかった。

美濃国守護の土岐頼遠(土岐頼貞の子)は、上杉・桃井・宇都宮・今川・吉良らに協力を要請し、土岐山から打って出た。

 

青野原が、両軍決戦の場となった。

この地は、後年「関ヶ原」と呼ばれる地である。

「青野原の戦い」の特徴は、両陣営の統率が、ろくにとれていなかった事であろう。

同格の将で構成され、明確な指揮官が不在の足利方は言うに及ばず。

奥州軍も、実態は、顕家ら奥州勢に、関東勢(新田等)・北条時行(北条残党)・東海道勢(宗良親王ら)が後から加わった寄せ集めであり、一個の集団ではなかった。

有り体に言って、「ばらばらの集団が並走している」状態であった。


自然、両軍の戦いは、各部隊が現場の判断で無秩序に交戦する形となった。

 こうした混戦は、数で勝る足利方の統一行動を妨げ、士気で勝る奥州軍を有利に導いた。

『桃井。宇津宮勢等うち負けし』(難太平記)

“桃井・宇都宮勢は、打ち負けた”

桃井らは支えきれず、赤坂宿の南を、杭瀬川の方に退いた。

 土岐頼遠も敗れ、東の長森城に逃れた。

 

この戦いに参加していた今川範国も、奥州軍に押され、抗瀬川の堤防の上に退いていた。

そこに、非人の住む小屋があった。

(なお、この時代は、身分がある時代である。

そこら辺、茶を濁す意義を感じないし、こうした実態をありのままに記す方が、意味があると考えるので、当作品では、こののちも「記録通りの表現」を使う)

さて、範国はその小屋で、休息を取る事にした。

しかし、この日の激戦で、今川の家臣達は、気が立っていたらしい。

『黑田の味方に加り給べし』(同)

“殿、(すぐにここを出て)黒田の味方に合流しましょう”

だが、外は暗い。雨さえ降り出していた。

『只是にて明日御方を可待』(同)

“ここで(夜を過ごし)、明日、味方が来るのを待てば良いではないか”

範国は、いらだちを隠そうともせず、ぶっきらぼうに、そう答えた。

 今川家の当主は、雨の日に戦場で休息すると、ろくな目に遭わない宿命にあるらしい。

『如此のおこがましき大將をば燒ころすにしかじ』(同)

“こんな馬鹿な大将は、焼き殺してやる”

範国のうかつな発言に、米倉八郎右衛門という家臣が激こうした。

自分は戦場で勇戦し、手傷を負ったというのに、この馬鹿大将は何を言ってやがる。

小屋で休み、そこを敵勢に襲われたら、一溜まりもないではないか。

殿は戦を知らぬ。知らぬなら教えてやるまでだ。

眼に獰猛な光を宿した八郎右衛門は、範国らの休む小屋に火をかけた。

雨がどうした。夜がどうした。

小屋を燃やせば、ほれ立派な灯りとなるではないか。

闇夜に“大きな灯”が出現した。

これに慌てた範国は、命辛々小屋から抜け出し、軍を発した。

その夜、今川勢は、この“灯り”をたよりに、黒田にある味方の陣まで行軍したという。


北畠顕家は、「青野原の戦い」で、足利方の武将を次々と退けた。

しかし、それは、奥州軍が死力を尽くしての戦果であり、犠牲は小さくなかった。

そして、にもかかわらず、敗走した足利方の各隊は、今川勢のように味方と合流していったのである。奥州軍は、勝ったのではなく、単に青野原を切り抜けただけであった。


青野原の先には、黒地川がある。

黒地川を渡れば、近江に入れる。京まであと少し。

だが、黒地川には、足利直義が派遣した高師直・高師泰・佐々木導誉らが陣取る。

背後には関東・東海道の足利方を残している。このまま進んで勝てるか。

越前の新田義貞は、南下してくる気配すら見えない。


満身創痍の軍では、ここまでが限界だった。

『打ち破りかたくて、顕家卿伊勢国へ廻りて』(保暦間記)

“顕家卿は、敵を打ち破る事が困難と判断し、(軍を突如)伊勢国に向けた”

これが、後世謎とされる、「京を目前とした、奥州軍突然の転進」である。

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